「どんなときも私は私」元宝塚娘役・花束ゆめさんが考える「セルフラブ」とセカンドキャリアへの挑戦
元宝塚歌劇団娘役の花束ゆめさんは、2022年12月に退団した後、現在はダンスやストレッチクラスのインストラクター、役者として活動しています。花束さんのSNSでは、カフェやファッションなどおしゃれで楽しいテーマだけでなく、保護犬活動やジェンダー、ヴィーガンなども発信中。前編では発信の際に大切にしていることやジェンダーを学んでからの変化についてお伺いしました。後編では、セルフラブやセカンドキャリアについてお話いただいています。(取材は9月中旬に実施)
どんな肩書きがあっても、私は私。
——花束さんはヨガに関することもSNSに投稿されています。ヨガからどのような影響を受けましたか。
ずっと体を使うことを続けていたので、ヨガを専門的に学び始めて、解剖学とリンクしているところに楽しさを感じます。ヨガ哲学からの学びも大きいです。実際に哲学書の言葉を頭の中でかみ砕いたり、一緒に勉強している人たちとディスカッションをしたりすると、私が大切にしていたこととの共通点に気づくことも多いです。気持ちを整えるという意味でも私に合っていて、日々魅力を感じています。
現在、9月末で修了するヨガのインストラクターの養成学校に通っていて、10月からインストラクターとしてデビュー予定です。 ※取材は9月中旬に実施
——セルフラブについてはどのように考えていますか。
日本人は自己肯定力が低いと言われていますし、日々生活をする中でも、自分を大切にすることの難しさを感じています。そこで今心がけているのは、自分と自分を取り巻くさまざまなものを切り離すこと。自分らしさを保ち、自分が傷つくことを防げると感じますし、自分を大切にすることでもあると考えています。私が女性であろうと、インストラクターであろうと、元宝塚という経歴があろうと、私は私ですし、人は人なのですよね。
セルフラブを謳い始めてから「ナルシストとは違うのですか?」など、少し難しく感じるといったお声をいただくことも多いです。セルフラブという言葉から「自分を愛する」というイメージを持つ方が多いと思うのですが「他人を思いやるのと同じくらい、自分のことも思いやりましょう」といった方が伝わりやすいのかもしれません。
ヴィーガンの選択肢を尊重したい
——ヴィーガンについても発信されていますが、どのような思いがありますか。
動物保護活動で出会ったお友達が完全にヴィーガンで、それから興味を持つようになりました。私自身、動物性のものを食べないことに強いこだわりを持っているとは言えないのですが、周りの話を聞いていると、ヴィーガンを選択する理由を魅力的に感じます。
たとえば、畜産業ではたくさんの温室効果ガスを発生させてしまうということや、牛のゲップやおならからメタンガスが出るという点から、ヴィーガンの選択は環境問題に貢献できること。そして動物愛護という観点。さらに先日、畜産業はフェミニズムにも反するという興味深い考え方も耳にしました。出産や搾乳などはメス(女性の性機能)の搾取だという考えです。全ての考えに100パーセント賛同しているとは言えませんが、私自身考えることがたくさんありました。
現在ヴィーガンは選択肢としてマイノリティです。ゆえに、どこのレストランでもヴィーガンメニューを提供できるわけではないですし、ヴィーガン対応のお店を探すのはまだまだ難しいので、お友達と食事をするときなどは特に、ヴィーガンにこだわらずに食事を楽しむようにしています。
一方で、ヴィーガンメニューのあるお店が増えたら、ストレスなくヴィーガンを選択できますよね。「消費活動は投票」と言われますが、ヴィーガンを選択する人が増えれば、作り手もメニューの選択肢のバランスを見直す可能性があると思います。私の好きなヴィーガンレストランのシェフが「1人が完全ヴィーガンになるよりも、100人がヴィーガンの選択肢を持ち、週に1回でもプラントベースの日を作る方が意味がある」とおっしゃっていたことには賛同していて、もっと気軽で一般的な選択肢になってほしいと思っています。
ヴィーガンに限らず、購入は投票だと思って選択していきたいです。
——エシカルな消費行動については、どう捉えていますか。
正直なところ、エシカルやSDGsに関してはまだ離れたところにいる感覚があります。というのも、在団中はキラキラしているものばかりに目を向けていましたし、お衣装以外のお仕事の洋服が自前だったことや、入り・出待ちでお客様にお会いする機会も多く、お洋服はいくつも必要でした。スキンケアの勉強もしていたのでメイク用品もたくさん試していて、エコやエシカルとは遠い生活をしていました。
関心を寄せるようになったのは最近のことで、退団してから次に自分が思い描いている理想の方や尊敬する方を思い浮かべ、その方々を見ているうちに、SDGs・フェミニズム・環境保護・動物保護・ヴィーガン……色々なことが繋がっているとわかって、自然と私の中にも選択肢が増えていきました。
——理想としている方とはどなたでしょうか。
有名な方ですと、二階堂ふみさんです。エシカルな選択をされていたり、動物保護や環境問題に関する発信や、ELLEの連載では映画監督の西川美和さんと映画界の環境を良くするための対談をされていたりと、ソーシャルグッドな活動をされていて尊敬しています。
他にはフィットネストレーナーで、一般社団法人ATHENA(アテナ)というフェミニズムに関する発信をしている団体の代表のYuinaさんです。彼女とは共通の友人を通じて知り合ったのですが、彼女と出会ったことで、もっとフェミニズムについて学びたいと思いましたし、私の人生の選択肢の幅も広がりました。また、動物保護活動で知り合った同い年の友人からは、ヴィーガンやサステナブルな選択について教えてもらって、身近な人からも良い影響をいただいています。
「広い世界を見てみたい」という思いが湧いてきた
——退団を決めたときの心境と、セカンドキャリアについての考え方についてお伺いします。
一般的に役者さんは出演したい作品を見つけてオーディションを受けたり、オファーがあって出演を検討されたりと、ご自身でさまざまな選択をされていると思います。宝塚歌劇団では出演作品やお役を選ぶ機会は基本的にはなく、いただいた作品とお役にしっかり向き合うことが宝塚のスタイルです。そうした中で、自分自身の選択では出会わなかったであろうお役を演じる機会もあり、新たな自分を見つけ、成長できることもたくさんあります。
一方で、もっと広い世界を見てみたいという気持ちも出てきました。たとえば多くの役者さんは、下積み期間にアルバイトをしながら俳優業を行うと思いますが、宝塚では入団1年目から給料制でアルバイトなどはせず、舞台に立つことに専念できる環境にあります。それがありがたいことであると同時に、外で何かに挑戦することは難しくもあります。もっと社会と繋がってみたい、貢献してみたいという思いから、外の世界に一歩踏み出すのも選択肢の一つであると考えました。
退団後のキャリアについては特に決めてはいませんでした。今のようにダンスのインストラクターをすることも、表舞台に立つお仕事をすることも全然考えていなくて。ただ、やってみたいことはたくさんあったので、不安より期待が大きかったです。会社員として働くことにも興味がありましたし、勉強が好きだったので、両親からは大学進学をしてもいいとも言われていました。時間を重ね、依頼をいただいてお仕事をしていく中で、フリーランスとしてやりたいことをやっていくことが今の自分にあった働き方だと思い、今はその選択をしています。
——Instagramでは丁寧に言葉を選んで投稿されていますが、文章を書くお仕事に興味はありますか?
あります! 何かを伝えることはすごく好きですし、今は自分のSNSで楽しみながら伝えたいことを書かせていただいていますが、機会があればお仕事としても挑戦してみたいです。
完全初心者にもダンスを楽しんでほしい
——花束さんが開催されているレッスンではwell-beingを掲げていますが、どのようなレッスンを行っているのでしょうか。
私が開講しているクラスは完全に初心者の方を対象にしています。一般的に初級といっても幅が広く、大手のダンススタジオで初級コースを受けたら、1年も2年も初級を続けている方と一緒で気後れしてしまったという声を伺ったこともありました。
色々な背景があって、今までお時間を取れなかった方々がダンスに挑戦しようと思ったときに気軽に行くことのできるスタジオにしたいです。人生を振り返ったときに「やっぱり挑戦しておけばよかった」と思う事柄を少しでも減らすお手伝いができればと思っています。
また、気持ちを言葉にすることはストレス発散や心のケアになりますが、対象物がないと難しかったり、そもそも思いを言語化するのが苦手だったりと向き不向きがあると思います。曲に乗せて体を動かすことで心が軽くなりますし、ジャズのクラスでは、歌詞に前向きな要素があるものを選曲するようにしています。歌詞を感じられるような振り付けで踊ることによって、受講生の方からも「気持ちが解放されました」という感想をいただきます。そういった時間をwell-beingとして一緒に共有したいです。
——キャリアを変えることや新しいことを始めるには勇気が必要ですが、実際にご経験されたうえで、今悩んでいる方にメッセージをいただけますか。
転職するにしても習い事を始めるにしても、そこで出会った人たちがすごくかっこよく見えて「私なんて」と思うこともあるかもしれません。でもそれはたまたま早く出会って続けていただけで、多くの場合は最初から上手くできなくて当たり前だと思います。今からでも自分が憧れる人のようになれる可能性はあります。それに、新しいことに挑戦し、楽しく取り組んでいる姿そのものがかっこいいと思いますし、極めたいと思うならば、それも美しいと感じます。
転職については、日本社会での働き方はまだ進化途中だと思うので、今苦しいと感じていることが、転職した先では全然苦しくないこともあると思います。やりたいことを決めてから進むのも計画的で素晴らしいと思いますが、私は環境を変えてみて初めて気づく自分の強みや良さがありましたし、環境を変えたからこそ見えた目標や、やりたいことも見つかりました。
私自身は大きなお仕事をしたり、起業したりと、わかりやすく何かを成し遂げたわけではありませんが、誰かを思ってお仕事をしたり、色々な問題と向き合って発信を続けられる、今の自分の環境や生き方が好きです。自分のこともより大切にできるようになりました。
【プロフィール】
花束ゆめ(はなたば・ゆめ)
2017年宝塚歌劇団に入団、雪組に配属。娘役として舞台に立つ。2022年12月に退団。現在はダンスやストレッチクラスのインストラクターのほか、役者として舞台に出演するなど幅広く活動。
■Instagram:@hanataba_yume
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