幸せなはずの結婚・昇進でうつになるのはなぜ?臨床心理士が解説する【ポジティブとうつの関係】
「あれだけ望んでいた昇進なのに、気持ちが落ち込んで立て直せない」「新天地で頑張ろうと思っていたのに、引っ越し後から動けない」楽しみにしていたポジティブな出来事のあとに、心や身体が疲れてしまった経験はありませんか?実はポジティブな出来事も「ストレス」となり、「うつ」を引き起こすことがあるのです。今回はポジティブとうつの関係性とともに、対処法についてもお話しします。
ポジティブな出来事もストレスの原因になる
ストレスの原因を「ストレッサー」と呼びます。
私たちはネガティブな出来事をストレッサーだと考えがちですが、実際には私たちに刺激や変化を与えるものは、すべてストレッサーとなりえます。
つまり、結婚・引っ越し・昇進といったポジティブな出来事であっても、私たちに刺激や変化をもたらす以上、ストレッサーになってしまう可能性があるのです。
ライフイベントのストレスを見てみよう
「ポジティブな出来事がどれくらいストレスになるのか」を知るときに役立つのが、ホームズとレイエの社会再適応評価尺度です。
これは「結婚」によるストレスを50としたときの各ライフイベントのストレス得点を示したもの。
下の表に一部を抜粋して掲載しています。
この表を見ると、「結婚」のストレスは「解雇・失業」というネガティブな出来事よりも大きいことがわかります。
また、昇進に関連する「仕事上の責任の変化」や「個人的な輝かしい成功」も「上司とのトラブル」のようなネガティブイベントより大きいストレス要因となることが見えてきます。もちろん、「住居の変更」でも少なからずストレスがかかります。
このように、「喜ばしい」「嬉しい」ことでも、心や身体にストレスをかけ、不調を引き起こす可能性があるのです。
うつになったら?
過剰なストレスがかかると、私たちは「抑うつ」に陥ることがあります。ポジティブな出来事で「うつ」になったら、どう対処すれば良いのでしょうか。
一時的な「抑うつ」は誰にでもある
抑うつとは、気分が落ち込んだり、憂鬱な気持ちにとらわれたりすること。過剰なストレスによって一時的に抑うつの症状が出ることは誰にでもあります。
抑うつ症状を和らげるには、ストレス要因となる刺激や変化が少ない生活を送るのがおすすめ。
・心地のいい音楽や香りに包まれる
・暑すぎず寒すぎない部屋で過ごす
・胃に負担をかけすぎない食事をとる
・お風呂にゆっくり浸かる
・睡眠をたっぷりとる
など、自分の心と身体にやさしい生活をしましょう。
なお、やけ食いやお酒など「強い刺激」によるストレス発散は逆効果。一時的にはすっきりしても、あとで「どうしてあんなことをしたんだろう」と後悔し、さらなる抑うつの波が押し寄せる可能性があります。
抑うつが持続する場合は病院へ
「抑うつ」が2週間以上持続する場合は、「うつ病」が疑われます。精神科や心療内科を受診してみましょう。
・精神科:抑うつに加え、不安やイライラなど「心」の症状が強く出ているときにおすすめです。
・心療内科:抑うつに加え、頭痛・腹痛・食欲不振など「身体」の症状が強く出ているときにおすすめです。
「薬を飲むのは不安」という方は薬物療法だけでなく、気持ちや考えを整理する認知行動療法などの治療を受けられることもあります。ぜひ医師に相談してみてください。
おわりに
ポジティブな変化を迎えて「さぁこれから!」というときに「うつ」になると、「なんとかしなければ!」と焦ってしまうもの。しかし、無理をすればするほど、さらなるストレスを背負いこみ、心と身体の状態は悪化してしまいます。
しっかりケアすれば、短期間で回復できますから、焦らず心と身体のペースに合わせて過ごしてみてくださいね。
AUTHOR
佐藤セイ
公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。
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