【乳腺外科医がアドバイス】治療で後悔しない、振り回されない「医療と医療情報との上手なつき合い方」

 【乳腺外科医がアドバイス】治療で後悔しない、振り回されない「医療と医療情報との上手なつき合い方」
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インタビュー連載「乳がんと向き合う」では、意外と知らない「乳がんのこと」、「乳がんについての正しい知識」を、啓発運動を行う乳腺科医師たちで結成された一般社団法人BC Tubeに伺ってきました。そBC Tubeが、2023年3月に「上手な医療のかかり方アワード」で厚生労働省医政局長賞を受賞。そこで今回は、これまでの活動の振り返りと、医療と医療情報とのつきあい方についてインタビューしました。

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コロナで多団体とつながりを強化。今後の課題は無関心層へのアプローチ

― 一般社団法人BC Tubeは、コロナ禍の2020年にYouTubeチャンネル「乳がん大事典【BC Tube編集部】」を開設し乳がんの情報発信をスタートしました。まずはこの3年間を触り返り、感じたことを教えてください。

伏見淳先生(以下、伏見):ピンクリボン活動を行っている団体は、コロナでオフラインからオンラインに活動の場を移行しなくてはいけない状況になりました。一般社団法人BC Tubeはコロナを機にYouTubeを中心とした情報発信を始めたので、渡りに船というか、コロナを機に他団体とのつながりを深めて一緒に活動できたのはよかったと思います。日本では2000年代前半にピンクリボン運動が始まり、約20年の間に検診受診率は劇的に上がりました。それは一重に運動に関わってきた諸団体のおかげであり、オフラインの活動は今後も継続的に必要になると思います。一方でオンラインメディアを見る時間が長くなったことで、オンラインの啓発活動を増やす必要性があり、そうした流れにのって有意義な活動ができていると感じます。

― YouTubeでの啓発活動を続ける中で、見えてきた課題はありますか?

寺田満雄先生(以下、寺田):無関心層へのアプローチは大きな課題だと感じています。確かにピンクリボン運動は一定の成果をもたらしましたが、最近の検診率を見ると横ばい状態。次の一手を打たないとさらなる検診率アップは難しいと感じています。検診に行かない原因は一人ひとり違うと思うので、全員に同じアプローチをするのではなく、原因を整理してそれぞれに合ったアプローチ法を検討する必要があると思います。

田原梨絵先生(以下、田原):自分は乳がんにならないと信じている人、乳がんの罹患率が上がっていること自体を知らない人がとても多いという印象があります。コロナ禍では正しい情報に対する判断力を問われましたが、乳がんに関しても国民全体のヘルスリテラシーを高める必要性を感じています。

― 2021年10月には、ブレストアウェアネスを広めるためにクラウドファンディングを行い3,372,000円の支援金が集まりました。初の試みを振りかえって感想を聞かせてください。

伏見:いただいた支援金をもとにブレストアウェアネスのリーフレットを作ったところ、全国から配布希望の連絡があり、これがオンラインの波及効果かなと感じています。今回のクラウドファンディングは、目標額を超える支援金が集まったことに留まらず、私たちの思いをシェアし共感してくれる人が集まってくれたことこそが成果であり、多くの個人、団体とつながれたことが最大の財産。クラウドファンディングはスタートにすぎず、つながった人たちと一緒に、「乳がんを皆で知り、やさしく支え合い、共に生きる」という私たちのビジョンに向けて走っていきたいです。

田原:リーフレットの無料配布をおこなったことで、医療機関以外でもPTAやママ友といった集まりなどで配りたいという個人の方からの応募も多く、一人ひとりが身近な人にブレストアウェアネスを広めてくれたことは、大きな成果だと思います。乳がんサバイバーの方、家族が乳がんに罹患した方の「社会貢献がしたい」という思いに応えることができ、無関心層へのアプローチという部分でも一歩を踏み出せたという実感はあります。

納得して治療を受けるための「医師との上手なつき合い方」とは

― 「上手な医療のかかり方アワード」の受賞を受けて、医師と患者の関係性について伺いたいと思います。診察の際、「主治医がパソコン画面ばかり見ていて話しづらい」など、関係性作りに悩む患者さんにアドバイスをお願いします。

寺田:医師に話を聞いてもらえないという声は、私自身もよく耳にします。単純に医師のキャラクターの問題もあって、それを今すぐ変えるのは難しい。諦めるしかないかというとそうではなく、主治医に話せなければ、看護師や薬剤師など話しやすい相手を見つけて伝えてください。それがチーム医療のよいところの一つであり、患者さんからの情報はカルテで共有し主治医にも伝わるようになっています。

伏見:個人的な意見ですが、医師と患者さんにも合う、合わないがあると思います。それを知ったうえで、どうしても合わなければ主治医を変えてほしいとお願いしていい。面と向かって言いづらければ、看護師や薬剤師など他の医療従事者を通して要望を伝えてください。

田原:日本の医療現場、特に乳腺外科は混んでいて、患者さん一人に使える時間が少ないのが現状です。だから、余計なことは言っちゃいけないとか、患者さんが遠慮して聞きたいことを聞けないケースは多々あると思います。医師が話しやすい雰囲気を作るのは当然の努力ですが、診察室に入るとどうしても緊張する場合は、質問したいことをリストアップしたメモを医師に渡すか、受付で「先生に渡してください」とお願いするなど、工夫することをお勧めします。

― 相談する内容ですが、主治医にどこまで話していいものですか?治療法や副作用の質問に留まらず、趣味の継続や働き方などライフスタイルに関わる相談も可能でしょうか?

寺田:副作用にしても医師側があまり重要視していない症状が、患者さんにとっては生きがいである趣味の継続などに関わることがあります。治療中も自分らしさを失わず生活するためには、ご自身が”大事にしていること”を医師に話してください。医療従事者向けの乳がん診療ガイドラインには、患者さんと医療者側が話し合い、共に最適な治療を見つけ出していく「共同意思決定」について明記されています。だから生活状況、趣味、経済事情なども遠慮なく話してもらって大丈夫です。

― 患者さんからは「セカンドオピニオンを利用したいけど言い出しにくい」という声も聞かれます。主治医を信頼していないと思われる、失礼にあたるのではと躊躇してしまうようですが……。

寺田:主治医以外の医師の意見を聞くセカンドオピニオンは、患者さんが納得して治療に臨むために役立つプロセスであり、私は事あるごとに自分から患者さんに提案しています。仮にセカンドオピニオンと主治医の意見が食い違った場合は、議論の余地があると捉えればいいし、同じ意見であれば患者さんは自信を持って治療に臨めます。費用は全額自己負担になりますが、メリットは大きいと思うので当然の権利として利用して大丈夫です。その場合、手術を受ける前や治療方針を変更する前など、大きな節目を迎える前に受けることが大切です。

田原:アメリカではセカンドオピニオンは患者さんの権利と捉えられていて、医師側からセカンドオピニオンを勧められることも多いです。乳がん治療の場合にはサードオピニオンまで取得することも珍しくありません。患者さん自身が治療に納得して望めるように複数の医師の意見を聞くことは大切なことだと思います。

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SNSの医療情報に一喜一憂しないために、知っておきたいこと

― スマホで誰もが簡単に医療情報にアクセスできるようになりました。しかし、辿り着いた情報がかならずしも正しいとは限りません。医療情報とのつき合い方のアドバイスと、情報発信者として心がけていることを教えてください。

寺田:インターネットが発達して誰もが医療情報にアクセスできるようになりましたが、その情報が正しいかどうかを判断できるかは別の話。アドバイスできることは、Twitterであれば情報の約4割は間違っているというデータがあり、誤情報や有害な情報ほど拡散されやすく、たくさんのいいねやリツイートは疑いの因子になり得るということ。もう一つは、ここにアクセスすればまず間違いないという、確かな情報への導線を確保しておくことが情報に振り回されないためには大事だと思います。

伏見:発信者として心がけているのは、正確で客観的な情報であるのはもちろん、誰が見ても傷つかない表現を目指しています。SNSのバズらせ方からいうと真逆ですが、バズらせるために信念を曲げるのは違うと思っているので。

寺田:誰も傷つかない表現とは、たとえば私たちのチャンネルでは「早期発見、早期治療」という言葉を使いません。検診を受けていたけど進行が早くステージ4で見つかったケースもあるかもしれない。そういう患者さんが、「早期発見、早期治療が大事です」と言っている投稿を見たらどう思うか。「もっと○○しておけばよかった」と後悔の念を抱く可能性を考えて、意図的に使わないようにしています。

伏見:早期発見の捉え方は、人によって違いますからね。ステージ1でももっと早く見つけられたかもしれないと思う人はいて、誰もが「早期発見できなかった」と後悔する可能性があることを考慮して言葉を選んでいます。

告知後に襲ってくる不安、怒り、悲嘆……。どう向き合うべき?

― がんと診断されると、誰もが動揺し冷静な判断力を失うもの。エビデンスのない治療に走らないためにもがん診断とどう向き合い、心をケアしていけばいいですか?

伏見:普段は冷静で判断力がある人でも、がんと言われたら冷静でいられなくなるのは当然のことです。誰もがそうなると心に留めたうえで、”Hope for the best and prepare for the worst(最善を望み、最悪に備えよ)”を心がけてほしいです。良い状況だけを望むのでも、悪い状況だけを考えて落ち込むのでもなく、上手くいくことを願いつつ、治療の副作用などに備えましょうという意味です。そうするにも冷静さが必要で簡単なことではないけれど、心構えとして知っておいてください。

寺田:私は患者さんに「時間が経つことでしか解決しないこともある」と伝えることがあります。バッドニュースを受け取ったときの心理反応として、深く落ち込んだ後、否定、怒り、不安がわき起こり、徐々に落ち着きを取り戻し現実に適応していきます。しかし、一定の割合で時間が経っても解決せず、適応障害やうつ病と診断されることがあります。自分なりの対処法で解決できれば問題なく、時間が解決することもあるので焦らなくていい。もし落ち込みが続くようなら主治医に相談し、医療の介入を試みるべきです。精神疾患と聞くと抵抗を覚えるかもしれませんが、がんの診断はそれぐらい心理的負荷がかかり、けっして珍しいケースではないので自分だけでケアしようと思わず相談してください。

伏見:自分のケアという部分では、不安を吐き出せる人や場所を持っておくのも大事だと思います。そうは言ってもがんと診断された人の気持ちは、みんなが理解してくれるわけではありません。家族や友人に相談できなければ、乳がんの患者会やサポート団体など同じ境遇の人と出会えるサードプレイスを見つけてみるといいですよ。

寺田:英国発祥の「マギーズ東京」や、SNSで集えるピアサポート・コミュニティ「ピアリング」はその良い例ですので、うまく活用してみると良いと思います。

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取材・文/北林あい

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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