なぜ乳腺外科医がYouTubeを始めたのか|知ってほしい「乳房を意識して生活すること」の大切さ

 なぜ乳腺外科医がYouTubeを始めたのか|知ってほしい「乳房を意識して生活すること」の大切さ
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乳がんになる人は増えているのに、残念ながら乳房に意識を向ける人は多くありません。今回は乳腺外科医で構成する「BC Tube編集部」に、ブレストアウェアネスへの理解を深め、日常的に乳がんを考えられる社会に向けた取り組みについてうかがいました。増え続ける乳がんに対して自分ができることを改めて考えてみましょう。

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大切なのは「ブレストアウェアネス」への理解と、4つのアクションの実践

ーー自分の乳房に関心を持ち、乳房の変化を意識して生活することを「ブレストアウェアネス」といいます。乳がんを早期に見つけて治療につなげる大切な習慣ですが、果たしてどのくらい浸透しているのでしょうか?

「ブレストアウェアネスは数年前に海外から入ってきた言葉ですが、日本では十分に知られていないのが現状です。以前、ツイッターでブレストアウェアネスに関するアンケートを行ったところ、約200名のうち7割近くが『ブレストアウェアネスという言葉を初めて聞いた』と回答。言葉を知っていて実践もしている人は約5%でした。ただブレストアウェアネスという言葉が広まればいいわけではなく、目的の本質は、①乳房のセルフチェックの習慣化②乳房の変化を知る③乳房の変化に気づいたら検診を待たずに医療機関を受診する④40歳になったら定期的に乳がん検診を受けるというブレストアウェアネスを構成する4つのアクションをすべて実践してもらうことです。注意したい乳房の変化を理解しないままセルフチェックを行っている方、乳房の変化に気づいても病院を受診せず検診に行ってしまう方を減らすために、ブレストアウェアネスのアクションを広めていきたいです」(寺田満雄先生)

ブレストアウェアネス
ブレストアウェアネス 4つのアクション

ーー海外では広く知られているブレストアウェアネス。日本での認知度が低い理由として、どんなことが考えられますか?

「そもそもブレストアウェアネスが発信される機会はまだ少ないですし、英語であるが故に何を意味しているかピンとこない人も多いのでは。だからこそブレストアウェアネスの中身である、4つのアクションを伝えていく必要性を感じています。人の行動を変えるのは簡単ではないですし、乳がんや乳房を意識する習慣を自分事として捉えてもらうには時間がかかるのも承知です。BC Tubeでは健診機関や病院にリーフレットを設置するなど、できる活動から行っていきます」(寺田満雄先生)

欧米に比べてなぜ低い? 乳がんに対する日本人の関心度

ーー乳がんの正しい知識を広め、検診受診を啓発する「ピンクリボン運動」。毎年10月のピンクリボン月間には世界規模で啓発イベントが行われていますが、日本の検診受診率は約40%と伸び悩んでいます。日本人が乳がんを自分事として感じにくい理由を考えてみましょう。

欧米では、8人に1人が生涯で乳がんに罹患する状況が昔から長く続いています。家族や友人、職場の同僚などに乳がんを経験した人がいるのは珍しくないため、乳がんに対する関心が高く検診受診率は約80%です。対する日本人の生涯における乳がん罹患率は以前は欧米と比較すると少なかったのですが、どんどん増加傾向にあり、最近の統計では9人に1人。欧米と肩を並べつつありますが、乳がんと診断されると『まさか自分が!?』と思う人が圧倒的に多く、乳がんの増加スピードに自分事として捉える意識が追いついていないのを感じます。子どもの頃から乳がんが身近な病気だったか否か、それが日本と欧米の乳がんに対する意識形成に関係している可能性があるので、学校でのがん教育を通して、乳がんが身近な病気であることを教えていくことも必要だと感じます」(田原梨絵先生)

ーー乳がんに対する関心が低いと、正しい知識に触れる機会も少ないはず。「私は胸が小さいから乳がんにはならない」「家族に乳がん経験者がいないから私も大丈夫」といった誤解が検診を遠ざけてしまうことがあります。

「そうならないためには、科学的根拠のある正しい情報に触れることが大事です。国内では、国立がん研究センターのサイトがもっとも信頼できる情報源といえるでしょう。また乳がんになった人が病気や治療について調べる場合は、日本乳癌学会編集の『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』をおすすめします。併せて私たちのYouTube動画も参考にしてください!」(田原梨絵先生)

ーー身近に乳がんになった人はいないし「私には関係ない」と、なかなか意識が向かない人に田原先生が伝えたいことは?

「乳がんは誰でもなる可能性があり、絶対にならないという人はいません。自分の体は自分で守るという意識を持ち、検診のほかにセルフチェックを日常的に行い、乳房の変化に気づいたらすぐに医療機関を受診しましょう。月に一度のセルフチェックは習慣にしてしまえばさほど面倒ではありません。歯磨きと同じように当たり前に行えるようになってほしいです」(田原梨絵先生)

乳房の健康意識を高め、行動を変えたい。「BC Tube」の活動に注目!

乳がんを正しく知り、乳房の健康を自分で守れる人が増えるように、2020年7月からYouTubeで乳がんの情報を発信しているBC Tube。乳腺専門医が動画配信に込めた思いや制作のこだわりについてうかがいました。

「インターネット上の情報は玉石混交で、科学的根拠に基づいた情報もあれば信頼性の低い情報も多く存在します。正確で、わかりやすい情報を伝える方法を考えたとき、文字ベースより動画で見せるほうが効果的では?そう思い『乳がん大事典』というYouTubeチャンネルを始めました。主流メディアになりつつあるYouTubeに正しい乳がん情報を置いておく必要性も感じています。このチャンネルを一番見てほしいのは乳がんにあまり関心のない方ですが、それ以外にも検診の情報を知りたい方、これから治療を始める方、無症状だけど乳房の健康が気になる方に役立つ情報を配信しています。YouTubeは不特定多数の方が視聴するため、誰が見ても傷つかない言葉を選ぶこと、そして事実を正しく伝えることを意識しています」(伏見淳先生)

BC Tube
BC Tubeが発信するYouTubeチャンネル「乳がん大事典」

ーーYouTube動画は複数の乳腺科医によって制作され、さまざまな「目」が入ることで、一人の医師の私見に偏らない客観的な情報を提供。故に信頼性が高く情報の質に定評があります。

「動画制作にかかわっていない医師にピアレビューしてもらい、医学雑誌と同じような制作手順を踏むことで正確性と客観性を担保しています。今年の日本乳癌学会や乳癌検診学会のシンポジウムでBC Tubeの活動を発表したところ高い評価をいただきました。一方的な発信にならないように、今後は患者団体とパートナーシップ契約を結び、アンケートで集めた声をもとに患者さんの役に立つ動画も充実させていく予定です」(伏見淳先生)

クラウドファンディングに初挑戦!託す思いとは

ーーピンクリボン月間にあたる10月には、ブレスト・アウェアネスの4つのアクションをより多くの方に知ってもらうために、クラウドファンディングを開始。挑戦のきっかけは?

「私たちは、自分は乳がんとは関係がないと思っている方にもブレストアウェアネスや乳がんに関心を持ってほしいと思っていますが、いわゆる無関心層の方に医療者が直接言葉をかけるのは難しいと感じクラウドファンディングを行うことにしました。テーマは「あなたの手紙で、大切な人にもブレスト・アウェアネスを」です。どういうことかというと、私たちの活動に賛同してくださった支援者に返礼としてブレスト・アウェアネスカードとメッセージカードをお送りします。そのメッセージカードに『これからも元気でいてね』など一言添えて大切な人に送ってください。手紙をきっかけに世間話でもいいのでブレストアウェアネスや乳がんについて話してもらい、私たちが届けられない言葉を関心層から無関心層へ届けていただきたい。乳房のことを気にしたこともなかった、自分は乳がんとは関係ないと思っていた女性そして男性にも、将来の自分や大切な人の命を守るために、ブレスト・アウェアネス、乳がんに関心を持ってほしい。そして、健康に対する気づきの輪を広めたい、それがこのプロジェクトの一番のポイントです」(山下奈真先生)

ーーでは集まった資金をもとに、どのようなアクションを行う予定ですか?

「達成金額ごとに3つのゴールを考えています。まずリーフレットとDVDを作成して全国の医療機関に配布し、次は無関心層の方が手に取りやすいネイルサロン、美容院、スーパーなどに設置場所を広げていきます。最終的には医療従事者、教諭、小中高校生向けの教員用の教材を作成し、さまざまな場所から正しい乳がんの情報にアクセスできる社会を作り、社会全体の乳がんに対する意識を高めることが目標です」(山下奈真先生)

検診や治療の情報に留まらない。BC Tubeが見据える未来とは

ーーこれまでYouTubeを通して乳がんの情報を配信してきたBC Tube。今後はどのような活動を思い描いているのでしょうか?

「まずは10月に行うクラウドファンディングをきっかけに、ブレストアウェアネスをさらに広めていきたいですね。その先については、抗がん剤の副作用による脱毛、手術による乳房の喪失という外見の変化に悩む患者さんのためのアピアランスケア(外見のケア)や、がんと就労など乳がんを取り巻く社会的課題の解決に役立つ情報も提供していきたい。そして乳がんになった方が生きやすい、『乳がんを皆で知り、やさしく支え合い、共に生きる』社会を目指していきます」(伏見淳先生)

お話を伺ったのは…BC Tube編集部

一般社団法人BC Tubeとして2020年11月に設立。メンバーは代表理事の伏見淳氏をはじめとする7名の乳腺外科医を中心に構成し、YouTubeチャンネル「乳がん大事典」を運営。乳腺外科医が作成した動画を第三者の乳がん診療・研究に携わる医師と非医療者のレビューを経て定期的に公開し、客観的で科学的根拠のある乳がん情報の発信を行っている。2021年10月、ブレスト・アウェアネスや乳がんに関心を持ってほしい、健康に対する気づきの輪を広めたいという思いから、クラウドファンディングを開始。

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取材・文/北林あい

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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