高齢者・障がい者・外国籍・LGBTQ…「住宅弱者」が直面する壁と社会が抱える課題
住宅弱者とは、年齢、国籍、経済力、セクシュアリティなどを理由に賃貸の入居を断られてしまう人のことを示します。株式会社LIFULLが展開する「FRIENDLY DOOR」では、高齢者、外国籍、シングルマザー・ファザー、生活保護利用者、障がい者、被災者、LGBTQ、フリーランス、家族に頼れない若者といった住宅弱者に親身に対応する不動産会社を見つけられます。事業責任者の龔 軼群(キョウ・イグン)さんは5歳で来日し、日本で進学・就職したものの、社会人になって国籍を理由に住宅を借りづらかった経験があったとのこと。龔さんに同サービスを通じて見えた課題や住宅弱者問題について伺いました。
入居を断る背景にはトラブルの懸念
——賃貸物件のオーナーは実際どの程度、住宅弱者へ貸すことに抵抗感があるのでしょうか。
私も委員を務めている日本賃貸住宅管理協会(日管協)では、オーナーの入居受入れに対する拒否感について調査を行っています。2021年度の調査ですと、高齢者に関しては、全国で76.3%が拒否感なしですが、内訳を見ると拒否感なしが首都圏では約9割である一方で、関西圏ですと47.1%、それ以外のエリアでは43.5%であり、地域による差が大きいです。
調査では障がい者と外国籍への拒否感についても算出されていますが、首都圏は拒否感が低く、関西圏やそれ以外のエリアでは拒否感が高いという傾向は同じです。
——なぜオーナーや管理会社、仲介業者は貸し渋るのでしょうか。
様々なトラブルの懸念から抵抗感が生じているようです。たとえば高齢者は、孤独死した場合に瑕疵物件になるリスクがある、特殊清掃や残置物処分で莫大な費用がかかってしまう可能性があるとか、障がい者はコミュニケーションを不安視する声や、住環境でのトラブル・設備上の安全性の問題、住宅のバリアフリー対応ができてないといった話を聞きます。外国籍だと文化の違いから、ゴミ出しや騒音などの問題が発生するのではないかといったことです。
シングルマザーや被災者、フリーランスは経済的な不安から断られることが多いようです。家族に頼れない若者は連帯保証人になってくれる人がいなかったり、保証会社利用でも緊急連絡先として家族が必要だったりという部分が壁になっています。
管理会社はオーナーの代わりに物件を管理する役割を担うので、トラブルが起きたときに対応するのは主に管理会社です。たとえば急に倒れてしまったり、認知症の人が家を飛び出して行方不明になったりすると負担が大きいため、身寄りのない高齢者を避ける傾向があります。
オーナーの拒否感が強ければ、物件を探すこと自体が大変ですし、仲介業者が交渉することのハードルも高いので、成約までにかかる時間が大きく、貸し渋りが発生してしまいます。
——貸し渋る背景を踏まえて、解決する手段はありますか。
抱いている不安に対して、解決手段があるにもかかわらず、オーナーや不動産会社が知らなくて拒否をしているケースは少なくありません。なので私たちは情報提供や懸念事項解消のための接客チェックリストを外国籍、LGBTQ、障がい者、高齢者の4カテゴリーで無償提供したり、有料セミナーを開催するなどしています。
ほかにも、たとえば聴覚障がいの人向けにチャイムが鳴ったら光る器具が売られているので、設置することで不安を払拭することができますし、高齢者向けに見守りサービスを提供している会社や自治体もあります。
シングルマザーやフリーランスで、十分な収入があるにもかかわらず断られたケースも聞きますが、不安ならば、保証会社利用を条件にするなどの方法もあります。
——外国籍でも長く日本に住んでいたり、障がい者でもコミュニケーションを取る方法はあるので、属性だけで判断すると、貸す側としても機会を逃しているように感じます。
そうですね。属性で判断せず、一人ひとりを見て「この人になら貸しても大丈夫そう」と向き合っていただけると、売上や空室率の改善に繋げることができると思います。
バイアス(偏見など)から抵抗感が生じているケースもあるので、オーナーや不動産会社の思い込みをなくしていくことも重要だと思います。たとえば聴覚障がいのある人とは、手話ができなくても、筆談やメールでコミュニケーションを取ることができます。LGBTQに関してはバイアスによるものが大きいと聞きますが、収入が不安定なわけでも、コミュニケーションが難しいわけでもありません。
誰もが直面するかもしれない「高齢者の孤立」
——今後、高齢化率が高まることが予測されていますので、高齢者の見守り対策の必要性も高まると存じますが、詳しくお話しいただけますでしょうか。
全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が、不動産会社向けに高齢者対応ガイドブックを作成しています。大家さんの不安要素の割合は、孤独死による物件価値の低下や残置物の処理、認知症への対応が高いです。
孤独死といっても、長期間経過して、腐敗が進んで特殊清掃が必要になってしまうと清掃費用に数十万〜数百万円かかったり、告知義務が発生したりして負担が大きくなってしまうのですが、亡くなってから数日で発見されれば事故物件にはなりません。
見守りとしては、水道電気ガスの使用率を見て異変に気づくという最低限の見守りから、一定期間人間の動きが確認できなかったら通知が届くようなセキュリティ会社のシステムなどがあります。
孤独死をカバーしている火災保険もありますし、認知症が心配ならケアマネジャーさんを入れるといったことも。家賃滞納が心配であれば別途代理人を立てる方法や、残置物処理についても、不動産会社が勝手に処分はできないので、成年後見制度を利用し、事前に判断してもらう人を決めておくなどの対策は取れます。
一般的に、賃貸物件は新築から年数が経過するにつれ、経年劣化により家賃が下がります。つまり長く住んでくれる人は「良いお客さん」なんです。また、高齢者は頻繁に引っ越しをしないので、ビジネスの観点でも「高齢者だから」という理由だけで断るのはもったいないと思います。
——住宅弱者のカテゴリーに「家族に頼れない若者」がありましたが、逆に子どもがいても疎遠な高齢者もいると思います。孤立した高齢者への対策はあるのでしょうか。
現状、住まいの提供の考え方が家族ベースの仕組みになっている部分が多いので、それゆえに孤立した高齢者が「リスク」として捉えられる傾向もあります。
全宅連の提供する入居者情報シートでは、何かあったときのために資産の管理をしてくれる人や、行政の連絡機関、かかりつけ医、介護支援者等を記入する欄があります。一見孤立しているように見える高齢者でも「毎週水曜日に公民館でサークル活動をしている」など地域交流がある人も。不動産会社にとって手間ではあるものの、こうした情報によって懸念する緊急時のリスクを軽減させることはできます。
——結婚しない・子どもを産まないといった選択をする人は増えていますし、今は現役で働いている人でも10年後や20年後には高齢者になりますよね。結婚しててもどちらか最後は一人になりますし、高齢者の孤立は意外と身近な問題のように思います。
そうですね、子どもと疎遠だったり子どもがいなかったりすると、家族ベースの仕組みではカバーしきれないということが既に生じていますし、社会とのつながりも希薄だった場合、高齢者の孤立は深刻な問題として存在しています。今後どのように社会に適用させていくかという部分が問われているように感じます。
いずれはどの不動産会社もフレンドリーに
——FRIENDLY DOOR事業の実績はいかがでしょうか。
立ち上げ当初の2019年は500程度しか参画店舗がなかったのですが、2023年8月現在は4900店舗で、10倍近く増えている状況です。
事業開始当初は、もともと高齢者や外国籍、生活保護利用者に対応していた不動産会社を可視化した効果が大きかったと考えています。最近ではダイバーシティを謳ったり、SDGsを掲げるなど、住宅弱者に対応することが企業の社会的責任として問われています。社会課題への貢献が機関投資家や株主からの評価にもつながるようになりました。そのような背景から参画店舗数も増えているのだと分析しています。
——今後の課題はありますか。
現在、不動産会社の申告によって参画できる仕組みのため、対応能力にばらつきがあると感じています。そのため、長年、地域で高齢者対応をしている不動産会社と、これから力を入れようとしている不動産会社は、どちらも同じように表示されます。
住宅弱者への対応実績の可視化や、サービスを利用したユーザーが不動産会社に行ってきちんと対応されたか、成約できて引っ越しまでできたかといったアンケート等も検討中です。そして評価の高い不動産会社を上位に表示するなど、ユーザーが自分に合った不動産会社を探しやすいように改善していきたいです。最終的にはLIFULL HOME'Sに登録していただいている不動産会社が全て住宅弱者フレンドリーになり、FRIENDLY DOORという事業が必要なくなることを理想としています。
お話を伺ったのは…
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