13年で約10倍!増えたのは本当に「発達障害」?間違われる子どもが増えている理由を小児科医が解説
『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)の著者であり、子育て支援事業「子育て科学アクシス」の代表である小児科医の成田奈緒子さんにインタビュー。「発達障害が増えているのではなく、発達障害もどきが増えている」と考える理由、発達障害と間違われる子どもとの向き合い方、叱らない伝え方等を教えていただきました。
脳の発達を考えれば、問題行動は発達障害でなくても起こり得る
ー著書『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)では、発達障害と間違われる子どもを「発達障害もどき」と呼び、近年その発達障害もどきが増えているのではないかと指摘されています。まずは、本のテーマである「発達障害もどき」について教えてください。
「発達障害という言葉が日本で有名になったのは、2005年に発達障害者支援センターができ、発達障害者支援法ができたからです。その後に学校現場や行政の現場、あるいは親御さんたちにその言葉が浸透したことで、特別支援教育という発達障害の子ども達が生きづらさを感じないような学習方法が考えられるきっかけになり良かったと思います。ですが、発達障害というレッテルを過剰に貼る風潮が出てくるようになりました。脳の発達を考えれば、問題行動と言われるものは診断がつくような発達障害でなくても起こり得ます。『からだの脳 おりこうさん脳 こころの脳』と脳にも発達の順番があり、脳の部位を育てていくことが健全な脳の発達には欠かせません。しかし、脳の成長バランスが崩れると「発達障害もどき」になってしまうのです。」
正しい知識を伝えて、子どもたちがうまく育つように
ー本書を書こうと思ったきっかけはありますか?
「元々発達障害もどきという言葉を臨床現場でよく使っていました。近年本当に子どもたちの生活リズムが悪くなってきて、それだけが要因ではないかもしれませんが、学校での問題行動など、親御さんが悩んでいるケースが増えたと感じていました。発達障害は、言葉そのものが1人歩きする傾向があって、その状況はあまり良くないと思っています。私自身が発達障害の専門家と言われることに違和感があったので、出版の話は何度か断っていましたが、今回、出版社の担当者やライターの方が熱心に声をかけてくださり、本が売れることだけではなく、正しい知識を伝えて、子どもたちがうまく育つようにという目的を持った企画であることが真摯な姿勢から理解できました。取材では、長い時間をかけて徹底的にお話をさせてもらい、『発達障害もどき』という問題に目を向けながらも、親御さんが家庭生活にもう少し目を向けて、家庭で過ごす時間の質を考えることが大切、というメッセージを込めた内容になったと思っています。」
寝るための脳を作ることを主体にした育て方をしていないから悪循環になる
ー「発達障害もどき」と近年話題になっている「愛着障害」との関連について教えてください。私自身が心理師として活動する中でも、「愛着障害」という言葉を患者さんや教職員等から聞く機会が増えたと感じています。
※愛着障害:母親や父親など特定の養育者との愛着が何からの理由で形成されず、情緒や対人関係等の問題が生じる状態のこと。
「愛着とは、難しい概念だと思っています。私は性善説で愛情を全く持たない親御さんはいないと信じていますが、例えば、乳幼児を育てる親御さんで『私は愛情が足りているのだろうか』と悩む経験はあると思いますが、子どもがずーっと泣き続けるとか、目を離した隙にどこまでも走ってしまうとか、暴言を吐き続けるとか、どのような状態の子どもに対しても愛情を持たないといけない、と言われると難しさを感じるでしょうし、自分を責めすぎてしまうだろうと思います。発達障害のお子さんや、未熟児で発達に遅れがあるお子さんは愛着形成が遅かったり、被虐待児になる可能性が高いのは統計的に言われていると思うのですが、いわゆる発達障害もどきについても同じです。本書で取り上げているのは、発達障害の診断はつかないけれども、夜の何時になっても寝てくれないとか、食べさせても食べてくれないとかそういう悩み。私は乳幼児期のひよこクラブのインタビュー等で読者アンケートや調査を目にする機会があるのですが、寝ない食べないという悩みがすごく多いんですね。夜に一生懸命に寝かしつけても全然寝ない子や、せっかく一生懸命手をかけて作った離乳食を食べない子とか、それが毎日目の前にいたら、分かっていたとしても愛着を持ちにくいだろうと思います。
「愛さないといけない」という想いの部分ではなくて、子どもが生まれてから、寝る脳を作ることを主体にした育て方をしていないから悪循環でそうなっていく。寝るための脳を作るのは、生まれた瞬間から意識をして、だいたい4カ月ぐらいから取り組まないといけないのですが、その知識が親御さんにないので寝ない子になってしまう。寝ないと食べないので食べてくれない子になってしまう。そうすると親御さんが愛着を形成しにくい。その悪循環がすごく多いと思っています。これが尾を引いて、小学校や中学校においても、親御さんの中に、『この子は楽だったり楽しかったりする対象ではなくて、私に負や苦しみ、悲しみをもたらす存在』という土台の自動思考が形成されている気がしますよね。明らかに愛着障害と言える状態を呈していて、根っこを掘っていくと乳幼児期から手がかかるお子さんだった、寝ない・食べないがひどかったと。それは親御さん自身が生活を確立していなかったから、子どもの寝る・起きる・食べるが作られていないという悪循環のきっかけになってしまうのです。」
※自動思考:認知行動療法という心理療法で使われる概念で、パッと頭に浮かんでくる考えのこと。
親御さんが笑顔を見せるだけで、子どもは安心や喜びを感じる
ー本書で大切なことの一つに生活リズムをあげていらっしゃると思います。しかし、子どもの生活リズムを正すことが大切だと分かりながらも、いくら注意しても子どもが朝起きられないという声を聞きます。子どもを朝早くに起こす秘訣はありますか?
「まず乳幼児期は簡単です。乳幼児期は愛着形成期なので、親御さんが抱っこすることや、親御さんが笑顔を見せるだけで子どもは安心や喜びを感じることができます。子どもが喜ぶものを目の前に持ってきて、例えば、泣いている子どもを抱き上げてベランダに連れて行き、好きな音楽を聴かせるとか、一緒に遊ぶとか、すると3日目ぐらいから生活リズムが整ってきます。本来は、乳幼児期にそれをやっていただきたいんですね。本当にあっという間に良くなります。
小学生は、夏休みにお母さんが『朝一緒に早起きしよう』と声をかけて、5分ぐらいのお散歩を習慣づけたり、朝ごはんを一緒に作って、ベランダでホットケーキを食べて『おいしいね』とか、『朝日を浴びると元気になるねー』とお話したり。そういう楽しいことを朝に持ってくれば子どもは割と乗ってきます。
問題は中学生以降です。中学以降になると親の言うことを簡単には聞かないし、起立性調節障害を伴う問題になっていると、本当に頭が痛くて起きられないという子も多くなります。そのような子どもが相談に来た時には、親御さんにお願いしてやってもらってもなかなかうまくいかないので、専門家と言われる私たちが淡々と科学的な根拠をもとにして説明します。大人になった時に、きちんと自分のやりたいことができるようになるためには、今『起きる習慣』を作った方がいいんだよと話をすると意外と分かってくれる。私が代表を務める子育て支援事業「子育て科学アクシス」には自律神経測定装置があるので、測定したデータを見せてあげると自律神経の働きが悪いことが多いので、次回までに目標の起床時刻を設定させて頑張ってもらう。次回にもう1回測るとだいたい良くなっているので、『良くなったじゃん』と動機づけをしてさらに改善させると良くなっていきます。」
※起立性調節障害:自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患。
ー親御さんよりも、第三者、特に専門家からしっかり根拠を持って伝えることが大切なのですね。
「中学以上になると、第三者の介入が必要かもしれません。例えば、親御さんに伝えて、私たちの本をリビングのソファーに置いて自然な流れで読んでもらったり、アクシスのオンラインワークで生活習慣の話を家族で聞いてもらったり。そういったアプローチで子ども自身から『やばいなぁ……起きなきゃ』と真剣に考え始めるパターンもあると感じます。」
親御さん自身が、自分の心と体のバランスに目を向けることが、子どもの安定につながる
ー本書で「親の生き方を変えれば、子どもも変わる」と書いていらっしゃいます。親が変わるためには、どのような姿勢や心構えが必要でしょうか?
「親御さん自身が、子どものことばかりではなく、自分を主体にして人生を考える、ということ。子どもは親の姿を見てまねていくものなので、親御さん自身が自分を大切にしてないと子どもは自分を大切にしようという動機づけはできないと思います。親御さん世代の多くの方は、例えば仕事で成功するとか、子どもにいい教育を受けさせるとか、いい中学に受験させる、など世間的なことを重視しがちですが、本来は親御さんの内面が健康であること、体と心が健康であることが子どもの幸せにつながると思います。寝ること・起きること・食べること。そして、自律神経を含めてきちんと体が反射的に動くこと、そういった自分の体の機能が正常に動いていることを自分で確認しながら生きること。それが今の人は本当にできないんですね。別のことに気を取られていて自分の体がどんな状態なのか全く自己モニターができていない方が多いです。相談に来られた親御さんで、見るからに顔色も悪くて調子が悪そうな方に『あなた無理しているよね』というと『そんなことないです。私元気です。元気だけが取り柄なんです』って笑顔を作りながらおっしゃるんですが、自律神経測定装置を使って指先の血流を測るとボロボロ。エネルギーがなくなっているし、バランスもめちゃくちゃだよって。親御さんはびっくりするけれど、このように危険な状態に陥っている親御さんは多いですね。子どもや仕事のためと、睡眠を削りながら、努力をしながら、ストレスがかかっても前頭葉で『私は大丈夫、大丈夫』と抑え込みながら生活を重ねている方が多くて。その親を見ていると子どもは同じように自分を大切にしない子になってしまう。親御さんには、まずは自己モニターをして、自分の生活を大切にすることを伝えています。
ー仕事や子育て、家事など、意識が外側にばかり向いてしまい、自分の内側に向いてないということですね。今回のインタビューはヨガのオンラインメディアなので、ヨガをやる中で内面に目を向けている読者の方も多いと思います。
ヨガはいいと思います。ヨガも内省で、自分の体の声に耳を傾ける、自分の体について知ることが大事だと思います。ヨガは呼吸法を徹底してやりますし、呼吸でどれだけ体が変わるか。そして、メンタルも変わってきます。私らはヨガの専門家ではないですけど、アクシスのワークではよく親御さんに指導している。私たちスタッフもみんな呼吸に気をつけていますし、もちろん睡眠も気をつけているし、体を動かすこともちゃんとやっていますので、健康度もやはりアップしてきています。
私たちは『褒める』代わりに『認める』
ー子どもを叱らないコミュニケーションや褒めるコツがあれば教えてください。
「私たちは褒めることはあまり推奨していません。愛情と同じで、褒めるという抽象的な概念に縛られている親御さんはとても多いです。『褒めなくちゃ!でも、褒めるところが1個も見つかりません!』とおっしゃるんですけど、褒めるはすごく危険なこと。親御さんが褒めることを意識すると、例えばテストの点数とか、親の言いつけを守ったとか、評価しやすいことに走りがちなんですね。1番危険なのは学校の成績を褒めることで、そこを褒めてしまうと『いい成績を取らないと自分は親から見捨てられる』と不安の高いお子さんは思っちゃうのです。アクシスに相談に来る子どもは不登校であったり、学業成績がうまく上がらなかったりという悩みを抱えていることが多いので、成績を基準に褒めてしまうと、子どもたちは『できない自分』を強く意識して、自己肯定感が低くなるし、いろいろと問題が起こってくる。『褒める』代わりに必要なのは、『認める』こと。認めるのは、その子の過去の状態と比較すれば簡単なこと。極端な話、前はオムツでトイレに行けなかった子が、今は誰にも言われずに自分でトイレに行けるようになっただけでも、子どもが発達していることを親が認める要因になりますよね。生活の中で以前はできなかったけど、今はできるようになったことを指摘できるのは親しかいないので、そこだけに言及すれば、子どもは常に自分が発達していることを自覚できます。最近有名なグロースマインドセットと言って、例えばストレスにさらされて何か起こったとしても、『お前は発達中なんだぞ』ということをマインドセットとして入れてあげることで、ストレスに対して頑張るぞという良いストレスに変えることができる。私たちが目指しているのはそこであって、学習は自分で頑張るしかないので、親がいくら褒めようが、何しようが、モチベーションにはならない。親が前から引っ張るのではなくて、子どもが自分で頑張るのを後ろから支援するために、『認める』しかないんです。」
『親はぶれない軸を持つ』軸は大体3本くらい
「叱るのはアクシスのペアレンティングトレーニングで6項目にまとめている指導方法があり、それをもとにワークショップを展開しています。その6項目目に『親はぶれない軸を持つ』というのがあって、この軸は2本か3本だけ立てて、家庭生活の中でそこに抵触したらどんなに叱っても構わないと言っています。絶対に譲れない確固とした軸なんです。私たちが絶対必要だよねと思っているのは、1つ目は『夜は必ず9時までに寝ます』とか、『死なないし死なせない』こと。人を死なせるようなことをしたり、自分が死ぬようなことしたら全力で叱る。ここには誰も異論を挟まない。もう1本加えて、3本くらいの軸は許そう。でも、4本5本になっちゃうと訳が分からなくなる。だから、軸は大体3本くらいだよねと言っています。そして軸に抵触したらすごく叱る。よく例に出しているのは、『夜9時までに寝ること』を軸にしていた場合、夜の9時を過ぎてゲームをやっていたら叱る。これは分かりますよね。でも、夜9時を過ぎて勉強していても叱るんです。つまり、『9時に寝る』ということが軸なので、9時までには必ず寝る。脳がきちんと育って、将来まで社会の中で楽しく生きていけるような体を作るためには、絶対に9時までに寝なくちゃいけない。ここがうちの軸というものを決めれば、勉強をしていたとしても、レギュラーに選ばれてスポーツの練習をしていたとしても、すごく怒らないといけないです。それだけのブレない軸を親が持つと、子どもは自信ができます。自分はちゃんと家庭の生活を守っているぞと。例え社会の中で失敗したとしても、自分はきちんと生活ができているという自信さえあればなんとかなります。」
ー確かにルールが多すぎても守りきれないし、混乱もするし、覚えきれないですもんね。
「そうなんです。親御さんは学校や塾の宿題をやってないとか、ゲームがどうとか、ごちゃごちゃと軸みたいなものを立てて叱りたくなるんですけれども、そんな風にしちゃうと子どもたちは混乱するので、軸はできるだけ少なくしてください。」
教えてくれたのは…成田奈緒子さん
1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、小児科医、医学博士。米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)など著書多数。
AUTHOR
石上友梨
大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く