「発達障害もどき」が増えている原因に子どもの睡眠不足が関係?小児科医が解説【良い睡眠のとり方】
『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)の著者であり、子育て支援事業「子育て科学アクシス」の代表である小児科医の成田奈緒子さんに公認心理師がインタビュー。近年の子どもたちの状況や変化、あらゆる心身不調の原因となる「睡眠」の質の高め方、子育て中のストレス解消法についてお伺いしました。
親御さんが楽しく明るく生きていると、お子さんは正しく明るく生きる
ー成田さんが代表を務める「子育て科学アクシス」は、どのような活動をしているのでしょうか?
「アクシスは基本的に親が学んでいただく場所です。基本的には、親御さんがお子さんのこと、ご自身のこと、ご夫婦の関係のこと、舅・姑関係のこと等、何か困ったことがあった場合にご相談いただく場所。親御さんが楽しく明るく生きていただくと、お子さんは正しく明るく生きるようになるから親支援なんです。
親御さんに明るくなっていただくことがコンセプトで、発達障害のある人限定とか、子どもを教育する目的の支援ではありません。ただご要望が多かったので、子ども向けの日も作って、お子さんを何人か集めて、私たちがワークショップを展開しています。ですが、それは決して療育とか子どもを教育する目的の場ではなくて、子どもが『ここにいていいんだ』『丸ごと認めてもらえるんだ』と感じる場にしたいですね。先ほど言ったように、親御さんは褒めるとか叱るは一生懸命やっていても、認めるを意外とやっていない。認められてないお子さんたちに、『お前はそのままでいいんだぞ』というメッセージを送るために子ども向けの日を開催しています。そこで観察した内容は、専門家として親御さんにフィードバックして、お子さんへの声かけの仕方などをアドバイスしています。基本は親御さんへの生活指導ですね。」
相手を傷つけるような言葉を平気で出せるのは、家庭生活の乱れ
ー2014年からアクシスで活動をされている中で、相談内容やお子さんの状態で何か変化はありますか?
アクシスには、高学歴・高収入の親御さんもご相談にきます。親御さんが高学歴で、仕事をバリバリしていて、お子さんも有名私立学校に通っている、外からだと非常に恵まれたご家庭に見えるけれど、内情としては親御さんが深く悩んでいたり、お子さんも心身の不調を訴えていたり…といった外からでは一見わからない問題を抱える方が多くなってきた印象です。原因としては生活リズム、特に都内で中学受験の熱が高まり、その弊害が増えているのかもしれません。発達障害の認知度が高まっているだけではなく、ギフテッドという考え方も一人歩きしてしまっているので、『発達障害だからこそ、特殊な才能があるはず』『この子の才能を伸ばすなら、中学受験するべき』と、特性があるからこそ中学受験をするという考えが多くなってきている気がします。
今、都内の公立中学校で子ども同士のトラブルが増えていると感じるのですが、中学受験に落ちて公立中学校に来ざるを得なかった子どもたちが、強いストレスを抱えているのかもしれません。発達障害もどきだったり、診断がつくようなお子さんが、同級生からひどい言葉を毎日のように浴びせられている話も聞いています。
私の所に相談に来る中学生は、みんな生活リズムを整えている子たちなので、『意地悪なことを言うやつは、寝てないから本当にストレスがたまっているみたい。でも、繰り返し言われると本当嫌な気持ちになる。』と大人な対応をしています。
中学生にもなって、相手を傷つけるような言葉を平気で言えるのは、家庭生活の乱れ、家庭生活の問題が多いです。親御さんが乱れた言葉を言っているとは限らないですけれども、親御さんがストレスの吐口として強い言葉を言いがちだったりすると、お子さんもネット情報やテレビで流れている言葉を平気で口に出す。能力として、その言葉が人を傷つける言葉であることは知っているはずなんですけど、それでもストレスのはけ口として弱い者に出すことでストレス発散する、という悪循環が生まれてしまう。」
加齢とともに睡眠の質が悪くなるのは当たり前。良い睡眠が取れるための工夫が大切
ー本書では、子どもたちの心身不調の原因に「睡眠不足」が挙げられていますが、良い睡眠を取るために成田さんご自身はどのようなことを実践されていますか?
「山ほど実践していますよ。私自身が学生の頃は今でいうところの起立性調節障害で、自律神経がボロボロでした。
※起立性調節障害:自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患。
自律神経は元々弱かったので、当時は本当に辛くて……毎朝学校に行こうにも吐き気がひどい。帰りは一駅ごとに途中下車して、体調を整えてからまた一駅、という感じでした。調子が良くなったのは、大学受験がきっかけでした。医学部受験のために勉強しないといけなかったので、学校から帰ってきて夜は18時に寝て、夜中の2時に起きて、朝まで勉強する方法を確立したことで、生活リズムが出来たからです。
最近睡眠のために実践していることは、携帯を枕元のそばに置いているとそれだけで睡眠が阻害されることがあるので、携帯は別の部屋に置いています。他にも、寝る時は遮光カーテンで真っ暗にすると入眠しやすいです。加齢とともに睡眠の質が悪くなるのは当たり前なので、それでも良い睡眠を取るために色々と工夫しています。できるときは、夜19時ぐらいに布団に入ってなるべく早く寝るようにしています。布団に入って、ハーブティーや養命酒、ブランデーなど、ナイトキャップみたいなものをゆっくりと飲んで、リラックスした気持ちで本を読むと、自然と眠くなりよく眠れます。
色々と考え事をしてしまったり、肩こりがひどくてどうしても眠れない時は、マインドフルネスの眠るためのバージョンを実践しています。もちろん自律訓練法も身につけているので、それで寝られる日もあるし、呼吸法はすごく役に立つので応用しています。あと毎日よく歩くようにしていて、私は演劇をやっているので、演劇で習ったストレッチやヨガもやっています。頭脳疲労だけじゃなくて筋肉疲労も一緒に作るようにしていますね。睡眠だけじゃなく、朝ごはんをしっかり食べて、排便をしてから家を出るという流れを意識するようにしてから、すごく調子が良くなりました。」
※ナイトキャップ:寝酒用に考案されたカクテル
※自律訓練法:自己暗示によって体の筋肉の緊張を解きほぐすリラクゼーション法
ストレス解消法という前に、ストレスに気づくことが大事
ー子育てが上手くいかずストレスを感じたとき、どのような解消法が有効でしょうか?
「まず、ストレスに気づくことが大事です。ストレスにさらされている時は心拍も早くなるし、呼吸も浅く速くなっているので、そういったことを判断の指標にしていただく。脈拍や呼吸数を見て、ストレスにさらされているんだと自覚する。病院に行かなくても自分の体の状態は、ある程度査定できるんです。それで、これはいつもと違う状態だということが分かったら、まずは呼吸法と筋弛緩法を勧めています。他動的に自律神経の副交感神経を優位にするためには、心拍を落とせばいいのですが、心拍を落とすと言われても難しいですよね? でも呼吸をゆっくりにすることと、筋肉を緩めることは簡単にできること。この2つは、お金もかからないし、どこでもできるので覚えてもらえるように伝えています。呼吸法はどの種類でもいいのですが、私がおすすめしているのは1分間に3回ぐらいの呼吸。478呼吸と言って4秒吸って7秒止めて8秒吐く。
そのぐらいのペースに1分間に3回ぐらいするとかなり心拍も落ちますし、脳の状態は変わりますよね。とても落ち着きますので、どうしてもストレス対処法ができないときには、とりあえず3分間478呼吸をできたらやってみてほしいです。無理だったら自分の好きな呼吸法でもいいのですが、とりあえず吸気より吐気を長くする呼吸をやってねと伝えています。それプラス、筋弛緩法とかストレッチ。ヨガができる場所と時間があるからもちろんヨガの手法でいいです。
ストレス解消の効果を実感したら子どもにそのまま伝えてねって言っています。友達に悪口を言われたりとか、学校でストレス場面に遭遇した時に、とりあえずその場を離れて呼吸法をすることをお伝えしているんですが、意外と小学生でも呼吸法をしたら落ち着いたと言います。呼吸法を実践するような癖をつけておくと大人になった時に得するんですよ。」
筋弛緩法:意識的に体の部位に力を入れてから緊張を緩めるリラクゼーション法。
ー子どもの頃からやっていたら上手にもなりますもんね。自分のストレス状態にもすぐ気づくことができますし。
「だから親御さんからまずストレス対処法の知識と実践を身につけて、それをお子さんに伝えてほしいと考えています。」
生活改善の中でも睡眠の改善は手をつけやすいパートなので、やってみて損はない
ー最後に保護者や先生、子どもたちへのメッセージがあればそれぞれ教えてください。
「本書にも書いてありますが、保護者の皆さまにはお子さんについて気になることがあった場合は、まずお子さんを観察して、本書に書いてある生活改善を実践してほしいと思います。特に生活改善の中でも睡眠の改善は手をつけやすいパートなので、やってみて損はないと思います。お金もかからないし。それでも改善が見られない場合は、自分で抱え込まないで、助けてという発信をしてほしいなと思います。その発信先は、もちろんスクールカウンセラーの方もいらっしゃるでしょうし、学校の中で話しやすい先生。例えば、教頭先生など管理職の先生方は、そのような悩みを受け止める役割も担っていらっしゃるので。もちろん私たちみたいな支援者がいる場所でもいいし、いろんな場所があるので、そのまま全部自分のタスクとして取り込まないで、助けてと気軽に言っていただきたいです。あとは親御さん自身が自分のことをよく見つめて、ちょっと辛いなって思ったら自分の心身を休めることを実践していただきたい。それがお子さんにとってもいい方向へ向かう一つになるので無理はしないで欲しいです。」
ー抱え込まずに気軽に相談すること、そして自分を大切にすることでお子さんにも、それが見本になるということですよね。
「学校の先生たちもたくさんの子どもたちを抱えて、その中で学級運営はすごく大変だと思います。問題行動を出す子がいるとどうしても手がかかってしまうし。やっぱり先生も一人で抱え込まず、特別支援教育コーディネーターの先生やスクールカウンセラー、管理職。そういった人たちに助けてというか、連携ですよね。自分一人で解決しようとすると悪循環になって、子どもたちをどんどん悪い方向に導くケースが多い、と思っています。だから、先生もちゃんと寝てほしい。今は少しずつ学校現場も働き方改革で「定時に帰りましょう」という運動はあるけど、まだまだタスクが多すぎです。ちゃんと寝ていないとタスクを効率的にこなせないので、どんどんタスクが溜まっていくばかりになってしまいます。」
ー先生こそ、睡眠の重要さに気が付くべきですね。
「先生が睡眠不足では、子どもたちも落ち着いて指導されないだろうなと思います。疲弊してイライラした親や先生の元で、子どもたちが安心して明るく過ごせるかというと、それはなかなか難しい話だなと思うので。ぜひ休んでください。」
教えてくれたのは…成田奈緒子さん
1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、小児科医、医学博士。米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)など著書多数。
AUTHOR
石上友梨
大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。
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