大根の「つま」は食べるべき?刺身に欠かせないあの食べ物の役割とは|管理栄養士が解説
刺身の下に必ず敷かれている、大根の千切り。「つま」と呼ばれているのを聞いたことがあるかもしれませんね。大根なので口にすることはできますが、食べてもよいのか迷ったことはありませんか?この記事では、刺身に欠かせない大根の「つま」の役割を解説します。
刺身の「つま」は「あしらい」のひとつ
刺身の下に敷かれている大根の千切りは、一般的に「つま」と呼ばれます。しかし、本来は日本料理の「あしらい」という、料理を引き立てる添えもののひとつなのです。
「あしらい」には「つま」「けん」「辛み」の3種類があります。つまは、刺身の横に添えられるものの総称です。大根のほかには青じそ、穂じそ、紅たで、ワカメ、菊花などが使われます。大根の千切りのように、刺身の下に敷くものは「敷きづま」と呼ばれます。
けんは漢字で「剣」と書く通り、千切りにした野菜を剣のようにとがらせて、刺身の横に高く盛りつけたものです。こちらにも大根が使われることがありますが、きゅうりやにんじん、みょうがで作られたけんも見られます。
辛みは、わさびやしょうがなどを指します。薬味とも呼ばれることがあるように、刺身の臭みをおさえつつ、おいしく食べるために添えられるあしらいのひとつです。
刺身の「つま」の役割とは?
あしらいにはもともと、料理の見栄えをよくする役割があります。大根のつまも下に敷くことで、刺身のボリューム感がアップします。大根のつまがなければ、せっかくの高価な刺身も少し寂しい印象になってしまうでしょう。つまがあることで高さが出て、刺身が豪華に見えるのです。
刺身には水分が多く含まれているため、時間がたつと水分が表面に出てきて、傷みやすくなってしまいます。そこで役に立つのが、大根のつまが持つ「水分を吸収する性質」です。さらに千切りの隙間から水分が下に流れるので、大根のつまには刺身が傷むのを防ぐ効果があるといえます。
また大根には消化酵素が含まれているため、消化を促進して胸焼けや胃もたれを防ぐ効果も期待できます。大根に特に多く含まれるのが「アミラーゼ」です。アミラーゼには、でんぷんを分解するはたらきがあります。ほかにもたんぱく質を分解する「プロテアーゼ」や、胃酸の分泌を促進する「アリル化合物」なども含まれており、大根のつまには食べ物の消化を助ける役割もあると考えられます。
消化酵素は加熱するとはたらきが弱まってしまうため、大根のつまが生のまま添えられているのは理にかなっているといえますね。
大根に含まれる「イソチオシアネート」という成分にも注目しましょう。これはわさびやからしに含まれる辛味成分に近い物質であり、抗菌作用、つまり菌が増えるのをおさえる作用があります。刺身の下に大根のつまを敷くと、菌の繁殖が防げるため、食中毒の予防効果が見込めます。
ただしイソチオシアネートは揮発性成分なので、時間の経過と共に効果が弱くなってしまうのが難点です。刺身はやはり、新鮮なうちに食べるのがよいでしょう。
大根は口の中をさっぱりさせてくれるため、刺身を食べたあとの口直しにもなります。大根のつまは、ほかの料理をおいしく食べるのにも役立つのです。
「つま」は食べていいの?赤く変色している「つま」は?
大根のつまには、刺身の見栄えをよくしたり衛生状態を保ったりする効果のほかに、食べることで発揮される効果もあります。そのため、大根のつまは食べることをおすすめします。食事のマナーという観点からも、大根のつまを食べて問題になることはありません。
しかし刺身の水分を吸収して、つまが赤く変色してしまっていることがあります。そのような場合は、無理に食べなくてもよいでしょう。
大根のつまは飾りだけではなく、消化促進や口直しなどの効果が期待できます。食事を楽しめる無理のない範囲で、大根のつまを食べてはいかがでしょうか。
【参考文献】
柴田貴広・内田浩二「イソチオシアネート化合物ーアブラナ科野菜に含まれる機能性食品成分ー 」農業および園芸 93巻5号
吉田企世子 「食べ方&保存のコツ辞典」ナツメ社 2020年
AUTHOR
いしもとめぐみ
管理栄養士。国立大学文学部を卒業後、一般企業勤務を経て栄養士専門学校に入学し、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験して2022年に独立。食が楽しくなるレシピを発信するほか、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。
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