部下や同僚、子供に対して「あなたのために」と叱っても効果がない3つの理由【臨床心理士が解説】

 部下や同僚、子供に対して「あなたのために」と叱っても効果がない3つの理由【臨床心理士が解説】
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佐藤セイ
佐藤セイ
2023-05-21

「あなたのために」「愛のムチ」などの前置きとともに、相手の成長や改善を願って行われる「叱る」という行為。実はあまり効果がないことをご存知でしょうか。今回は叱っても効果がない3つの理由をご説明します。

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なぜ人は「叱る」のか?

そもそも、なぜ人は叱るのでしょうか。叱ることで得られるメリットを確認しましょう。

即座に問題が収まる

叱ることのメリットとしては、「即座に問題が収まる」という点が挙げられます。

例えば、電車で騒いでいる子どもに「静かにしなさい!」と強く叱れば、びくっとしたあと、静かになるはずです。「なぜ騒いではいけないか」などを1つ1つ説明する手間を省けます。

自分が認められた気持ちになる

先ほどご説明したとおり、叱ると即座に問題が収まります。自分が叱ることで他者をコントロールできるのです。この事実は「自分は認められている」「自分にはリーダーシップがある」など、自分が優れた存在であることを感じさせてくれます。

「叱る」ことが快楽を生む

他者を叱ると、脳内にドーパミンが分泌されます。ドーパミンは快感や幸福感を与えてくれる神経伝達物質です。その結果、他者を叱ると気分が良くなる傾向が見られます。

怒り
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叱っても効果がない3つの理由

叱ることにはメリットがありますが、それでも本来得たかった「成長」や「改善」に関する効果は得られません。その3つの理由をご説明します。

効果が続かない

叱ることでの効果はあくまで「一時的」なもの。なぜなら私たちは叱られることに慣れてしまうからです。最初は怖かった叱責も繰り返されれば、「またか」と聞き流せるようになります。

以前は「静かにしなさい!」と一喝すれば静かになった子どもも、それだけでは静かにならなくなってきます。もっと怖い顔をしてみたり、「ゲームを取り上げる」と脅してみたり、新たな叱り方を考えれば一時的に効果はあるものの、また慣れれば効果が薄れる。「叱る」と「慣れる」のイタチごっこになってしまうのです。

相手の成長を妨げる

慣れるとはいえ、叱られるのは嫌なもの。そんなときに私たちは「叱る人の顔色をうかがう」という技を身につけます。常に「○○をしても叱られないだろうか」と叱る人の顔色をうかがい、行動するようになるのです。

人が成長する上で「自分で考え、行動する」というプロセスは欠かせません。しかし、叱られ続けた人にとって「自分で考える」ことは叱られるリスクが大きいため、避けるようになります。叱ることは成長のチャンスを妨げてしまうのです。

「自分のため」に叱ってしまう

これまで叱ると反応していた相手が、叱られることに慣れて反応しなくなると、叱る人は「バカにされた」という屈辱的な気持ちに襲われます。叱ることで得られていた「認められている」という感覚が損なわれるからです。

すると、叱る人は「もう一度認められなければ!」と思い、さらに強く叱責します。ときにはハラスメントや暴力に発展するかもしれません。

相手の成長を願う心はどこかへ吹き飛び、とにかく叱って相手を屈服させることが目的になってしまうのです。

本当に「成長」や「改善」を願うときにできること

本当に相手の成長や改善を願うなら、「叱る」を手放し、適切な方法での介入へと変えていく必要があります。

「叱る」で得たかった効果を見つめ直す

叱って萎縮させたり、屈服させたり…それは本来の目的ではなかったはずです。叱ることを通して、相手にどうなってほしかったのか、冷静に見つめ直しましょう。

叱らずに済む環境を整える

「どうなってほしかったか」を分析し終えたら、今度は「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ叱っていたか」を具体的に分析してみましょう。

例えば、「電車の中で子どもが騒いでいる」というケースを分析してみます。

■いつ:○月×日の夕方

■どこで:電車のなか

■誰が:私が

■何を:「おやつが食べたい」と騒ぐ息子を

■なぜ:「しつけが出来ていない」と思われたくなくて

叱る条件がわかったら、できるだけ条件を満たさないように対策を打ちます。

例えば、「電車内では静かにさせておく」ことを目指すなら、飴を電車内で食べさせておけば、口のなかに飴があることで騒ぎにくくなるでしょう。「自発的にマナーを守れる子になってほしい」なら事前に「なぜ電車のなかで騒いではいけないか」を丁寧に説明しておき、騒ぎ始めたら「電車のなかのお約束なんだっけ?」と確認してみるのも良いでしょう。

叱らずに済む「環境」を整えるのが大事です。

おわりに

叱ることを手放すのは、難しいものです。自分の心身の調子が悪いときは、カッとなる気持ちを抑えられないこともあるでしょう。

「叱る」が成長や改善を妨げるのは、自分自身に対しても同じ。自分を叱りすぎず、「どうすれば防げただろう」と具体的に対策を練り、環境づくりに取り組むのが大切です。

参考文献

村中直人(2022)<叱る依存>が止まらない 紀伊国屋書店

中島美鈴(2022)マンガでわかる 精神論はもういいので怒らなくても子育てがラクになる「しくみ」教えてください 主婦の友社

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佐藤セイ

佐藤セイ

公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。



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