人と違うことに劣等感を抱いていない?「普通と違うこと」に悩むあなたに、臨床心理士が伝えたいこと

 人と違うことに劣等感を抱いていない?「普通と違うこと」に悩むあなたに、臨床心理士が伝えたいこと
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石上友梨
石上友梨
2023-02-05

人と違うことに悩んでいますか?人と違うことは、時に劣等感に繋がったり、他者との対人関係に影響したりと、「違う」ことは私たちの生きづらさに影響します。人との違いについて悩んでいる人は、今回の記事を参考にしてください

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「普通」という曖昧な基準

人と違うということは、「普通ではない」ということなのでしょうか。私たちは、注意やアドバイスをもらう時に「普通にしなさい」「普通は〜じゃない?」と言われることがあります。しかし、普通とは何でしょうか。それぞれ個人にとって「普通」の基準はとても曖昧で、誰か一人の「普通」に合わせることは、他人にとっての「普通」ではない可能性があります。このような曖昧なことを基準や正解とするのは、とても危険なことと言えるでしょう。そして、「"普通ではない"とされること」「"人と違う"とされること」は時に差別や偏見につながります。例えば、見た目の違い、考え方の違い、行動・振る舞いの違い、信じるものの違い等、様々な「違い」が差別や偏見のきっかけになってしまうことがあります。

私たちが集団の中で生きていく上で、協調性も個性もどちらも大切な要素です。しかし、協調性を重視しながら、個性も大切にするのはバランスが必要です。輪を乱さない、輪から外れないようにしながらも、程よく個性を残す。それは、器用でないと難しいと言えます。そのバランス感覚を苦労なく養える人もいれば、なかなかバランスを取れずに「周囲の様子を伺い、人に合わせること」等、協調性に偏ったり、反対に個性に偏ったりする場合があります。環境によっては、偏りも強みになることがありますが、一方で対人関係や生きづらさにつながってしまうこともあります。

「違うことは良いこと」という文化

昨年、メキシコのマヤ文明について学ぶ機会がありました。マヤ文明とは、メキシコの南東部など、ユカタン半島で4〜9世紀に独自の発達をして栄えた文明で、高度に発達したマヤ文字を持つ文明です。そのグアテマラとメキシコの国境にあるヤクチュランという遺跡を訪れた際、マヤ人のツアーガイドが遺跡を案内しながら自分達の文化ついて話をしてくれました。ヤクチュラン遺跡の壁画には、王様の横に肌の色が違う人、身体的な特徴がある人が描かれていました。それは何故かというと、人と違うこと、ユニークであることは、それだけで価値がある、だから、王様の側近に選ばれたそうです。人との違いが大きいことは、場合によっては悩みやコンプレックスにつながります。しかし、マヤ文明においては、大きな違いは誇りや価値につながっていたようです。このように、人との違いに対する意識は、文化によって大きな違いがあります。つまり、環境が変われば、人と違う悩みは解消されてしまうかもしれないということです。

「違うことが普通である」そんな社会に

私がオーストラリアでトラウマセンシティブヨガの研修に参加した時のことです。トラウマセンシティブヨガでは、インストラクターによるポーズの提案はありますが、個人が自由なポーズを取っていいとされています。今までは、ヨガインストラクターと同じポーズを取るヨガクラスに参加していたため、「自由」なヨガに慣れず、はじめはインストラクターと同じ動きをしていました。しかし、周囲の人はとても自由で、寝ている人もいれば、立っている人、座っている人、みんなが思い思いに動いていました。ヨガに慣れてくると、「本当はもう少し長くポーズを取りたい」「この後は違うポーズにつなげたい」という気持ちが湧くことがあります。初めはとても勇気が必要でしたが、取りたいポーズを取り始めました。そうすると心が軽やかになり、「何をしていても、ここにいてもいいんだ」という居心地の良さを感じました。おおげさかもしれませんが、丸ごとの私を認められた感覚です。全く違う動きをしても、誰もとがめない、直しに来ない、視線という暗黙のメッセージも送ってこない。それは安心感だったと振り返ります。

個性や個人の感覚を犠牲にして、決められたことを同じように行うのは、我慢や忍耐が必要です。だからこそ、何かを犠牲にせずに、「ありのままでいい」「どんな気持ちも思いも行動も認められる」という体験は大きな安心につながります。

私たちは違う人間です。生まれ持った気質が違えば、育った文化や環境も違います。違う感覚、違う考え、違う気持ちを持って当たり前。そんな「違うこと」を前提として、「違うことが普通」な世の中になっていくことを願います。そして、今の環境で人と違うことに苦しんでいる人は、視野を広げてみてください。今の場所で苦しいのなら、違う場所、違う環境に飛び込んでみることで何か変わるかもしれません。

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。



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