「普通って何?」人それぞれの「普通」を理解し認め合うためにできること|奥村安莉沙さんインタビュー

 「普通って何?」人それぞれの「普通」を理解し認め合うためにできること|奥村安莉沙さんインタビュー
奥村ありささん

誰かと同じでいることに安心感を得たり、“自分と違う誰か”に優しさが持てなかったり。誰もがなんとなく生きづらさを感じている現代社会で、自分らしく生きるには? 自分自身を信じ認めて自分らしく人生を歩んでいる方々に「これまでのこと・今のこと・これからのこと」を伺うインタビュー連載「人と違う、私を生きる」。第3回は、接客業に挑戦したい吃音の若者の夢を叶える「注文に時間がかかるカフェ」の発起人、奥村安莉沙さんにお話を伺いました。

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吃音は、スムーズに言葉が出てこない発話障がいのひとつ。奥村安莉沙さん自身も幼いころから吃音の症状を持ち、人との違いに悩んだ経験を持っています。今回の後編では、「注文に時間がかかるカフェ」を実際に開催して感じたこと、優しい社会を作るために必要なことなどをお聞きしました。

必要なサポートを当事者が発信できるように

――「注文に時間がかかるカフェ」は、接客業を夢見る吃音者がスタッフとなり、その交流を通して吃音への理解を深めてもらうという1日限定のカフェ。開催を通して、新たに感じたことや発見などはありましたか。

奥村さん:吃音当事者が働くためにいくつか工夫をしたのですが、なかでも接客マニュアルを作らず自分たちの言葉で接客したことについて、お客様から「よかったよ」「ホッとしたよ」と言われたことが嬉しかったです。

吃音者は固有名詞が苦手な人が多いんですけど、特に母音「あ・い・う・え・お」が言いづらい人は「いらっしゃいませ」も「ありがとうございました」も難しいので、そういったマニュアルを無くして自分の言葉で伝えた方がいいのかなと。それが意外と効果を発揮したという感じです。

注文に時間がかかるカフェ
高校1年生のスタッフに仕事を教える大学4年生の吃音者接客スタッフ

――スタッフの方がマスクに「話すために時間をください」など自分がサポートしてほしいことを書いていたのも印象的でした。

奥村さん:受付で一般的な吃音者への対応を説明するんですけど、人それぞれに違ったニーズがあるので、それをマスクに書くことでフォローするというか。私がオーストラリアで経験した“セルフアドボカシー”という「自分が必要としているサポートを周囲に説明して理解を求めるスキル」を身に付けてほしいなと思って、それを養う一環として書いてもらいました。

マスク
スタッフが着用するマスクには、各々が求める支援を書いた

なにかを成し遂げるときに、自分一人で出来ることってすごく少ないと思うんです。そのためには、吃音者に限らずどんな人でも周りからサポートを得る力というのは大切だなと感じているんですけど、いざ自分は何を求めているんだろうと考えると意外と分からなくて。そういうことを改めて考える時間にもなるのかなって。周りの方にとっても、サポートしやすくなりますよね。

注文に時間がかかるカフェ
「注文に時間がかかるカフェ」で接客するスタッフ

――たしかに周りはどう接したらいいんだろう、どんなサポートが必要なんだろうと悩んでしまうこともありますね。

奥村さん:オーストラリアみたいに「吃音者なのね、どうしてほしいの?」とストレートに言われることもいいと思うんですけど、日本だとちょっと馴染まないのかなと。私もそうでしたけど、思春期だと自分が吃音だとバレたらおしまいだと思っている子もいますし。

ただ、日本でも少しずつ変わっていっている部分もあるんです。当事者の学生さんが吃音についての壁新聞を作ったり、言葉の教室といったようなものが各地区に出来たり。でも、やっぱり当事者以外が先に気付いてサポートするのは難しいので、当事者が生きやすいように発信していくのが一番なんじゃないかなと私は思います。

今回のカフェを通じて、他の吃音者と関わりを持つようになったという声もあるんですよ。私自身、学生時代はひとりぼっちで世界で自分だけがこんな話し方なんだと思っていた節もあって、こんなことで死にたいって思っているの自分だけなのかなって。でも、共感してくれる仲間が一人でもいれば、自分がダメな人間だと思わなくても済んだのかなとも思うんです。「注文に時間がかかるカフェ」が、そういうコミュニケ―ションの場にもなればいいですね。

カフェ
昨年開催された「注文に時間がかかるカフェ」の様子

「普通じゃないとバレるから吃音を広めないで」という声も

――SNSなど発信できる場所があるというのも、少しいい方向に進んでいるのかもしれませんね。

奥村さん:そうですね。地方に住んでいてもSNSがあれば繋がれますから。でも、実際に発信しているとアンチというか、反対意見をいただくことも多いんですよ。「自分たちが普通じゃないことがバレちゃうじゃないか」という声もありますし。でも、「吃音がある自分」も「ありのままの自分」じゃないですか。それを隠して生きていくのは私らしくないなと今は思っていますし、私としては、必要以上に「普通」に固執することについて疑問を感じています。

――そういった声に対応したりもするんですか。

奥村さん:同じ当事者なのに、なんでアンチになるだろうと考えると、そこにはその人なりのつらさや生きづらさというのが絶対あるんです。私を苦しめたいから、ではなくてSOSを出しているのかなと。私も昔は誰にも相談できなくて、周りはみんな敵みたいに感じていた時期があるので分かるんですけど、手を差し伸べられても振り払っちゃうみたいな。だから、一概にアンチだと切り捨てずに対話を求めることもありますね。

以前、「お前のような活動家なんかいらない」と私にメッセージを送ってきてくれた人が「注文に時間がかかるカフェ」の記事を見てくださったみたいで「奥村さんのやっていることを批判していたけど、勘違いしていました」と改めて言ってきてくださったこともあって。それはすごく嬉しかったですね。

注文に時間がかかるカフェ
2022年に開催された「注文に時間がかかるカフェ」のスタッフたち

人それぞれの“私の普通”を理解するために

――「普通に固執している」という言葉がありましたが、そうならないためには何が必要だと思っていらっしゃいますか。

奥村さん:いろんな人の話を聞くことじゃないかなと思います。他人に対して「あなたは普通じゃないよ」という気持ちになるのって、そういう人が周りにいないからだと思うんです。世の中には自分と全く違う事情の人がたくさんいるって、私はオーストラリアに行って初めて気が付いたんですね。私が当たり前だと思っていた黒い髪に黒い瞳、これってここでは普通じゃないねって。それに気付いたときに世界が広がったので、もっといろんな人と出会ったり、意見を聞いたりすることが大切なのかなと感じています。

私、“普通”って言葉が嫌いなんです(笑)。小さいころから、その普通から外れちゃったんで「普通に話しなよ」と言われるのはすごく嫌だし、これが「私の普通だよ」って思います。ありのままの私なのに「普通じゃない」と否定されたり、周りの“普通”を求められて決められたりするのはすごく抵抗がありますね。

――環境や周りの価値観で“普通”を受け入れがちですけど、もっと広い視野を持つべきということですね。

奥村さん:そうですね。自分が生まれた環境が全てだと思わない方がいいんじゃないかなと思いますね。私は意識的に自分と全然違うタイプの人と話すようにしていますけど、それって結構つらいところもあって。自分の価値観に合わない人と話すのって、やっぱりちょっと違和感を持つこともあるんですよね。でも、そういう人の話を聞いていくことで、自分の世界は広がっていくと思うので、今後もたくさんの方と交流していきたいです。

――最後に改めて、これからの目標や夢を教えていただけますか。

奥村さん:以前、批判されたことで今でもちょっとチクっとしている言葉があるんです。「つらいのは吃音者だけじゃないよね」と、別の障がいを持っている方に「自分たちの障がいも広めてほしい」と言われて、確かにそうだよなと。今、吃音に関しては支援団体や啓発活動のお手伝いをしていますが、吃音以外の障がいへの理解や支援も広めていきたいなと思っています。

また、そういった当事者の方の声を集めるインタビュー企画も進めていて、「周りの人にしてもらって嬉しかったことはなんですか?」というテーマでお話を聞いて発信していきたいと考えています。これまで私の講演会にいらした方からいただいたご意見のなかでは、吃音のお子さんを持つお母さんから「子どもがつらそうなのに、自分はどうしたらいいのか分からない」と言う声があって。そういったときに当事者が自分の経験として嬉しかったことを発信していけば、それが情報のひとつとしてサポートに繋がるのかなと。当事者以外でも苦しんでいる方がいらっしゃるので、そういった方々の役に立つことができたらと考えています。

奥村安莉沙さんプロフィール

「注文に時間がかかるカフェ」発起人。吃音を含む障がいや病気の当事者が幸せに生きられる社会を作ることを目指し、当事者のための様々な活動を行っている。twitter@Arisa_Okumura

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Text by Mitsue Yoshida

AUTHOR

ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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