医師と患者の言いたいことが噛み合わない理由とは?医師が語る「がんの標準治療とエビデンスの考え方」

 医師と患者の言いたいことが噛み合わない理由とは?医師が語る「がんの標準治療とエビデンスの考え方」
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「がんの標準治療にはエビデンスがあるから効果もある」と考えてしまいますが、本当にそうなのでしょうか。治療選択時には何よりも自身の選択した治療方法に納得していることが大切です。今回は、標準治療の考え方について、免疫学者で日々がん患者と向き合っている新見正則先生にお話をうかがいました。

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がん治療の「標準治療」は必ず効果があるのか?

「がんの治療方法は手術、抗がん薬(化学療法)、放射線の3つがあります。稀少がん以外のよく目にするがんには、エビデンスが確立された『標準治療』があります。では標準治療を選べば安心かというと、結局は『運』なのではないかと私は考えています。

どういうことかと言うと、それぞれの箱に100個の玉が入っているとして、

・Aの箱・・・当たり玉70個
・Bの箱・・・当たり玉5個

このような2つの箱があったとします。エビデンスというのは、箱の中身に『差』があることを表しています。たとえエビデンスレベルが高いからといって『必ず効果がある』というわけではなく、より明確な差があるというだけです。差の大きさに関しては一切言っていません。

では治療方法を選択するときに、AとBどちらの箱を選びますか?皆さんはきっと「Aの箱」を選びたいですよね。ここで大切なことは、『Aの箱を選んでも、必ず当たりを引くわけではない』ということです。Aの箱にも30個のはずれ玉が入っていますから、それを引く可能性だってあります。逆にBの箱を選んだとして、5個のうちの当たり玉を1個引く可能性もあります。

当たり玉が多く入っている箱が標準治療です。治療方法を選択するときには『当たり玉を引かない可能性(=効かない可能性)もある』ということを知っていただきたいと思います」

医師と患者のすれ違いはどこで起こる?

「患者さんが知りたいのは『箱の中に当たりとはずれがあることはわかりました。では私はどの玉を引くのでしょうか』ということです。しかし、医師が治療選択時に言えることは『どちらの箱に当たり玉が多く入っているか』までです。

患者さんと医師の齟齬はこのあたりで生まれるものと考えられます。患者さんは『当たりを引かせてほしい』と望んでいるのに対して、医師は『当たりが多く入っている箱』の話をしているわけですから。患者さんからすれば聞きたいことが聞けないまま治療が進んでいき、効果が得られなかったときに『あの治療が間違っていたんじゃないか』という話になってしまうのです。

医師は、必ず当たりを引く方法を示せるわけではありません。ですから、治療は患者さん自身が納得している方法を選択することが大切です。納得しているのであれば『当たりの個数は少ないけれど、私はこちらの箱を選びます』という選択もできます。治療の選択は、結局効果があった方法がその患者さんにとっての真実になります。

治療選択には医師への信頼も大切ですので、もし迷いが生じるようでしたらセカンドオピニオンも検討してみるとよいでしょう」

教えてくれたのは…新見正則先生

新見正則
新見正則先生

オックスフォード大学医学博士。外科医x免疫学者x漢方医としてレアな医師として活躍中。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。院長を務める新見正則医院では、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアを基本処方にして漢方薬を加えて、各種のがん疾患や難病・難症に対応。著書『フローチャートコロナ後遺症漢方薬』(新興医学出版社)はAmazonでベストセラーに。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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