会社のストレスチェック、受けて終わりにしていない?臨床心理士が指南するストレスチェックの生かし方

 会社のストレスチェック、受けて終わりにしていない?臨床心理士が指南するストレスチェックの生かし方
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石上友梨
石上友梨
2022-11-07

ストレスチェックを受けたことがありますか?ストレスチェック制度とは、2015年12月から施行された、従業員のストレス状況について調べることを会社に法律で義務づけたものです。早めにストレス状況に気づくこと、そして、環境改善などを実施するために「心の健康診断」のようなイメージを持ってください。今回はその活用方法についてお伝えします。

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このストレスチェック、なんとなく回答しているだけの人も多いのではないでしょうか。筆者はストレスチェック制度が義務化される以前からストレスチェックに関する仕事をしていますが、その結果を活かせていないケースが多いと感じます。ストレスチェックの結果は、個人にとっても、組織にとってもメンタルへルスを予防する大切な資源です。宝の持ち腐れにならないように、今回の記事を参考にしてください。

個人のストレスチェックの活かし方

ストレスケアのメインの目的は一次予防です。一次予防とは、病気になることを予防したり、健康増進をしたりと、病気になるリスクを減らすことをいいます。つまり、自分のストレス状況に気づき、セルフケアや対処行動を取るきっかけにすることが期待されています。例え、高ストレス者(ある基準に基づいてストレスが高いと職場から選出された人)にならなくとも、前回の実施よりストレス状況が大きく悪化している場合は注意が必要です。セルフケアとして趣味やリラクゼーションをすること、医療機関などに相談に行くこと等の対処行動がおすすめです。もし高ストレス者に選ばれた場合は、希望に応じて産業医の面接を受け、それに基づく就業上の配慮などを受けられる可能性があります。就業上の配慮とは、例えば長時間労働の制限などです。しかし、ストレスチェックの結果は本人の同意なく会社は知ることができないので、面接をしたい場合は自ら希望する必要があります。

ストレスチェック
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組織のストレスチェックの活かし方

個人のストレスだけではなく、部署や係など集団のストレス値を分析している場合は、ラインケアの二次予防として活用することができます。ラインケアとは、職場の管理監督者が部下の変化に気づき、相談対応や環境改善などを努めることをいいます。二次予防とは、すでにストレスによって健康に影響が出始めた段階で、早期発見、早期対応をすることで、病気の重症化や長期化を予防することです。つまり、集団を分析した結果を見て、支援を増やしたり、職場環境を改善したりすることで、ストレスによる不調感が出始めている人の対応をしようとするものです。

しかし、集団の人数が少ない場合は、個人が特定される可能性があるため、個人情報保護の問題から分析がおこなえない場合があります。

集団のストレスチェックの結果を分析した結果、集団のストレス値が変化している場合は「何かある」可能性があります。企業によりストレスチェックの質問項目は異なりますが、基本的には、「仕事の量的な負担」「仕事のコントロール感」「上司からの支援」「同僚からの支援」について数値化されます。これをストレス値が変化した犯人捜しの材料に使うのではなく、社員のストレスを減らし環境改善のために何をすべきなのか、具体的な施策をおこなう上でのヒントにすることができます。

良い変化を他部署にも広げていく

集団を分析して対策を検討することは、直接的な従業員のストレス低減だけではなく、会社が働きすい環境を作ろうとしているという姿勢を示すきっかけにもなります。そして、ストレスが高い部署、悪化している部署など、ネガティブな点に注目するだけではなく、ストレスが低い部署、ストレスが低減している部署に注目することで、良い施策、良い環境や働き方を会社全体に広げていくことができます。例えば、女性の従業員のストレスが下がった部署は、女性の更衣室の環境整備をしていたり、部署全体のストレスが下がったところは休暇の申請方法を見直していたり、自販機に入れる飲料水をアンケートで決めるようにしたりと、ささやかながらもストレス低減に影響を与えている施策が潜んでいるのです。他にも上司との定期面談を増やしたところ、定期面談の際に上司を選べるようにしたところ、オンラインツールを積極的に導入したところなど、様々なケースがあります。やはり会社の実情にあった施策を検討するためには、他部署のケースが参考になることが多いです。もしやりっぱなしで眠っているストレスチェックのデータがあるのでしたら、是非活用していくことを検討してくださいね。

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。



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