育児は苦労すべき…という外圧なぜ?「男性育休」体験談から学ぶ、“楽“を創り合う協力育児のメリット
昨今、男性も育児をすることが当たり前になっているが、令和3年度雇用均等基本調査では男性の育児休業取得者は13.97%と、増加傾向にあるものの数としては少ない。またSNSを見ていると「育休を取得しても夫が育児をしない/できない」という実態・イメージがあることがうかがえる。コミックエッセイ『育休夫婦の幸せシフト制育児』(オーバーラップ)の著者の芳田みかんさんと夫のタロウさんは、シフト制育児にて2人で協力して、お互いの睡眠時間や自由時間を確保しながら育児を行ってきた。後編では男性育休や「育児=大変」というイメージについて話を伺った。
「育児をするお父さん」が想定されていない
——育休取得を検討した際に「男にできることは何もない」と言われたとき、どのように感じましたか。
タロウさん(以下、タロウ):最初は子育てについて漠然と「母親が子どもをあやしている図」をイメージとして持っていたため、「男にできることはあまりない」と言われても、特に違和感はありませんでした。しかし、男性育休について調べるうちに「育休を取っても役に立たない父親」の話を多く見るようになりました。せっかくの機会に「役立たずの烙印」を押されるのも嫌だったので、どのように過ごしたらいいかを考えなくてはいけないとは思っていましたね。
——書籍では予防接種に行った際に、お父さんが来ることが想定されていないような反応をとられて気まずい思いをされたことが描かれていましたが、他にもお父さんがすると想定されていないと感じたことはありますか。
タロウ:育児をしている中で、育児書や育児グッズ、相談会などに「お母さん」「ママ」を主語にした表記が思った以上に多いことに気づかされました。それを見ると少しモヤっとした気持ちになります。こういった現状がジェンダーの役割を固定化している原因の一端を担ってしまっているのではないか、と個人的には思っています。
娘の成長を間近で見られて嬉しい
——どんなときに自分も育児に主体的に関わって良かったと感じますか。逆に育児がつらいと感じるときはありますか。
タロウ:子育てという新しい楽しみに出会えたことです。娘のぴこちゃんの成長を間近で見られて楽しいですし、それを夫婦で共有できる嬉しさもあります。つらかった点は、ぴこちゃんが生まれる前にはしていた夜中に外でお酒を飲むなど、これまでの楽しみの時間が少なくなったことですね。なので、育休が終わり仕事復帰した今でも、自分の時間を確保するために、妻と毎月スケジュール調整をし合って、お互いに自由時間を取れるようにしています。
——男性が育児に積極的に参加することで、夫婦の関係や子どもへどんな影響があると感じましたか。
タロウ:育休中に一通りの育児スキルを獲得しておいたことで、その後の私のワンオペの日もストレスが少なくスムーズに育児できていると思ってます。特に我が家では、土曜日は妻が仕事で、かつ保育園がお休みのため、私のワンオペが必須です。
子どもへの影響は実際に大きくならないとわからない部分もありますが、私の抱っこでも泣き止んだり、満面の笑みを向けてくれたりと、現時点では良い親子関係を築けているのではないかと思っています。私自身もぴこちゃんに限らず赤ちゃんと接すると「かわいい」という気持ちが自然に出ています。子育て以前はなかった現象なので、自分の変化を実感していますね。
——収入減少の心配から育休を取得できない夫婦も少なくないようです。どのような形で育休中に家計の工夫をされましたか?
みかんさん(以下、みかん):正規雇用のフルタイム共働きで、貯金もしていたので、カツカツになることはなかったです。育児休業給付金は働いていたときの3分の2をもらえたのですが、社会保険料が引かれない分、手取りは働いているときと大きく変わらなかったんですよね。ただ給付金の開始が私の場合は3か月後だったので、家賃や生活費、赤ちゃんのために色々と買い足しが必要になることもあり、貯金は大事だと思いました。
——作中からはタロウさんの職場が男性育休に前向きな印象を受けます。
タロウ:実際に育休を取得している男性の先輩も複数いて、社内のお父さん同士の繋がりや、育休を取得したパパママ会をオンラインで開催するなど、男性が育休を取ることが特別なことという雰囲気ではないですね。
——世の中には依然として、男性が育休を取ることに対して馬鹿にするなど、育休を取りにくい職場もあると聞きます。
タロウ:私は妻と共に育児をし、夫婦・親子間でとても良い関係を築けていると感じるので、どうしても育休を勧めたくはなりますが……。まずは出産後の育児方針について、ご家庭で話し合ってみるといいと思います。
みかん:男性育休を馬鹿にするような空気のある環境にいたり、身近で見聞きしたりしたことがないので簡単には言えないのですが……。「男性育休=ただ遊んでる」というイメージはまだ世の中にあると思うので、それゆえに反対されているのでしたら、この本を「こうやって育休を取りたいんです。遊ぶのではなくて、妻と2人で育児をしたいんです」という説明に使っていただけたら嬉しいです。
育児は苦労しないといけないもの?
——「育児=大変=自分の時間は取れない」というイメージがありましたが、貴著を読んでイメージが変わりました。ときどきちょっとした自分の時間を取るイメージはあったものの、育休中に温泉旅行に行くイメージは持っていませんでした。
みかん:温泉旅行のエピソードは読者さんからの評判が良かったです。「育児中に楽しんでいいんだ」「旅行をする発想がなかった」という反応をいただきました。温泉旅行に行こうと思えたのは、タロウさんの職場の男性の先輩の経験談がきっかけでして。その方は育休中に1カ月ハワイで過ごしていて、それで場所を変えて育児をするという方法に気づきました。私たちが持ってる育児本には「赤ちゃん連れで旅行」という情報がなかったので、1人だったら出てこない案だったと思います。
——本書では資格試験の勉強もされています。SNSで育休中に資格取得しようとする男性が批判されているのを見たことが何度かあって、育休中には難しいことだと思い込んでいました。
みかん:「育休取得しても育児をしない男性」のイメージが世間にはありますし、育児をせずお母さんに負担が偏った状態で資格取得するということでしたら、話し合った方がいいと思います。でも、本書で描いたように、一緒に育児をしながらお互いが自分の時間を確保するなかで勉強することは可能です。赤ちゃんのお世話をするのが大前提で、そのうえでお互いが自分の時間を持つのであれば、その時間をどう使うかは自由だと思います。
——「子育ては苦労すべき」といった妙な外圧もあるような気がします。
みかん:私も発信するにあたって、単純に「育休中に遊べる」と言ってしまうと誤解を招くので、育児をしているところは見せなければとは思っています。ただ「苦労している人もいるのだから、あなたも我慢すべき」といった抑圧は、結局自分の首を締めることになると思います。「育児は大変であるべき」というイメージを世間に植えつけたら、自分も羽根を伸ばせないですよね。
世間が子育てに対してもう少し寛容になって、親が自分の時間を持ちながら育児してもいいとか、もっと家庭外に頼れる仕組みが必要とか、子育ての財源が必要とか、みんなでより子育てしやすい仕組みになるよう議論していけたほうがいいと思っています。
——本書は二人で育児をしていることと、二人とも育児も自分の時間も楽しんでいるところがお手本になると思いました。
みかん:ありがとうございます。「育児=大変」というイメージはどこから来てるのだろうと考えたのですが、SNSの影響は大きいと思うんですよね。そのイメージを覆したくて、子どもが欲しいと思っている人に希望を持ってもらえたらという思いで「育児しながら遊んでもいいよね」「男性が育休を取ることには大きな意味がある」と、この本でも私のTwitterでも意識的に発信しています。これから子どもが欲しいと思っている人には「みんなで楽になろう」という方向に乗ってもらえたら嬉しいです。
※前編ではシフト制育児についてお話をお伺いしています。
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