疲れやすい…抜け毛が多い…その症状、実は貧血かも?貯蔵鉄の不足「隠れ貧血」の正体とは【医師監修】

 疲れやすい…抜け毛が多い…その症状、実は貧血かも?貯蔵鉄の不足「隠れ貧血」の正体とは【医師監修】
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立ち上がった瞬間、フラッと立ちくらみがしたり、階段を上がる途中で息切れがしたり、抜け毛が増えたり……。女性に多いといわれる隠れ貧血について、体内の鉄に詳しいミライメディカルクリニック院長の熊澤浩明先生に、具体的な症状や原因、治療法などを教えてもらいました。

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意外と知らない「貧血」と「隠れ貧血」の違い

「貧血」とは、何らかの原因で血液中の赤血球にあるヘモグロビンが不足している状態をさします。貧血の原因はいつくかありますが、月経のある女性に特に多いのが“鉄欠乏症貧血”です。血液検査の項目にある血色素量(ヘモグロビン)が、基準値の11.2mg/dl以下(病院やクリニックによって、基準値が若干変わる場合があります)の場合に診断されます。では「隠れ貧血」とは、どのような状態をさすのでしょう?

「血液検査で鉄欠乏症貧血とは診断されないけれど、めまい、息切れ、立ちくらみなどの貧血症状があり、体内にストックされている、いわゆる貯蔵鉄を表す「フェリチン」が不足している状態が『隠れ貧血』です」と熊澤先生。

頭痛
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血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンを十分につくるには、鉄が必須になります。そのため、ヘモグロビンが不足しないように、血液中の鉄を使って不足を補おうとしますが、何らかの理由で鉄が足りなくなると、貯蔵鉄のフェリチンを利用することに。鉄不足が持続し、フェリチンが枯渇すると、ヘモグロビンがつくられなくなるので、血液検査で貧血になります。ところが、貧血まではない(血液検査で貧血ではない)が、フェリチンが一定以上不足している「隠れ貧血」の状態でも、さまざまな体調不良を招きます。鉄は酸素を体中に運ぶ、エネルギーをつくる、免疫を高める。コラーゲンをつくるの(美容効果)などいろんな働きがあります。

「貧血ではないけれど、隠れ貧血」という状態を例えるなら、冷蔵庫の中に食材(鉄)のストックがなく、その日の食材を日々まかないながら、最低限の料理をつくっている状態と言えます。

隠れ貧血チェック

「もしかしたら、隠れ貧血かも……」と感じている人は、下のチェック項目を確認してみて。あてはまる症状がある場合は、隠れ貧血の可能性があります。

(1)疲れやすい、朝起きるのが辛い
(2)頭痛、頭が重い、肩こり
(3)爪が変形しやすい、抜け毛が多い
(4)イライラ、注意力の低下、神経過敏
(5)動悸、息切れ、めまい、ふらつき
(6)むくみ
(7)寝つきが悪い
(8)湿疹ができやすい
(9)口角炎、口内炎ができやすい
(10)風邪をひきやすい、微熱がでやすい
(11)歯肉からの出血、アザができやすい
(12)胸が痛い

この中で特に多いのが、1~4の症状。またチェック項目にはありませんが「脚がむずむずする」「必要以上に氷を食べたくなる」という症状も、鉄不足が関係している場合があるそう。

女性に多い隠れ貧血は、不妊の要因にも

隠れ貧血の原因として、まず考えられるのが、食事による鉄分摂取の不足です。以前、家庭で料理をつくるときは、鉄のフライパンや鉄鍋など、鉄製の調理器具が多く使われ、食事から自然と鉄分を摂取できていました。ところが、今はステンレス製の調理器具が主流となり、食事から鉄分を摂ることが難しくなったのです。鉄の含有量が多いとされていたひじきも、調理器具にステンレスが導入されるようになり、以前に比べて鉄の含有量が少なくなったと言われています。

加えて、月経がある女性は定期的に出血があることで鉄分が失われやすく、隠れ貧血のリスクが高まります。

「女性のライフステージで考えると、妊娠・分娩のタイミングで、多くの鉄が消費されます。そして出産後、消費された鉄を十分に補充できないまま月経が再開することで、さらに貧血症状をおこしやすくなると言えます。やがて更年期を迎え、月経による出血が少なくなると、鉄不足は徐々に解消されます」(熊澤先生)

このように、貧血症状は女性のライフステージとともに変化しますが、実は、隠れ貧血が不妊の原因になることもあるそう。

「鉄には、子宮内の粘膜を厚くする働きがあります。そのため、鉄が不足し、子宮内膜の粘膜を十分に厚くすることができなくなると、受精卵が着床しにくくなり、不妊に繋がりやすいと考えられています。隠れ貧血が不妊の原因のすべてではありませんが、妊娠を希望する場合は、隠れ貧血の心配がないかを、チェックすることも大切かもしれませんね」(熊澤先生)

子宮
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血液検査の血色素量(ヘモグロビン)・血清鉄・フェリチンをチェック!

隠れ貧血は血液検査を行い、血色素量(ヘモグロビン)、血清鉄、フェリチンの数値で判断されます。ただ、一般的な健康診断の血液検査ではフェリチンが計測されないため、隠れ貧血を明確に判断するには、フェリチンの検査を行っている病院やクリニックをリサーチすることが重要になります。

その上で、隠れ貧血のリスクを知るには、一般的な血液検査の血色素量(ヘモグロビン)と血清鉄の項目をチェック。血色素量(ヘモグロビン)が基準値11.2mg/dl(基準値は病院やクリニックによって多少変わる場合があります)に近い、11.3mg/dl前後の場合、隠れ貧血の可能性があります。血清鉄は、理想値が100 µg/dlで、それ以下の場合は隠れ貧血が疑われます。しかし、血色素量が全く正常であってもフェリチンが(理想値が80~125mg/ml)、40 mg/ml以下の場合に隠れ貧血と診断されます。

では、貧血症状を改善するために、病院やクリニックでは、どんな治療が行われるのでしょう?

「血液検査の結果、鉄欠乏症貧血と診断された場合は、鉄剤の内服、または静脈注射で治療が行われます。内服治療は、毎日鉄剤を飲んで鉄分の不足を補いますが、吐き気、胃痛、便秘、下痢などの腹部症状が副作用として現れることがあります。その場合は、鉄のサプリメントへの切り替えが検討されます。静脈注射は、深刻な貧血症状の応急処置や、鉄剤を受けつけない人、妊娠中の女性の治療などに、週2回のペースで行われます。隠れ貧血の治療では、鉄剤の内服、静脈注射が保険適用外となるため、鉄のサプリメントを処方されることが多いですね」(熊澤先生)

治療費の目安は、保険診療で鉄剤の内服治療行う場合、初診料+鉄剤1か月分の処方で5000円ほど。保険診療で静脈注射を行う場合は1回2000円ほど。保険適用外で、隠れ貧血の治療を行う場合は、料金は病院やクリニックによって費用が異なります。

治療以外で、ふだんの生活で隠れ貧血を予防するには、毎日の食事で鉄分の多い食材を積極的に摂ることが大事。鉄分の多い食材には、鉄分が入った豆乳、レバーを始めとする肉、ほうれん草、小松菜、乾燥バジルなどがあります。

鉄分
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「バジルは、生の状態だと鉄が少ないのですが、乾燥すると鉄が多くなります。乾燥バジルを多く使うジェノベーゼパスタなどを意識的に食べると、鉄分を摂取しやすくなりますね」(熊澤先生)

バジルパスタ
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気をつけたいのは、市販の鉄サプリメントの過剰摂取。

「今は、ドラッグストアなどでサプリメントを手軽に購入できますが、市販のサプリメントで鉄を摂りすぎるのは、とても危険。というのも、人間の体には鉄を排出するシステムがないため、鉄を過剰に摂取すると、体のあちこちに鉄が沈着して体調不良を招く危険があります。隠れ貧血の改善にサプリメントを摂取したい場合は、病院やクリニックで専門の医師に相談するのが安心です」(熊澤先生)

処方
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また、貧血症状には、病気が隠れているケースも。女性の場合は、子宮筋腫や子宮筋腺症など、婦人科系の病気が関係している場合あります。貧血症状に加えて、便に黒い血が混じる場合は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、大腸がん、大腸ポリープなど、消化器官からの出血の可能性が考えられます。便に赤い血がつく場合や、きれ痔やいぼ痔など、痔の可能性も。いずれも、自己判断をせず、医療機関の検査を受けることが大切です。

教えてくれたのは…MiRAI MEDICAL CLINIC院長 熊澤浩明先生

熊澤浩明先生

宮崎大学医学部卒業。公益社団法人福岡医療団・千鳥橋病院、喜悦会社会医療法人・那珂川病院にて外科医として勤務後、MiRAI MEDICAL CLINIC開業。ビジネスパーソンの心と体の様々な悩みを解決するため、血液検査を通じて劣化・酸化・糖化・病化の予防・改善に努めている。

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Text by Minako Noguchi

AUTHOR

ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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