「マインドフルネス」の先駆者、ティック・ナット・ハンが教えてくれたこと
先日2022年1月22日夜中0時ちょうど、ティック・ナット・ハン氏が死去したことが報道されました。95歳でした。彼は私の人生だけでなく、世界中のいろんな人たちに非常に大きな影響を与えた人物。社会参画仏教(Engaged Buddhism)の命名者ですが、それ以上に彼は「マインドフルネス」マスターとして知られています。
「彼は大きな松の木のようだった。思いやりの枝で、人々を優しく受け止めた。」
ベトナム出身の禅僧であり、平和・人権活動家であったハン氏。彼の奏でる美しい詩や素晴らしい著書によって、禅は世界中に広まりました。若き頃、1966年にはアメリカに渡り、ベトナム戦争終結の和平提案を行うなどし、ベトナム政府から帰国を拒否されてしまいます。9か国語を話し、プリンストン大学やコロンビァ大学で教壇に立ってエリートたちに心の在り方などを指導。社会にある大きな問題や人々の間のわだかまりにおいても、常に平和的解決の道を模索する必要性を問いたのです。例えば彼から大きな影響を受けた人物として、すぐにマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師(アメリカにおける対アフリカ系アメリカ人への人種差別の公民運動者代表)の名前が挙がります。彼の人間性に魅かれたのはキング牧師など有名人だけではありません。小さな子どもにも優しく問いかける彼の徳の高い姿を、現在ではYouTubeの動画で見ることができます。
人生の後半生はフランスに設立した「瞑想センター」で過ごした氏。ここを拠点として様々な場所でリトリート・瞑想・講演会を行いました。39年たってようやく、2005年に母国ベトナムへの入国が許可されたハン氏。僧侶としてスピリチュアルな旅が始まったルーツである慈孝寺で、その生涯を閉じたのです。
平和的で、自分にとって意味ある人生を送ろう
100冊以上の本を執筆したハン氏。彼の著書には、瞑想を実生活に取り入れるためのエッセンスがふんだんにちりばめられており、少し手の届きづらかった「マインドフルネス」についても、非常に優しくて暖かい言葉で説かれています。人の人生に大きく影を落とし、支配する「悩み」や「苦しみ」。特にこのコロナ禍における不安で揺れる心の正体について知りたい時や、仕事のことで頭が一杯である時、私たちの意識はココロの内面からそっぽを向いています。リラックスしたいのに、どうストレスを解放したらよいかわからない。自分を甘やかす方法がわからず、暴飲・暴食など間違った方向に行ってしまう時もあるでしょう。彼の本を読むと、仏教をベースにした生きやすさの教えを知る事ができ、どのように「癒し」を探せばよいのかのヒントを得ることができます。常に騒がしい私たちのマインドに、どのように少しでもスペースを作ればよいのか。体に走る緊張の糸を解きほぐしてあげるには、いったい何をどう変えてゆけばいいのか。瞑想を日々取り入れると、ホンモノの幸せを知ったり「見る眼」が養われ、自分の意思に迷いが生じることがなくなります。心がざわついた時、ぜひ彼の本を手にとって欲しいです。
「地球に足でキスをするように、歩きなさい」
彼の有名な言葉ですが、私はこれを実践するよう心掛けています。日々忙しなく、食べることも歩くことも早くなり、生きていくことに一生懸命だからこそ、呼吸も浅くなっている事にさえ気づきません。「マインドフルネス」の真髄は、自分を愛し、思いやる事です。そして自分を思いやるように他人や生き物・全世界を思いやりに満ちた目で眺める時、実はすでにもう手の中にあった「癒し」に気づくことができるのです。
AUTHOR
キュンメルめぐみ
外資系企業勤務を経て、ストラスクライド・ビジネススクールにて経営学修士号(MBA)を取得。1999年独渡。現在はお茶ソムリエ・栄養士・ヨガインストラクターとしてカルチャースクールで教室を開催する傍ら、個人やスポーツ選手の栄養アドバイスなども行っている。日々のつぶやきをnoteで発信中。
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