誰もが「孤独すぎる」時代、 アメリカでは「仏教に学ぶ」動きが|在米メディテーターに聞いた

 誰もが「孤独すぎる」時代、 アメリカでは「仏教に学ぶ」動きが|在米メディテーターに聞いた
David Nickturn/True Nature Meditation
SAKURA
SAKURA
2021-01-20

まだまだ終わりが見えないコロナとの闘い。感染者数 2140万人、死者36万1千人のアメリカで静かなブームが起きている「仏教に学ぶ」。1970年にチベット仏教を学び始め、その後、仏教を軸とした瞑想、メディテーションに関して50年余りの指導歴を持ち、日本でも指導してきたディビッド・ニックターン氏に聞いた。

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ニックターン氏は東京・渋谷区「トゥルーネイチャー・メディテーション」のプログラム・ディレクターとして、1年に数回来日し、多くの日本人に瞑想、マインドフルネスを教えてきた。「昨年春にも日本に行く予定でしたが、3月以降、海外はもちろん、アメリカ国内もどこにも行けなくなり、今は指導者を養成するティーチャートレーニングメディテーションセッション、仏教クラスなどすべてオンラインで実施しています」と言う。

もともと瞑想、マインドフルネスへの関心が高かったアメリカだが、コロナによるパンデミックのなかでさらに関心が高まっているのを実感している。「昨年秋、他の先生と一緒にオンラインで開催した『シャンバラ』というプログラムは日本、ヨーロッパ、南米など世界中から1000人もの人がエントリーし、200人がキャンセル待ちしていました」。

ディビッド・ニックターン氏
瞑想やマインドフルネスの指導者を養成するティーチャートレーニングの他、メディテーションのセッション、仏教クラスなど全てオンラインで実施している。写真提供:True Nature meditation

『シャンバラ』のワークショップは、ニックターン氏らの師であるチベット仏教の西洋への普及に貢献したチョギャム・トゥルンパ・リンポチェの著書『Shambhala – the Sacred Path of Warrior』に基づいて、シャンバラのビジョン、哲学、そして具体的な瞑想実践の方法について教わり、今の生活の中での瞑想のあり方、瞑想と自身の人生の関わりについて学ぶ内容だった。誰でも入りやすい印象のマインドフルネスに比べると、チベット仏教をベースにした難解にも感じられるワークショップに1000人以上の人が参加したことは、実はオンラインという利便性以外の背景もあった。

確かにコロナにより、アメリカにおける瞑想、マインドフルネスに対する関心はオンラインレッスンだけでなく、スマートフォンのアプリ『Calm』や『Headspace』の人気も急上昇している。特に『Calm』は世界190ヵ国、7ヵ国語で視聴可能、2020年12月には日本語オリジナルコンテンツの提供も始まった。人々のストレス、不安感、不眠症などのメンタルヘルスのケアに力を入れており、2020年初頭までの総ダウンロード数は約1億、有料ユーザー数は4百万人、今でも毎日約10万ダウンロードされているそうだ。ニックターン氏も「これらのアプリを使えば、メディテーションのプラクティスが自分でできるという点がこのコロナ渦で多くの人に受け入れられ、Calmは20億ドルという企業価値評価を受けたと、最近のニュースになったほどです」と、この動きを説明する。

ディビッド・ニックターン氏
コロナ以前に行われたメディテーションクラスの様子。写真提供:True Nature meditation
ディビッド・ニックターン氏
コロナ禍の現在はオンラインでワークショップを開催。写真提供:True Nature meditation

苦しみを理解するために、私たちがまずすべきこと

「今のアメリカは混沌として、とても不安定です。コロナウィルスによって世界一の死者が出て、その勢いは衰えを見せない。他にも大統領選挙、BLMなど全てが積み重なって、一言で言えば利己主義的な状況です。誰も人のことなんて考えていないような…危険とまで言えなくとも、非常に厳しい状況です。そんな中で、瞑想、マインドフルネスというものが自分の心を落ち着かせてくれるという意味で、とても助けになっていると感じている人が増えているのだと思います」と、分析する。

ディビッド・ニックターン氏
ディビッド・ニックターン氏

そのニックターン氏がマインドフルネスから一歩踏み込んだチベット仏教を軸にしたワークショップを開催するようになったのはなぜなのだろうか。「今、世界中で起こっているさまざまな状況。この状況は突然どこからともなく湧き上がってきたと私たちは思いがちですが、必ずそこには理由があり、原因があり、時に私たち自身が作り出しているのです。ブッダはただ教えを説いたわけではなく、その状況がなぜ起きたのかということまで考えたのです」。

例えば、あなたは今、とても苦しい状況にいるとしよう。仕事がうまくいかないストレスに苛まれている、心が折れそうになっている、不安や悩みにとらわれている、孤独でつらい、など。そういうとき、人はその苦しみにとらわれ、苦しみそのものにしか目を向けなくなってしまいがちだ。

「まず、その苦しみを理解するためには、何が原因なのかということを私たちは見なくてはいけません。その原因は自分自身の中にあったり、自分が作り出していたりする。誰かのせいにするのではなく、自身が作り出していることに目を向けなければいけません。自分のマインドと向き合い、それを理解する、これが仏教の神髄なのです。つまり、仏教は自分自身について学ぶものであるとも言えるでしょう」これを学べるのが、ニックターン氏が教える『ABHIDHARMA 仏教心理学』のワークショップである。2021年2月には日本語通訳付きで、オンラインで学べる。「仏教を学ぶ」「アビダルマ」「仏教心理学」というとハードルが高そうに感じてしまうが…

「アビダルマというと急に難しく感じてしまうかもしれませんが、実際にはマインドの働きについて心理学的な勉強をします。自分のマインドがどのように動いているのか、なぜ怒りが生じるのか、どのようにマインドが作られるのか、その下には何があるのかを探っていきます。まさにブッダがブッダである所以というか、彼が自身の心の性質を理解したように。私たちは体についてはよく知っているけれど、マインドについてはよく知らないですよね。それを私と一緒に探求していくのが、このワークショップなのです」

ディビッド・ニックターン氏
「自分のマインドと向き合い、理解することこそが、仏教の神髄」と語るディビッド・ニックターン氏。

混沌とした時代の中で「自分について学ぶ」その先にあるものとは

自分自身について学ぶことの意味をニックターン氏は語る。「脳科学の分野でマインドフルネスがプラスになるというエビデンスがいろいろ発表されていることは事実ですが、ここで忘れていけないのはマインドフルネスは仏教の長い伝統のうちの、ほんの一部、入口や取っ掛かりだということです。では、この先にあるものは何でしょうか? 私は自分を知ること=セルフコンパッション(自身に対する思いやり)、他人に対するコンパッションだと思います。自分に優しくありましょう、まずはそこからです。自分に優しくなければ、他人に優しくすることは難しいのですから。マインドについて学ぶことが、なぜ『自分に優しく』につながるのだろう?と、疑問を抱くかもしれません。でも、つながっているのです。まずは2月に開催するワークショップで『思考とは何か』『そしてそれはどこから来るのだろうか』ということを一緒に考えていきましょう、きっと楽しいはずです」。

自分に優しく。どうしたら、自分に優しくなれるのか?出口の見えないコロナ渦で、誰もが不安を抱えている今だからこそ、世界中から「仏教を学ぶ」オンラインワークショップに人が集まり、その動きが少しずつ広がっているのかもしれない。

ニックターン氏は最後にこう語った。「6年前からトゥルーネイチャーで教えていたので、3か月ごとに日本に来るたびに、近くにある新国立競技場が少しずつ出来てくるのを見ていました。巨大なスタジアムがだんだん形になってくるのを。それが、東京オリンピックが中止になってしまった。何かを予定していても、次に何が起こるかなんて誰もわからない。それはとても仏教的、無常ですね」 

ディビッド・ニックターン(David Nichtern)

指導導歴50年を超えるアメリカでも著名なメディテーション・ティーチャー。1000年以上受け継がれる伝統的なメディテーション・メソッドを、現代の日々の生活にとりいれるかを主題に指導を行う。また、アメリカで数多くの有名企業へのプログラムの開発やスポーツ選手へのマインドフルネスを活用した能力開発などを精力的に行っている。
website: http://www.davidnichtern.com/

デヴィッド true nature
ディビッド・ニックターン氏

【ABHIDHARMA 仏教心理学】
ワークショップ詳細についてはトゥルー・ネイチャーのウェブサイトにて

※アメリカ合衆国における新型コロナウイルス感染者数および死亡者数は2021年1月7日時点のデータ

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Translation by Waka Fujii
Special Thanks:Suketaka Kawazu



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