【医師が解説】更年期障害の救世主「HRT(ホルモン補充療法)」のメリット・デメリット
顔のほてりや発汗、イライラ、不眠……etc、更年期に現れる、さまざまな不調の改善に有効な治療のひとつが「HRT(ホルモン補充療法)」。その具体的な治療法と、メリット・デメリットについて「麻布モンテアール レディースクリニック」院長・山中智哉医師にお話をうかがいました。
複数の更年期症状の改善にHRTが効果的
更年期にさしかかると耳にすることが多い「更年期症状」と「更年期障害」。どちらも、よく似た言葉ですが、なにが違うのでしょう?
「更年期とは、閉経の前後5年間と定義されています。日本人女性の閉経の平均年齢は50歳前後と言われているので、40代半ば〜50代半ばの10年間が更年期にあたる人が多いですね。この時期は女性ホルモンのエストロゲンの減少による、顔のほてり、発汗、息切れ、動悸などの体の症状や、イライラ、抑うつ感などの精神的な症状が現れやすくなります。これらの症状を総称して「更年期症状」と呼び、更年期症状が日常生活に支障を及ぼすレベルになり、病院を受診したときに診断される病名が「更年期障害」です。なので、更年期障害の症状が、更年期症状と言えますね」(山中医師)
更年期障害と診断された場合の治療法には、漢方薬やプラセンタ注射による代替療法とHRT(ホルモン補充療法)による根本療法があるそう。
「更年期症状が複数みられる場合は、HRTでエストロゲンの不足を補う根本療法が効果的ですね。エストロゲンを補う薬は、内服薬、貼り薬、ジェルの3種類あり、エストロゲンの副作用のリスクを軽減するために、プロゲステロンも併用します。治療費は病院によっても異なりますが、保険が適応されて一般的に月に2000円前後と言えますね」(山中医師)
【HRTの薬の種類】
内服薬
薬を服用することで、腸から薬効成分が吸収され、肝臓に入り、全身にいき渡ります。肝臓を経由するため、分解される薬の成分もあります。
貼り薬
湿布薬のように薬を皮膚に貼ることで、薬効成分が皮膚から直接、血管に吸収され、スムーズに効果を発揮します。皮膚が弱い人は肌荒れやかぶれをおこし、不向きな場合も。
ジェル
ジェル状の薬を皮膚にすり込むことで、皮膚から直接、薬効成分が血管に吸収され、血流にのって全身にいき渡ります。皮膚が弱い人は、肌荒れやかぶれをおこすケースも。
HRTの副作用とは?
更年期障害の改善に有効なHRTですが、副作用も気になるところです。
「HRTを始めると、不正出血や乳房の張り、痛みなどを感じることがありますが、こうした症状は治療を続けるうちに自然と治まります。重篤な副作用としては血栓症があり、血栓症の既往がある人や、血栓ができやすい体質の人は、HRTを行うことができません。また、乳ガンや子宮体ガンの既往がある人も、HRTは受けられません。そう聞くと、発ガンリスクを心配する人も多いかもしれませんね。以前は、HRTは乳ガンや子宮体ガンのリスクを高めると提言されていました。しかしその後、研究が進み、現在では乳ガンや子宮体ガンの既往がない場合は、プロゲステロンを併用することで、生活習慣病による発ガンリスクと差がないと考えられています。また、5年以下の治療では、発ガンのリスクを高めないと考えられているため、治療の目安を5年とし、乳ガンや子宮体ガンの検診を定期的に行いながら治療を進め、5年を過ぎたら薬の量を少しずつ減らしていきます。そうして体が低エストロゲン状態に慣れ、更年期症状が出なければ、その時点で治療を終了します」(山中医師)
HRTを始める、効果的なタイミングはありますか?
「先述の通り、更年期症状が日常生活に支障を及ぼすようになったら、治療のタイミングですね。ただ、閉経前から治療を行うと、血管の硬化や皮膚の萎縮、骨粗鬆症など、エストロゲンの減少によるエイジングの進行を抑えやすくなるともいわれています。とはいえ、HRTの目的は、更年期症状の改善なので、閉経前、閉経後に限らず、症状が辛く感じられるときから治療を始めるのが効果的です」(山中先生)
更年期は10年間と長いものです。辛い更年期症状に悩んでいる場合は専門医に相談し、今回紹介したHRTなど、自分に合う治療法を見つけて、快適な毎日を過ごしていきたいですね。
教えてくれたのは……山中智哉医師
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。現在、「麻布モンテアール レディースクリニック」にて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっている。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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