「お局さま」がいるのは日本だけ?「お局になりたくない…」の呪いを解く
「お局さま」と呼ばれない確実な方法は、若いうちに仕事を辞めることしかない
会社員の多くは、社長などの絶対的権力のある地位につくことはできませんし、誰もが認める天才的能力を発揮することもできません。つまり、「お局さま」にならないための唯一確実な方法は、若いうちに会社を辞めること、なのです。
中年以降も仕事を続けるならば、後輩を指導する機会も出てきますし、部下を叱咤激励しなければならないこともあるでしょう。ミスを注意したり、リーダーシップを発揮するのも仕事のうちです。しかし、そういった仕事をきちんと行うことで、「お局さま」と呼ばれる可能性はアップします。ただ一生懸命、仕事をしているだけなのに…。
つまり、女性が中年以降も会社にいる、ただそれだけのことを揶揄できるワード、それが「お局さま」なのです。
「お局さま」の男性バージョンの言葉が存在しない…WHY?
ところで、「お局さま」に相当する男性に対する言葉はなんでしょうか?
「お局さま」の男性バージョンの言葉は……ありません。なぜでしょうか? ただ長い間会社にいるだけで威張っている男性ベテラン社員がいないから? いけすかない年配の男性社員がいないから? 偉そうに説教してくる男性社員は存在しないから?
……んなわけありません。当然ながら、性別関わらず、偉そうなベテラン社員は存在します。
ここで疑問が発生します。嫌味だったり、偉そうだったりするベテラン社員は性別関係なく存在しているのに、なぜ、女性だけが、「お局さま、プッ」と揶揄されてしまうのでしょうか?
考えられる理由は、ミソジニーです。
ミソジニーとは、女性に対し「女性に一定の社会的役割(他人をケアする役割など)」を押し付け、そこから逸脱するものに罰を与えることを意味します。
「お局さま」の呪いが、女性たちを無償の感情労働に駆り立てる
ミソジニーは、女性蔑視と訳されますが、すべての女性を蔑視することを意味しません。ミソジニーは家父長制の執行機関とも言われ、家父長制に従っている女性、女らしさ規範に沿おうとする女性は過剰に持ち上げ、神聖視することさえあります。
枠内にとどまっている者を褒め称え、それ以外に罰を与える、それがミソジニーなのです。
家父長制においては、声を荒げたり、偉そうにしたり、指導したり、といったことは男性がすると「男らしい」となりますが、女性がすると「逸脱行為」になります。その逸脱行為を正すために生まれたワードのひとつが、「お局さま」なのでしょう。
女性たちに、「お局さまになってはいけない!」と思わせることができれば、女性たちはどれだけ社歴を重ねても、ときには社会的地位が上がっても、「偉そうに」することはなくなります。「お局さま」のそしりを恐れる女性たちは、「笑顔で優しく」「きつい言い方をしない」などを心がけ、積極的に感情労働、ケア労働を行うことになるのです。
「お局さま」は、女性に「わきまえさせる」呪いの言葉
ところで、『プラダを着た悪魔』のミランダが、「仕事ができないくせに偉そうな中年平社員」だったとしたら、どうでしょうか? そうであっても、彼女が「お局さま」呼ばわりされることはありません。なぜなら、英語で「お局さま」という単語は存在しないからです。
「お局さま」は、ミソジニックな土壌が生み出した日本固有の概念です。
読者のみなさまの中には、「お局さま」という概念がある土地に生まれ育ったゆえに、上司や先輩に対して、「あのお局ムカつく」と言ったことがあるかもしれません。ただ、その言葉は呪いとなって自分に返ってきます。自分がベテラン社員になったとき、「お局だと言われたくない」と空気を読みすぎて疲弊したり、昇進に対して意欲が示せず生涯賃金が目減りしたり……といった事態を避けたいならば、ベテラン女性社員を揶揄する言葉は、使わない方が良いでしょう。
自分を呪わないディスり方を採用しよう!
「お局さま」というワードは、女性を小さな箱に押し込める呪いの言葉になり得ます。
ですから、ムカつく上司や先輩がいたとしても、「お局」というワードを使うのは得策ではありません。
ムカつく相手がいて愚痴りたい場合には、「お局」というワードではなく、「〇〇さん、ありえねー」「〇〇さん、早く会社辞めてくれないかなー」など、「自分に跳ね返ってくる呪いの言葉」以外の方法でディスった方が良いと言えるでしょう(ネガティブな感情自体を否定しているわけではないので)。まあ、愚痴やディスをせずに済んだら一番良いのですが…組織で働く以上、なかなかそうもいかないものですからね。
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