私たちはもしかしたら圧倒的に"怒る"経験が足りてないんじゃないか|チョーヒカルの#とびきり自分論

 私たちはもしかしたら圧倒的に"怒る"経験が足りてないんじゃないか|チョーヒカルの#とびきり自分論
Cho Hikaru/yoga journal online

誰かが決めた女性らしさとか、女の幸せとか、価値とか常識とか正解とか…そんな手垢にまみれたものより、もっともっと大事にすべきものはたくさんあるはず。人間の身体をキャンバスに描くリアルなペイントなどで知られる若手作家チョーヒカル(趙燁)さんが綴る、自分らしく生きていくための言葉。

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怒らないことが良いことだと最初に教わったのはいつだっただろうか。声を荒げないこと、強い言葉を使わないこと、戦うことではなく耐えることを選ぶこと。それらが美徳だといつから思い込んでいたのだろうか。

「女の子なんだからお淑やかに」といつも教えられてきた。小学生の頃から木に登ったり男子に果たし状を渡して喧嘩をしたりするような子供だったので、耳にタコができるほど聞いた言葉だ。そしてそれはいつの間にか体に馴染み、私も同じような言葉を他人に向けて発するようになった。暴力はよろしくないし、喧嘩だってしないに越したことはないのかもしれない、だけどそこに性別はなんら関係ない。

例えば大きな声で発言すること。口を隠さずに笑うこと。不正にしっかり怒ること。それらは時折はしたないとされる。性別が関係ない時もある。日本特有の倫理観で「耐え忍んだ人の方が偉く、最終的には報われる」みたいなものがあるからだ。だけどこれ、本当に一切報われた記憶がない。私たちはもしかしたら圧倒的に怒る経験が足りてないんじゃないかしら。

そんなことに気付いたのは数年前初めてアメリカに行った時だ。私と大学の同級生3人、若い女計4人での卒業旅行だった。英語は皆ある程度理解できたが喋れるのは私のみだったので会話などは私の担当。そんな中、ニューヨークからオーランド(フロリダ州)に移動する日、空港に向かうために頼んだ送迎タクシーが時間になっても来ないという事件が起きた。差し迫る飛行機の時間に焦りながら運転手に電話をすると同じ地名の別の場所に行ってしまったという。

「ブロードウェイ通りだろ?」

「ブロードウェイ通りですけど、ブルックリンの方です」

「は!?おいおい!お前らブロードウェイ通りって書いてただけだったから、マンハッタンの方のブロードウェイ通りに来ちゃったよ!どうしてくれるんだ!」

飛行機に遅れそうなのはこっちなのに何故か運転手が逆ギレをかます。しかし、タクシーの予約をとってくれた友人は相当なしっかりもの。そんな間違いを起こすだろうか?恐る恐る確認をすると間違いなく「ブルックリン ブロードウェイ通り」と予約に表記してあった。

「いや、ブルックリンって書いてあるんですけど」

「は!?書いてないよ!お前らアジア人旅行客だろ?英語間違えたんじゃないのか?とにかくこっちはそんなの読んでない!!!」

自分だって明らかにネイティブじゃないのに突然こちらの英語能力にいちゃもんをつけてくる。そしてすぐにそのタクシー会社の上司とみられる人物から電話がきた。

「これはそちら側のミスだ!こちらに非はない!」

何故かこの人も若干キレている。なんでやねん。おそらく怖がらせる目的なのだろうか。

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AUTHOR

チョーヒカル

チョーヒカル

1993年東京都生まれ。2016年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業。体や物にリアルなペイントをする作品で注目され、衣服やCDジャケットのデザイン、イラストレーション、立体、映像作品なども手がける。アムネスティ・インターナショナルや企業などとのコラボレーション多数。国内外で個展も開催。著書に『SUPER FLASH GIRLS 超閃光ガールズ』『ストレンジ・ファニー・ラブ』『絶滅生物図誌』『じゃない!』がある。



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