「いつでも自分らしく」の呪縛に苦しんでいないか|劇団雌猫と考える「自分らしさ」とは
女性とメイク・ファッションは切り離せない。大人女性が、本当に自分の好きなおしゃれを追求すると、なんだか周りから浮いてしまう。そんな女性の葛藤について、劇団雌猫に話を聞いてみた。
劇団雌猫の編著書『だから私はメイクする』を原作としたコミック中に、こんなシーンがある。おしゃれをすることが好きな主人公の女性が自分の好きな服・好きなメイクをして会社に出勤すると、それを見た男性社員から"査定"を受ける。「今日どうしたんですか」「気合い入ってますね!」「デートですか?」「化粧は薄い方がいいですよ」…主人公は笑顔を装いながらも、内心はイライラが募っている。もちろん、男性たちは悪気があって言ってるわけではない、むしろ善意で言っている。だが、それに対して主人公は、仕事帰りの居酒屋で友人相手にこう叫ぶ。「お前らのためにメイクしているわけじゃねぇぇ!」。これと似たようなことは、現実社会でも頻繁に起こっている。そしてその「善意から来る査定コメント」を発するのは、男性だけではなく女性である場合も多い。自分らしさを主張すればするほど、嫌な思いをする…自分を好きになりたいのに、好きになれるものを纏えない……そんなジレンマに陥る人も少なくないのではないか。今回劇団雌猫のふたりには、おしゃれすることと自分らしさについて話を伺ってみた。
一時期、メイクが嫌いだった
ーーおふたりがメイクを始めたのは何歳ぐらいからですか?
ユッケ「ずっと一重がコンプレックスだったんですが、うちは親が厳しかったので、メイクデビューは遅くて。高校卒業後、予備校時代に初めてアイプチをしたのがデビューですね。当時は、1年で志望大学に合格するのと二重にするのが目標で(笑)。人に見られてかわいいと思われるメイクを目指していました」
かん「私は高校生の時。当時は濃いアイメイクが流行ってて、みんなと同じようにしたくてやってみたけど似合わなかった。それでメイクに関心がなくなって、就職してから久しぶりにリトライしました」
ユッケ「今のかんは、メイクへのトレンドキャッチ能力が高いよね!」
かん「自分に何が必要なのかわかった瞬間があったんです。それまでは、みんながやっているメイクをしたいのに似合わなくて凹んで。で、いろいろ試す中で、私はアイラインは不要で、アイシャドーで遊ぶとしっくりくるっていうことがわかった。さらにK-POPが好きになって、K-POPアイドルたちのメイクをアイラインなしで真似したら、楽しかった!これでいいんだって、それからメイクが好きになれましたね」
ーー自分らしいメイクが見つかったんですね!ファッションの方はいかがでしょう?
ユッケ「服を買うのは昔から割と好きです。でも以前、あまりにも忙しすぎて、服を洗濯する気力すらない時があって。服を30着ぐらい一気にバーっと買って、使い捨てみたいに着ていた時代があったんです。無理やりお金を使うことで、ストレス発散していた面もあったのかも…。でもこれって、不健全だし服にも申し訳ないですよね。なので今は、服そのものよりボディライン重視。シンプルな服でもカッコよく着こなせる体を作りたくて、パーソナルジムで筋トレをしてます。まだまだ理想の体型には程遠いですが、精神は健全になっている気がする(笑)」
かん「昔でいうと、カンカン帽とか流行った時期があると思うんですが、そういう流行ものを買うといつも後悔してしまうんですよね。一方、流行ってなくて、「これぞ!」というお洋服は大体値段が張ったりして…洋服に関しては、なんとなく買うんじゃなくて、意識的にお金を使うようにはしています」
「どんな時も自分らしく」その風潮は果たして正しいのか
ーー着たいものを着たいけど、それを会社に着ていくと周りからやんや言われるのが辛いという人もいます。一方で、会社用のメイクやファッションは自分の好みじゃなくて「自分に嘘をついている感じがする」という声もあります。このことについてどう思いますか?
ユッケ「うーん…会社に、自分の好きなメイクをしていかなくてもいいと思うんですよね。それに目立ったことや変わったことをする人に対して、何か言いたい人もいるじゃないですか」
ーーユッケさんのまわりにもいたんですか?
ユッケ「いましたよ。すごくいい先輩だったけど、ちょっと気合の入った服を着ていくと何かしら言われる(笑)。本人は別に悪気があるわけじゃないけど、やっぱりいい気持ちはしなかったですよね」
ーーかんさんはどう思われますか?
かん「私もユッケさんと近い意見です。どんな時も自分の着たいモノ&したいメイクでいられる、いようとするには強いメンタルが必要だと思います。もちろん、そもそも何か言ってくる人が悪いんですけど」
ーー確かに、会社だと逃れられないし、修羅の道ですね…。
ユッケ「繊細な人ほど、きっとそのジレンマに苦しむというか、しんどいと思うんですよね。だから割り切って、着たい服は、それを褒めてくれる友達と会う時にだけ着ればいいと思います。友達にも見せたくないなら、家で1人で着て気分を上げるのもいい。一番大事なのは、着たいものを着たいっていう気持ち。それを守ってあげたいというか。間違っても、嫌なことを言ってきそうな人がいるところには着ていかなくていいと思います」
かん「こういう話を聞くといつも思うんだけど…"常に自分らしくいること"がいいという風潮があるけれど、それってどうなの?って。もちろん自分らしさって大事なんだけど、それが押し付けになりすぎると、ちょっと……しんどくないですか?そもそも自分らしさの定義とは?という話ですが、気負わないでいられることが「自分らしさ」の一つの定義だとすると、TPOに合わせて"好きな服が必要ない時には着ない"ということも、一つの選択だと思う。だから、会社に着ていく服が自分らしくないなんて自分を責めたり恥ずかしく思わなくていいんですよ」
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劇団雌猫のお二人の言葉は、気負いなくサラリとしているが、時々ドキッと核心をついてくる。私たちは、自由や自分らしさを追求するあまり、迷走していたのかもしれない。「"好きな服"が必要ない場所に着ていかないことも一つの選択肢だと思う」という言葉は、その通りだと思った。自分の好みではないおしゃれは、嫌悪すべき対象でもないし、自分らしさを殺す行為でもないのだ。大事なことは、自分の「好き」を守ること。それは、声高に「好き」を主張することではなく、「好き」を否定する人たちの前でわざわざ「好き」を主張しないことも一つの手段なのだ。私たちは「いつでもどこでも自分らしく」にがんじがらめになる必要はない。自分らしさを常に見せなければいけないことはない。それも一つの「選択」なのだから。
次回の劇団雌猫インタビューは「30代の自意識問題」について!お楽しみに。
プロフィール
劇団雌猫
平成元年生まれのオタク女4人組(もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケ)。2016年12月にさまざまなジャンルのオタクがお財布事情を告白する同人誌『悪友vol.1 浪費』を刊行し、ネットを中心に話題に。2017年8月には『浪費図鑑』(小学館)として書籍化。現在はイベントや連載などに活動を広げながら、それぞれの趣味に熱く浪費している。最新著書は『海外オタ女子事情』(KADOKAWA)。
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