身体機能の回復以上にヨガで目指すものとは|病院を飛び出したふたりの医師の挑戦
ヨガスタジオに行けない人にヨガを。目標はソーシャルキャピタルの向上
――医師であるおふたりが考えた、メドケアヨガの理念とは?
陽子:ヨガスタジオに行けない高齢者や障害者、そのケアをする介護者に対して、病院、クリニック、高齢者施設、福祉施設などに私たちが出向きヨガを提供する。それが、メドケアヨガの理念です。その中で、アクセシブルヨガ、フレイルヨガ、正しい医療知識の普及活動を行っています。アクセシブルヨガは、アメリカ発祥のNPO団体です。障害の有無や身体能力などの違いに関わらず、誰もがアクセスできるヨガを提供する考え方に感銘を受け、設立者に直接連絡をしたんですね。「日本でアクセシブルヨガを広めたい」と。その後、香港で開講された指導者養成講座に参加し、私がアクセシブルヨガ日本アンバサダーに認定され、団体の理念を引き継ぎ活動しています。
輝基:ヨガにはどんな効果があると思いますか? もちろん筋力アップなど、身体的機能の改善に効果的ですが、メドケアヨガの目指すゴールはそこではありません。つながりが希薄な現代社会で、ヨガをツールとしてコミュニティを作りたい。そして地域のソーシャルキャピタル(社会・地域との結びつき)を高めることに重きを置いています。孤独は免疫力を低下させ、逆にコミュニティ内のつながりを高めると元気で長生きできるという研究結果が出ているんですよ。ヨガはみんなで集まってできる。しかも、心身の状態が違う人たちが一緒にできる点が優れています。おしゃべりも弾み、笑顔がこぼれ、その場にいること自体に健康効果がある。ヨガはソーシャルキャピタルを高める有効なツールと考えています。
陽子:活動のもうひとつの柱がフレイルヨガ。これは、高齢者のフレイルを包括的に改善するためのヨガです。フレイルとは健康な状態から要介護へ移行する中間地点と言われ、加齢による心身の衰え全般を指し、早期に気付き介入すれば生活機能の維持、改善ができると考えられています。 3つ目の柱として、正しい医療知識をヨガインストラクターや高齢者とその家族や介護者に伝えたり、講演会や指導者養成講座の医療監修なども行っています。
――「ヨガスタジオに行けない人の元に出向く」という発想は新鮮ですね。おふたりがその必要性を実感したのはどんな場面ですか?
陽子:私たちの本業は医師なので、日々病院で患者さんと接する中で必要性を感じています。医師が膝の悪い人に、「リハビリのためプールで運動しましょうよ」とすすめたとします。でも、プールに行くこと自体が困難。そんな場面を見るにつけ、それなら私たちから出向いていこうと。
輝基:私は老人ホームで訪問診療も行っているんですね。テレビの前に座り時間をやり過ごす高齢者を見るにつけて、活き活きと毎日を過ごすため、行動意欲を高めるしくみ作りをしたいな、と思っていました。そうは言っても、人の行動を変えるのは難しいもの。ならば相手が来るのを待つより、自分から必要な人の元へ出向き変化のきっかけを提供しようと思いました。
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