最も安全な「ヘッドスタンド」への入り方とは
ヘッドスタンドは安全か?生体力学的観点からこのポーズを見てみると、損傷を防ぐにはどうしたらいいかわかってくる。
ヘッドスタンドは安全か?研究によってわかること
ポーズの王様と呼ばれるシールシャーサナ(ヘッドスタンド)は、爽快感が得られて力が湧いてくる逆転のポーズで、こつこつ練習していくと上半身と体幹を強化することができる。長い間、数々の効果があるといわれてきたが、頭部と頸部に負荷がかかるため損傷を引き起こす可能性があることも指摘されてきた。実際、一部のヨガの流派では完全に王座を追われており、ヘッドスタンドを禁止しているヨガスタジオもある。
伝統的なヨガでは、7種類のヘッドスタンドが指導されている。今回考察するシールシャーサナでは、頭頂部が体を支える土台になる。このポーズに入るには、ひざまずいて前腕を床に下ろし、両手を組んで、肘を肩幅に開く(両肘と手で逆Vの字をつくる)。次に頭頂部を床に当てて、組んだ両手で後頭部を抱える。肘と手首を押し下げながら、上半身を働かせて肩を引き上げる。土台が安定したら、両足を床から引き上げて、頭部と前腕でバランスをとりながら、体が直立するまで脚を上げていく。
以上が、ヘッドスタンドを指導するときの標準的な指示である。しかし、頭部と前腕の間でどのように体重を分散させるかという点になると、指示のしかたに違いがみられるようになる。頭には体重をできるだけかけないようにと指導する人もいれば、パレートの原理(いわゆる8対2の法則)を踏まえて、頭部より前腕に体重をかけることを勧める人もいる。洞察力のある指導者たちは、「理想的な」体重分配は体のサイズによって若干変わってくるため、教えられないことを理解している。
たとえば、上腕骨が頭と首を合わせた長さよりも長ければ、頭は床につかないだろう。反対に、頭と首の長さが上腕骨より長ければ、前腕を床に下ろすのに苦労するはずだ。これは極端な例だが、頭頂部と前腕の比率は、骨格によって一人ひとり異なるため、一律に指示できないことを理解していただけるはずだ。テキサス大学の研究者らは、安全な(または危険な)ヘッドスタンドについて理解を深めるべく、ヘッドスタンドを5回呼吸する間保っていられる熟練した成人のヨギとヨギーニ計45人を対象に研究を行った。この研究結果は2014年の『Body workand Movement Therapies』に発表され、今も続くヘッドスタンドをめぐる議論の解明に光を投じている。
科学者たちは何に注目したのか
この研究では参加者45人にウォームアップを10分間してもらった後に、あご、額、耳たぶ、頸椎(C3、C7)、胸椎(T9)、腰椎(L5)、大腿骨、足の指に反射マーカーを装着して、体の動きを計測した。また、床反力計(接触している体の部分によって発生する力を計測する装置。高性能な体重計のようなものをイメージしよう)を用いて、ヘッドスタンドをしている間に頭部と頸部に作用する力を計測した。次に、通常どのようにヘッドスタンドに入り、どのようにポーズから出ているかに応じて、参加者を3グループに分けた(各グループとも女性13人、男性2人の計15人)。全参加者に、ポーズに入ったら5回呼吸する間ポーズを保ち、ポーズから出るように指示した。ポーズに入るとき、安定させているとき、ポーズから出るときの3段階でデータを取った。3つのグループは次のとおりだ。
1.片脚ずつ上げてポーズに入り、片脚ずつ下ろしてポーズから出るグループ
膝を曲げて胸まで引き上げたら、片脚を上に伸ばし、次に反対の脚も伸ばして腰と肩の真上に上げる。この順番を逆にしてポーズから出る。
2.膝を曲げ、両脚を揃えて上げてポーズに入り、両脚を一緒に下げてポーズから出るグループ
膝を曲げて胸まで引き上げたら、両膝を同時に伸ばして、両脚を揃えて腰と肩の真上に上げる。この順番を逆にしてポーズから出る。
3.両脚を伸ばしてポーズに入り、両脚を伸ばしたままポーズから出るグループ
両脚を揃えて伸ばし、その状態で腰と肩の真上に上げる。この順番を逆にしてポーズから出る。
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