【インタビュー】「サンゴに優しい日焼け止め」開発者・呉屋由希乃さんの想い
そんななか、昨年の法案可決により、米国ハワイ州では2021年から、サンゴ礁への有害性が指摘される『オキシベンゾン』と『オクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)』を含む日焼け止めの流通規制が始まります。(詳しくは→https://yogajournal.jp/3614)また、南洋の国パラオでも2018年11月に日焼け止め規制条例が制定され、2020年より施行される予定です。
「世界で初めてのハワイ州での法案は、日本でもサンスクリーンに対する意識を改めるいい機会になったと思います。ただ、この2つさえ入っていなければ安全、と判断するのは間違い。規制が始まる2成分を含め、紫外線吸収剤とされるものは種類が豊富ですが、海にも肌にも刺激は大きく、サンゴのDNAを傷つけてしまう危険性もたくさんの研究で明らかになっています。紫外線吸収剤だけでなく、パラベンなどの防腐剤も海への悪影響が懸念され、『ウォータープルーフ』も自社基準なので時間が経てば落ち、海水を汚したり、砂浜をベトつかせたり、魚や貝類も吸収しているはず。日焼け止めなんて私たち人間でも飲みたくないですし、それがサンゴを傷つけ、海の生き物だって何も知らずに体内に取り込んでいる。化学物質たっぷりな日焼け止めが溶け出したプールに、赤ちゃんや子供たちを泳がせるなんて、誰だってしたくないですよね。海で遊ぶときにも、その気持ちを大切にしてもらいたいなって思うんです」
サンゴにも優しい日焼け止めを選びたいなら、有害成分を避けて、紫外線を鏡のように散乱・反射してくれる「紫外線散乱剤(反射剤)」の入った製品がオススメ。こちらはミネラル由来の成分で、酸化亜鉛(ジンク)や酸化チタンが代表的。前述のように、海外ではこうした配慮が揃った「Coral Reef Safe(サンゴに優しい)」な日焼け止めがたくさん販売され、海辺はもちろん、NYなどの大都市でも多く見かけられるといいます。一般ユーザーの環境意識も高く、ハワイでは、科学者、環境省、政治家たちも啓蒙を後押しして取り組んでいるそう。
「世界各地の国立公園やプライベートビーチなどでは、ずいぶん前から日焼け止めの使用を規制したり、海辺に『紫外線吸収剤・パラベン不使用の日焼け止めを』『酸化亜鉛、酸化チタンの製品を』などと書かれた看板を立てて、海とサンゴ礁に安全な日焼け止めの使用を呼びかけているところも多くあるんです。ハワイでは研究者も州政府も啓蒙に積極的ですが、日本はまだそうした動きはない。ですが、今後は沖縄を中心に日本でも広まっていけばいいなと思いますね」
一人一人が日焼け止め選びに配慮する……今後世界中でスタンダードになっていくだろうこの姿勢は、ただ消えていくサンゴ礁を守るため、というだけでなく、環境問題に対する一つのアクションになってもらえたら、と呉屋さんは語ります。
「私は『この日焼け止め成分が有害だからダメ』というより、日焼け止めを見直すことは、『海のために、苦しんでいる海洋生物のために、人間ができることがあるならなんでもやらないといけない』と行動するきっかけの一つにしてもらえたらと思うんです。沖縄の海でも、国内はもちろん、海外からの観光客が急増していて、海で遊ぶ人は増えたけれど、サンゴ礁や魚たちは減ってしまったエリアも多くあります。それは日焼け止めの悪影響だけでなく、サンゴを踏んだり蹴ったりして泳ぐ人たちも、残念ながら多いんです。日焼け止めに気を配る心が、サンゴや自然環境への思いやりに繋がれば、きっと海で遊ぶときにもサンゴや生き物たちへもっと配慮ができるようになると思うんです。そんなふうに意識が高まってもらえたらと願いながら、私も尽力していきたいですね」
サンゴ礁は全海洋生物の4分の1もが暮らす豊かな海のゆりかご。日焼け止めを意識する気持ちが、豊かなサンゴや海への思いやりを育み、環境にやさしくあれる人が増えていく……。そんな未来が叶うように、一人一人が日常でできることを、その一つとして日焼け止めの見直しにも取り組んでもらえたらと思います。
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