貧困・DV・ヤングケアラー…公的支援が届かない現実。家族の孤立を防ぐには?【インタビュー】

 『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)より
『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)より

過去作に『毒親サバイバル』などがある、菊池真理子さんの新作『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)では、ギャンブル依存症、マルチ2世、児童虐待、貧困、DV、きょうだい児、ヤングケアラー、陰謀論、反医療の9テーマの当事者の経験がマンガで描かれています。菊池さん自身もアルコール依存の父親をケアしていた経験をお持ちです。インタビュー後編では、取材で印象に残ったことや、家族の「問題」に関するお考えを伺いました。

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公的な支援が必要でも届いていない

——取材を通じて、印象に残っていることはありますか?

公的な支援がうまく届いていないケースが少なくないことを感じました。きょうだい児の方は、弟さんは療育手帳(知的障がい者に交付される手帳)を持っていて、特別支援学校卒業後は作業所に通っているとのことで、福祉との繋がりはあるものの、きょうだい児には支援がされていませんでした。

親が公的な支援を断っているケースもあって、そうすると子どもは何もできないですよね。明らかに支援が必要な家庭ではあって、本来なら積極的な介入が必要ですが、人手不足もあって、一人ひとりに時間をかけた対応をしていくことが難しいことも想像します。

海外では大学・大学院まで教育費が無償の国もあって、それだけで助かる子どもたちも多いと思います。政治の問題なのだと痛感しました。

——家庭が経済的には困っていなくても「この学部以外なら学費を出さない」などと言われてしまうと、親に従うしかない問題もありますよね。

以前、宗教2世の問題を取材した際にも、親が「子どもに教育はいらない」という人や、親が献金でお金を使ってしまって大学に行けないという話を聞きました。

本書でも、親に奨学金を要求されて渡してしまったエピソードを描いていますが、「問題」を抱えた家族で、親が子どもの学費や奨学金を使い込んでしまうことは珍しくないそうです。

教育費が無料になれば、そういった問題も解消できるのに……と思いました。

「問題」を家族だけで抱え込ませている社会の問題

——取材を通じて、家族の「問題」とはどんなことだと思いましたか?

うちもそうでしたが、それぞれの家族のメンバーに根っこがなく、ぷかぷか浮いているような状態で、かつ全てが閉ざされていて、周りと繋がっていないのですよね。でも、そういう人たちが、同じような体験をした他者や社会と繋がると、問題の解消とまではいかなくても、個々の負担が一気に軽くなるのだとわかりました。

その家族に「問題」があるのではなく、「問題」を家庭内だけで抱え込ませてしまっている社会に問題があるのだと思います。

——閉じてしまうのは、気づけないからなのか、恥ずかしいという感覚からなのでしょうか。

どちらもあると思います。恥の感覚は社会のスティグマ(烙印)もありますよね。たとえば生活保護を受給すると近所で噂になるので、親は申請しなかったのだろうという話も伺いましたし。

家族が気づけないことに関しても、社会が正しい情報を教えてくれていない側面もあると思っていて。

たとえば、私がアルコール依存症について学び始めたときに思ったのが、それまで見せられてきたアルコール依存症って、離脱症状によって虫がいる幻覚が見えて手で払っている姿とか、手が震えて飲み物をこぼすとか、「酒を買ってこい」と暴れるとか、ひどいシーンばかりでした。

それがアルコール依存症だと思っていたので、「うちの父親ぐらいだったら、依存症ではないな」と思ってしまう。でもアルコール依存症外来の先生に取材した際には、この症状からが依存症という明確な線引きはないものの、お酒が原因で人間関係が壊れたことがあるなら、治療の対象だとおっしゃっていたんです。だから父は診断は受けていないものの、アルコール依存症だったのだと思います。

——『依存症ってなんですか?』(秋田書店)では、日本には109万人のアルコール依存症の人がいると言われているものの、その中で1年に1回以上受診したのは5万人だけ、と書かれていました。

ある精神科の先生は、マスコミが見せているアルコール依存症は、癌で言えば末期の人だけだと。もっと早い段階で医療にかかれば、もっと多くの人を救えて、断酒までいかずにお酒と上手く付き合っていける生き方を提示できるのに、とおっしゃっていました。

テレビではおいしそうにお酒を飲むCMが流れているものの、依存症の知識は全くと言っていいくらい放送されません。海外の酒造メーカーは、依存症の啓発や治療にお金を出し、アルコール飲料を売っている責任を企業が果たしていると聞きます。必要な情報が十分に届かない仕組みになっているという、社会の問題だと思います。

——拝読していて、それぞれのテーマには、結びついている別の「問題」があると感じたのですが、菊池さんは描いていていかがでしたか。

おっしゃるとおりで、たとえばDVはジェンダーの問題との結びつきが強いですし、ほかの方のお話でも、みんながジェンダーや人権教育を学べれば、解決していくだろうなという思いを持ちながら描いていました。

DVをしていた男性が変わる可能性もあるのだと、今回の取材を通して知りました。GADHAというDV加害者の自助グループでは、自分のしてきたことを反省している夫がたくさんいるそうです。そういう話を聞くと希望を感じますね。

ちゃんとジェンダーを学べば、変われるのではないかという思いが強くなったのと同時に、大人になってから変わるのは難しい面もあるので、子どもの頃にジェンダーや人権教育を学べるような機会が必要だとも思いました。

『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)より
『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)より

生きづらさを解消していく過程で

——菊池さん自身が家族の「問題」と向き合い、生きづらさを解消していく過程でやってきてよかったことはありますか?

私が自分の問題に気づいたのは、クレバーな編集さんが気づかせてくれたからです。まだ別の名前でマンガを描いていた頃に、偶然アルコール依存症外来に取材に行って、漫画の中で「うちの父親も依存症だったのかも」と書いたら、「それをメインに描いてみよう」と言ってくれて、『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)が生まれました。

真っ当な感覚で社会に向き合っている人の意見を素直に聞いたことが、私にとって最初のステップでした。

『酔うと~』を描いた後も、「父親は本当は依存症じゃないかも」とか「大したことない話なのに大袈裟に漫画にしちゃったかも」と悩んでいたんです。でも、漫画への反響をたくさんいただいて、自分みたいな人がこんなにたくさんいるんだと気づきました。

——読者さんの反応も、自分の家庭で起きていたことを理解することにつながったのですね。

そうですね。具体的な経験をお話してくださる方もいて、その方は何も悪いことをしていなくて、ただ依存症の親のもとに生まれただけなのに、なぜこんな目に遭わないといけないんだろう、と思ったんです。そのとき、「私も同じだ」と気づいて、自己責任の呪いが解けました。

私は偶然似たような立場の方々からお話を聞けたのですが、ピアサポートや自助グループに行くなど、リアルな人と会った方がいいと思います。それが難しければ、本を読むとか、カウンセラーから専門的な意見を聞いて勉強するとかも、私が生きづらさを解消していく過程で役だったことです。

同じ体験をしていなくても、自分の話を茶化さずに聞いてくれて、むやみにアドバイスをしない友人の存在もありがたかったです。

『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)
『うちは「問題」のある家族でした』(KADOKAWA)

【プロフィール】
菊池真理子(きくち・まりこ)

東京都生まれ。埼玉県在住。アルコール依存症の父との関係を描いた『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)、毒親から生き延びた10人を取材した『毒親サバイバル』(KADOKAWA)、宗教2世の現実を世に問うた『「神様」のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~』(文藝春秋)など、ノンフィクションコミックの話題作を多数手がける。

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