似ているようで原因はまるで違う?アトピー性皮膚炎と皮脂欠乏性皮膚炎の違いとは|医師が解説
皮膚に関するトラブルは、一刻も早く治したいものです。不規則な生活を送ったり、過度な長湯やエアコン使用は、皮膚症状が悪化する可能性があります。医師が解説します。
アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎はこれまでの知見より皮膚自体のバリア保護機能が低下することが直接的な原因で引き起こされる病気と考えられています。
そもそも人の皮膚は4つの層で構成されていると言われており、もっとも外側の膜の部分を角質層と呼んでいますが、この角質層の箇所は重要な働きを有しています。
具体的には、皮膚内部の水分が蒸発して皮膚が乾燥するのを予防する、あるいは病原体や異物などが侵入するのを防ぐ役割もあると伝えられています。
このような角質層の機能をバリアアビリティーと通称していますが、アトピー性皮膚炎の方々においてはこのバリア機能が健常者より低下しているがゆえに皮膚に異物が侵入しやすく、さらにアレルギー反応を引き起こしやすい性質があると考えられています。
これまでも色々な研究が施されており、以前より遺伝やアレルギー体質などが本疾患の発症に関与しているとのコンセプトも往来してきました。
ところが、現在に至るまでいまだになぜ皮膚のバリア機能が低下してしまうのかに関する明確なメカニズムについては解明されていないのが実際です。
近年ではアトピー性皮膚炎を罹患している患者さんでは皮膚の水分保持を担っている「フィラグリン」と呼ばれるタンパク質が通常よりも少ないために常時皮膚が乾燥しやすい状態になりやすいことが徐々に判明してきております。
アトピー性皮膚炎の明確な発症メカニズムは解明されていないので確実な予防法はありませんが、この病気においてはダニやハウスダスト、汗そのものやストレス自体によって症状が悪化しやすいことが分かってきています。
ですから、アトピー性皮膚炎を発症した場合にはできるだけ皮膚への刺激を避けるように日常的に規則正しい生活を送ることが重要な視点となります。
アトピーなどの極端な乾燥肌を呈する皮膚状態では皮膚表面が非常に敏感になっていますので、普段から保湿を中心としてスキンケアを行う必要があります。
皮脂欠乏性皮膚炎とは?
皮脂欠乏性皮膚炎とは、乾燥してうろこ状の鱗屑(りんせつ:皮膚の表面の角層が肥厚し、剥がれた状態)がみられる皮膚に、亀甲状の赤みや円形の赤みが生じる状態を指しています。
高齢の方の膝から下に生じることが多く、大腿や腰に広がることもありますし、主に秋の終わりから冬にかけて乾燥した気候によって発症し、熱いお風呂や入浴時皮膚を洗いすぎること、あるいは過剰な暖房で皮膚の症状が悪化する可能性があります。
皮脂欠乏性皮膚炎の原因は、加齢によって皮脂の分泌が低下するだけでなく、セラミドをはじめとする角質細胞間脂質や天然保湿因子の主成分であるアミノ酸の合成量も低下することで肌が乾燥することも関連しています。
皮膚のいちばん外側にある「角層」は通常水分を保ち、外からの刺激が入ってこないようにバリアする働きをしています。
ところが、乾燥により角層に水分を保てなくなった皮膚はバリア機能が低下し、角質細胞もはがれやすくなり、カサカサした状態になった皮膚は、少しの刺激でかゆみや炎症がおこりやすくなり、皮脂欠乏性皮膚炎を発症します。
アトピー性皮膚炎と皮脂欠乏性皮膚炎の違い
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは、一般的に皮膚に存在するバリア機能が低下して、かゆみを伴う湿疹が一進一退で良悪する状態を繰り返す病気のことです。
通常では、幼少期に発病することが多く、成長と共に少しずつ症状は改善していきますが、時に成人の方でも数%の方が罹患して持病として抱えていると言われています。
これまでの数々の研究によっても、アトピー性皮膚炎の明確な発症メカニズムはいまだに解明されていませんが、遺伝性に発病する、あるいはアレルギーを起こしやすい生来の体質などが発症に関与していると考えられています。
また、気管支喘息や花粉症などアレルギーによる病気をともにアトピー性皮膚炎を併発しやすいのもひとつの特徴とされています。
皮脂欠乏性皮膚炎
一方で、皮脂欠乏性皮膚炎は、加齢が原因となるほかにも、身体の洗いすぎやエアコンによる室内湿度低下、アトピー性皮膚炎のような乾燥をともなう皮膚疾患なども原因とされるため、生活環境や疾患の有無によっては若年者の発症も珍しくはありません。
皮脂欠乏性皮膚炎の場合には、下腿の前面には亀甲模様の亀裂やシワがみられ、強いかゆみを伴う場合がありますし、かゆみによって皮膚を強く引っ掻いてしまい、二次的に湿疹病変が形成されて、時間が経つと色素が沈着して黒ずむ場合もあります。
皮脂欠乏性皮膚炎の対処法としては、保湿をすることが重要で、入浴後には肌を刺激する成分を極力含んでいない保湿作用のあるボディクリームや薬用ボディジェルを使って保湿をし、肌にうるおいを与えましょう。
また、熱いお湯に長時間入浴すると、皮脂が失われてしまいますので、入浴の際はぬるま湯、短時間を心がけましょう。
まとめ
皮膚に関するトラブルは、日常生活に支障をきたすこともあり、一刻も早く治したいものです。
アトピー性皮膚炎とは、一般的に皮膚に存在するバリア機能が低下して、かゆみを伴う湿疹が一進一退で良悪する状態を繰り返す病気のことです。
これまでの数々の研究によってもアトピー性皮膚炎の明確な発症メカニズムはいまだに解明されていませんが、アトピー性皮膚炎はこれまでの知見より皮膚自体のバリア保護機能が低下することが直接的な原因で引き起こされる病気と考えられています。
一方で、皮脂欠乏性皮膚炎は、高齢者の腰臀部(腰からおしり)や下腿(ひざから下)に好発し、冬に悪化するのが特徴です。
皮脂欠乏性皮膚炎の場合、皮膚は乾燥していて、皮膚の表面には細かい糠(ぬか)のようにフケ状の皮膚が剥がれ落ちた状態がみられます。
心配であれば、皮膚科など専門医療機関を受診して相談しましょう。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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