料理は好きだけれど、毎日するのはやめた。60歳からの「自分ファースト」の生き方で得たこと

 料理は好きだけれど、毎日するのはやめた。60歳からの「自分ファースト」の生き方で得たこと
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主婦の視点での防災の知識を発信してきた、作家の草野かおるさん。53歳で作家デビュー後、防災や料理に関する本を刊行しています。『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』(ぴあ)では、草野さんが自分を最優先にして生きるために、取り入れたことや、やめたことが描かれています。たとえば現在は毎日料理をしていないという草野さん。夫さんとはどういうやり取りがあったのでしょうか。そして「自分ファースト」で生きるために、夫さんに伝えたこととは。

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料理は自分で温めて食べてもらう

——「自分ファーストにしよう」と思ったきっかけはあったのでしょうか。

専業主婦として家族に尽くしてきた人生でしたし、長女はシングルマザーとなったり心配事も尽きなくて(現在は再婚しました)。でも、自分事として気にし続けるという、子離れ・夫離れできない自分に少し嫌気が差したんです。家族との距離を見直そうと思い、まずは夫に「毎日3食、温かいものを期待しないで。我が家はセルフサービスにします」と宣言しました。

——毎日料理するのをやめたのですね。

毎日ご飯のことを考えるのは大変ですが、私は料理の本も出していますし、料理が嫌いなわけではないんです。私にとって、料理はマインドフルネスの時間でもあって、気分転換をしたいときや、時間があるときに、料理だけに集中して過ごします。

今はあくまで自分のためにやっているので、家族のリクエストは聞きません。90分ほどで2日分くらいの主菜や副菜を作っておきます。作っておくと、夫は好きなときに自分で温めて食べてくれます。今は電子レンジやオーブントースターであたためればおいしく食べられますからね。それで文句を言わない夫であるということが前提にはなってしまうのですが。

作り置きをしておくと、自分が集中して創作する時間が中断されないのが良いのです。波に乗ってるときに「ご飯まだ?」と聞かれるとイラっとするので(笑)。後始末も楽ですし、ストレスが溜まらなくなりました。

——「セルフサービス宣言」をしたとき、夫さんはどんな反応でしたか?

うちの場合は、意外とすんなりでした。友人には「夫は温かいものしか食べないから」と、地域での集まりのときに、お昼の時間だけご飯を作りに帰っている人もいました。もちろん夫のタイプにもよりますが「カレーをあたためて食べてね」と言えば、意外と解決するのではないかと思うんです。

私の本を読んで実践してみたら上手くできた人もいます。友人は言ってみたところ「適当に電子レンジで温めて食べるから大丈夫だよ」と意外とあっさりした反応だったそうです。なので「今まで悩んで損した」と話していました。

ネット上のレビューを読んでいたら、夫側の親戚付き合いが苦手な方が、断ってみたらすんなり「いいよ」と言われて、何も支障がなかったそうです。言ってみると、意外と自分ファーストが通ることがあるのかもしれません。

セルフサービス宣言後は、夕飯を気にせず出かけられるようになりました。夫の予定を聞かずに、自分の予定は自分で決めています。自分の体が動くうちに、博物館や海外旅行にも行きたいと、自分のことを一番に考えるようになりました。セルフサービス宣言は、自分ファーストに切り替えるきっかけとして大きかったかもしれません。

——夫になかなか言えなくて悩んでいる方も多いと思うのですが、何かコツはありますか?

夫の許可が必要な場合は、家庭内プレゼンをするといいと思います。「草野さんのところだからわかってもらえる」と言われることはあって、確かに話しても通じない夫も世の中にはいると思います。

でも私もプレゼンをしてきたうえで、今に至っていて。たとえば1泊旅行に行きたいとき「予算はこのくらいで、自分のお小遣いの範囲でまかなえます。家族はこんなお土産をもらえます。ストレス発散できると、私の機嫌が良くなって、家族も幸せになります」などと具体的に話すようにしています。

夫婦といえども、言わないとわからないこともたくさんありますから、伝えることは大切だと思います!

『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』(ぴあ)より
『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』(ぴあ)より

「断れない性格」だけれども

——昔は自分ファーストになれないことも多かったのでしょうか?

以前は、PTAや自治会という狭い世界の「世間様の目線」を気にしていて、「草野さんのところの奥さまって変な人だわ」と思われるんじゃないかと、恐れていたこともあったんです。結果的には、引っ越しをしたことでコミュニティが変わり、顔見知りにしょっちゅう会う地域から、近所を歩いても誰も知らない地域で暮らすことになって、自由になりました。

また、「誰のための人生か」ときどき立ち止まって考えてみるようにしています。そして、自分のために、自分の舞台をシナリオに書いて生きることを意識しています。

私はもう若くはない中で、誰かの視線を気にして演じるのではなく、自分のやりたいことをしたいと思いました。今は日々、新しい本のネタを探したり、具体的にどんなことをしていけるか考えたりすることに忙しく、世間の目が気にならなくもなりました。

——地域の役員は断れなかったというお話をされていましたが、断れない性格で自分ファーストになれずに悩んでいる人も少なくないと思います。

私は断れない性格ではありますが、断ったらそこでおしまいになるのがもったいないとも思っていて。引き受けた先に何か面白いことがあるんじゃないかと考えるんです。7割が大変でも、3割が何か楽しいことや新発見があれば私的には良しとしていて。人間関係が面倒でも消防署で新しい話が聞けたとか、仲良く話せる人ができたとか、何かしら得られるものはあります。最初に扉を閉じてしまうと、次の世界には行けないので、時間があれば大体は引き受けていますね。

人によっては今の私も自分ファーストではないと思うかもしれません。でも、そういう自分の性格がわかったがゆえに、今では自分のために時間が欲しいと思ったら、ちゃんと断るようにしていて、線引きは上手くできるようになったと思います。

それでも、家族からの頼みごともあまり断らないので、孫の世話や、夫の手伝いなどに使う時間が多くて、モヤモヤしたこともあります。でも人のための時間でも、そういう時間の使い方をすると決めたのは自分でもあるんですよね。

断るときは理由を言いますし、何もかもやりたくないときは仮病を使うこともあります(笑)。夫には「具合が悪い」と言い、私は部屋に閉じこもり、食器洗いも含めて全部自分でやってもらうときもあります。でも日頃やれることはやっているので、つける嘘でもあって、私はバレてもいい仮病だと思っています。

——疲れて何もしたくないときは心の不調でもあるので、仮病でない気もします。

そうですね。夫も子どももわかってて、仮病だと気づかないフリをしてくれてるのかもしれません。

——自分ファーストを意識して生活できている今、今後どういう生き方をしたいとお考えでしょうか?

私は大成功したいとか富豪になりたいという思いはなかったですが、53歳でデビューのきっかけをいただいて、自分の言葉が本になるのは最高の出来事でした。その上、本を出すことで色々なメディアから声をかけていただき、それまでの人生になかったテレビやラジオ出演、講演会の経験もしました。これは私にとって宝物で、応援してくださる方を裏切らないよう、ヒットを続けていきたいです。

今まで防災や料理の本を書いてきたのですが、私は関心の幅が広くて。これからは旅行の話や、旅行をきっかけに興味を持った歴史の話も書いてみたいという思いを持っていますので、これからも今の仕事を突き詰めたいです。

『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』(ぴあ)
『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』(ぴあ)

【プロフィール】
草野かおる(くさの・かおる)

出版社勤務を経て、イラストレーターとして活動。現在66歳。PTAや自治会を通して16年に渡り防災勉強会や防災訓練などで防災活動に関わったことを活かし、東日本大震災の数日後、役に立つ防災メモを4コマにしてブログで発信を始める。その年の防災の日である9月1日、これが書籍になり、50代にして著者デビュー。続けて非常食のアイデアをまとめた本や、100均グッズなどで備える、自宅避難に役立つ防災本も発売。2018年には防災士の資格を取得。防災以外にも食養生や激せまキッチンでもできるレシピ本なども刊行。

■X(旧Twitter):@kaorutofu

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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『60歳からは「自分ファースト」で生きる。』(ぴあ)より
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