膵臓は沈黙の臓器。だから最も怖い…医師が教える、「膵臓がん」の意外なサインとは
膵臓(すいぞう)は沈黙の臓器と言われており、症状を出すことなく、病気を進行させてしまう臓器です。膵臓がんは症状が出にくいからこそ、その初期症状に早く気づくことが大切です。医師が解説します。
膵臓がんはなぜ怖いと言われるのか
膵臓(すいぞう)がんとは、膵臓に発生する悪性腫瘍のことであり、その9割以上は膵臓でつくられる膵液の通り道となる膵管から発生すると言われています。
膵臓がんは疫学的に60歳以上の中高年の男性に多く見られる疾患であり、近年では発症率が上昇している病気です。
主に喫煙習慣や肥満など生活習慣の乱れが膵臓がんの発症要因になっており、その他にも遺伝によるもの、あるいは慢性膵炎や糖尿病などを罹患することによって二次的に発症リスクが増加することが判明してきています。
膵臓がんの明確な発症メカニズムはいまだに解明されていませんが、近年における数々の研究によると特定の遺伝子変異が膵臓がんの発生や発症に大きく関与していることが少しずつ分かってきています。
例えば、同じ家系内に膵臓がんの発症者がいる場合には遺伝的に膵臓がんを発症しやすいことが知られてきています。
膵臓という臓器は腹部の背中側に位置しており、万が一膵臓がんを発症しても初期段階では自覚症状が乏しく発見されにくい疾患と言われています。
膵臓がんは早期から周囲の組織を破壊しながら進行していくため、腹部や背部の疼痛症状、食欲不振などの症状が現れて検査を受けた段階ではすでにかなりステージが進んだ状態である場合も決して少なくなく、発見された時点で手術切除が可能なケースは稀です。
膵臓がんの中でも切除可能がんは予後が良好であり、腫瘍径が小さくてStage分類が低く進行度が乏しくなるにつれて5年生存率が高くなることが報告されています。
膵臓がんのサイン
膵臓は胃の背面後部に位置しており、その長さが約20cm程度の左右に細長い臓器であり、その膵臓の中心部を貫いて網目状に走行している管構造を膵管と呼称しています。
膵臓にできるほとんどのがん疾患がこの膵管細胞に生じる「膵管がん」であると考えられており、通常では「膵臓がん」は膵管がんのことを意味していることが多いです。
膵臓がんの初期段階では自覚症状がほとんど乏しく、通常の健診などでは容易に発見することが困難である病気のために、膵臓がんと診断される際には、かなり病期が進行した状態であると認識されています。
初期は自覚症状がないものの、膵臓がんの病状が進行すると、以下の症状などが出現すると言われています。
- 腹痛
- 腹部不快感
- 食欲不振
- 体重減少
- 尿の色が濃い
- 黄疸(身体や白目が黄色くなる)
- 全身掻痒感
予兆を自覚した時にすべきこと
膵臓の悪性腫瘍ははっきりした発症メカニズムが現在でも解明されておらず、膵臓がんに確実にならないための予防策は存在しません。
また、遺伝性や家族性の関与があることから絶対的に発症リスクを軽減させるような対策そのものは確立していないのが現状ですが、本疾患は慢性膵炎や糖尿病、喫煙習慣、肥満などが発症リスクとして判明しています。
したがって、これら一つ一つのリスクファクターを減らすことが膵臓がんを予防する事にも繋がっており、日々の食生活、運動、喫煙などの生活習慣を見直すと同時に慢性膵炎や糖尿病を仮に発症した際は適切な治療を実践することが重要な観点となります。
万が一、腹痛、背部痛、食思不振、嘔気、嘔吐、下痢、体重減少、黄疸など膵臓が悪い症状に該当している際には、膵臓がんなどを早期発見して速やかに治療開始することで、症状進行の抑制や合併症予防が期待できます。
腹部症状を中心として心配な症状が続いている方は、消化器内科など早急に専門医療機関を受診して相談するように心がけましょう。
膵臓がんの治療
膵臓がんの治療には、手術、薬物療法、放射線治療、緩和ケアがあります。
がんが切除できる場合は、手術のみ、もしくは手術と薬物療法、放射線治療を組み合わせた治療(集学的治療)を行います。
がんを切除できない場合は、主に薬物療法や薬物療法と放射線治療を組み合わせた治療を行いますし、がんの進行の状態によっては、緩和ケアのみを行う場合があります。
実際の治療法は、がんのステージ分類などを含めて病状進行の程度に基づいた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、専門医と話し合って決めていきます。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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