桐野夏生、柚木麻子、山内マリコら「性加害のない世界を目指す」声明を発表

 桐野夏生、柚木麻子、山内マリコら「性加害のない世界を目指す」声明を発表
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2024年9月8日、日本ペンクラブは、講演会「わたしたちは宣言します ― 性加害のない世界を目指して ―」を行い、“性加害のない世界を目指して”という声明(ステートメント)を発表した。

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声明が発表されたのは、神保町にある日本出版クラブ(一般財団法人) 出版クラブホール。

桐野夏生(作家、日本ペンクラブ会長)、伊藤和子(弁護士)、女性作家委員会/大沢真知子(日本女子大学名誉教授)、篠田節子(作家)、品川裕香(教育ジャーナリスト)、白河桃子(ジャーナリスト)、山内マリコ(作家)、柚木麻子(作家)など錚々(そうそう)たるメンバーが登壇し、ステートメントの発表を行なった。

女性の書き手たちが宣言「性加害の根絶に取り組む」 

会場で読み上げられたステートメントは以下のものだ。

【日本ペンクラブ女性作家委員会宣言】

私たち、文芸・ジャーナリズム・アカデミズム等の世界で表現・創作・出版活動にたずさわる者たちは、社会通念や人々の意識が大きく変わった現代において、あらゆる差別、精神・肉体・性へのいかなる暴力、いかなるハラスメントも許されるものではないと考え、根絶に取り組んでいくことを宣言します。 

宣言を実効性のあるものにするためには、日本の出版ビジネスも、人権を尊重する意識や仕組みを、国際基準を満たすレベルに引き上げることが急務と考えます。国連ビジネスと人権作業部会の報告書をはじめ、訪日調査で得られた結果や課題の解決に向け、国内人権機関設立などの可能性を見据え、日本社会が具体的な一歩を踏み出す必要があると考えます。 

そのためにも、まずは文芸・ジャーナリズム・アカデミズム等の世界が、構造的に生じうる自らの加害性にも目を向け、声なき声がかき消されない、よりよい社会を目指し、未来に手渡す努力をし続けます。

2024年9月8日

日本ペンクラブ女性作家委員会

委員長 吉田千亜

上記の声明(※1)は、9月8日現在、一般社団法人日本ペンクラブ、公益社団法人日本文藝家協会、一般社団法人日本SF作家クラブ、一般社団法人日本劇作家協会、日本出版労働組合連合会など様々な団体から賛同を得ており、今後も賛同団体は増えていくものと思われる。

なぜこのような声明が発表されたのか

ところで、なぜこのようなステートメントが、2024年のいま、発表されたのだろうか。

2022年、山内マリコ、柚木麻子らが発起人となり「原作者として、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます」(※2)というステートメントが出されたことは記憶に新しいだろう。

当時、映像業界での性加害問題が表面化してきたことをきっかけに、自作の映像化経験のある女性作家たち18人が、性加害の撲滅を訴えたのだ。

映像制作の場が性加害の温床になりやすい状態であることを指摘し、原作者として万が一加害があった場合には、適切な対応をとることを明確に述べたこのステートメントは、大きな話題となった。

山内によると、賛同や賞賛の声は多かったものの、中には、「映像業界に口を出すより、まずは自分たちの出版業界をどうにかしたら?」という声もあったという。こういった声をきっかけに、山内たち作家は、出版業界にも何らかの働きかけが必要あると考え、日本ペンクラブの女性作家委員会と連帯し、ステートメントを出す運びとなったのだ。

実際、出版業界が性加害のないクリーンな現場というわけではない。2022年に女性初のペンクラブ会長になった桐野夏生は、文筆業を始めた当時、数々の嫌がらせやセクハラを受けたという。性加害を指摘する文章を書いたら、出版業界のパーティーで男性作家たちから無視をされるといういじめも経験したそうだ。

2024年の今は、当時よりもセクハラや性加害に対する世間の認識は変わってきているものの、まだまだメディア、出版、ジャーナリズム、アカデミズムの世界は、男性優位の規範を維持している。性加害に対し、被害者に自衛を求める風潮も無くなっていない。性被害に遭っても訴えることができなかったり、警察や弁護士に相談しても訴えを取り下げるよう促されたりすることもある。今回のステートメントは、そういった現状を変えていくための、第一歩なのだろう。

山内マリコ「社会は変わりつつある。変わらなければならない」

山内は、今回のステートメントによって、「社会は変わってきている。変わらなければならない」と感じてもらいたい、と述べている。

実際、社会は変わりつつある。30年前はセクハラという言葉はなかった。2023年には先進国で最も低かった性交同意年齢13歳が16歳に引き上げられた。そして、2024年には、初めて出版業界から「性加害のない世界を目指す」旨のステートメントが出された。

もちろん、変わっていない部分も多い。性犯罪の訴えや起訴のハードルが高く、被害者に自衛を求め、加害者の罪を軽く扱う風潮は未だに残っている。

先日も、自転車などで追い抜きざまに女性の胸を触る等の犯罪を警視庁が「ワンタッチ痴漢」と名付けていることが話題になった。「ワンタッチ痴漢」。ずいぶん、性犯罪を軽くみた、犯罪者に寄り添ったネーミングだ。

ニュースにつけられた見出しは、「相次ぐワンタッチ痴漢にご注意!」。突然に触られるのを、どのように注意すればいいのか。なぜ当然のように被害者に自衛を求めるのか。「一瞬触っただけでも性犯罪は重大な犯罪。被害者の方は、道を歩けなくなるほど苦しむ可能性があります。我々は全力で性犯罪者を捕まえます」となぜ言えないのか。

残念ながら、性犯罪の軽視は未だ繰り返し行われている。だからこそ、あらゆる業界で「性加害は許さない」というステートメントが求められているのだろう。

※1「性加害のない世界を目指して」日本ペンクラブ

※2 原作者として、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます。

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AUTHOR

原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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