「コップを持つ手が震える…」放置してはいけない、注意したい危険な〈ふるえ〉と隠れた疾患とは

 「コップを持つ手が震える…」放置してはいけない、注意したい危険な〈ふるえ〉と隠れた疾患とは
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甲斐沼 孟
甲斐沼 孟
2024-07-24

手の震えは、細かい動作を必要とするときなど、日常生活に不便を感じやすい症状のひとつです。またパーキンソン病など重大な疾患が隠れている可能性もあります。

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放置してはいけない、手が震えるときに注意したい疾患とは?

手が震える症状のことを、医学的には「振戦(しんせん)」と呼び、自分の意思とは関係なく筋肉が収縮することにより起こる比較的規則的な運動の一種であると考えられています。

手の震えを気にされて、「パーキンソン病」ではないかと心配されて、受診されるきっかけになる方も少なからずいらっしゃいます。

パーキンソン病とは、通常では振戦、動作緩慢、筋強剛(あるいは筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)などを主症状とする病気であり、症状を放置すれば日常生活に重大な支障をきたす疾患のひとつとして認識されています。

一般的には、50歳以上で発症する疾患と言われていますが、時に40歳以下で起こる場合もあり、「若年性パーキンソン病」と呼ばれています。

パーキンソン病の患者さんは本邦では10万人あたり約100人前後と言われており、特に60歳以上では10万人あたりに1000人近くいますし、高齢者では発症率が高くなりますので、昨今の人口の高齢化に伴って患者数は増加していると考えられます。

パーキンソン病では神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝集して溜まることが原因となることが分かっています。

そして、大脳の近傍にある中脳領域の黒質ドパミン神経細胞が減少して起こるとされていて、ドパミン神経細胞が減ると体が動きにくくなり、症状としてふるえが起こりやすくなります。

ドパミン神経細胞がなぜ減少するのかは十分にわかっていませんが、現在はドパミン神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝集して蓄積し、ドパミン神経細胞が減少すると考えられています。

したがって、これらのαシヌクレイン物質が増えないようにすることが、治療薬を開発する上で大きな焦点となります。

危険な手の震えに対する対処法とは?

筋肉の疲労に伴って、手が震える場合があります。

筋肉は神経の命令によって収縮していますが、筋肉が疲労したり、ミネラルのバランスが崩れると、意志とは関係なく手が震えたり足がつったりすることがあります。

筋肉の疲労を感じたら、日常的にマッサージやストレッチを励行する、入浴するなどで筋肉の疲労を取り除くとともに、カルシウムなどのミネラルの多い食品を意識的に摂取しましょう

パーキンソン病では、ふるえ(振戦)、筋強剛(筋固縮)、動作緩慢、姿勢保持障害が主な運動症状と言われています。

パーキンソン
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ふるえというのは通常静止時の振戦であり、椅子に座って手を膝に置いている時や歩いているときに、手の領域で起こりやすく、労作して手を動かすとふるえは小さくなる傾向があります。

筋強剛については自覚的にはあまり感じませんが、他の人が患者さんの手や足、そして頭部などを動かすと感じる抵抗のことを意味しています。

動作緩慢とはあらゆる体の動きが遅くなることで、同時に細かい緻密な動作がしにくくなりますし、最初の一歩が踏み出しにくくなる、いわゆる「すくみ足」が起こることもあります。

また、姿勢保持障害があると、身体のバランスが悪くなり転倒しやすくなります。

パーキンソン病はほとんどの方が服薬管理によって、治療できます。

ドパミン神経細胞が減少するため少なくなったドパミンを補う治療が一般的であり、ドパミン自体を飲んでも脳へは移行しないとされているために、ドパミン前駆物質であるL-dopa薬を服用します。

L-dopaは生理的に腸から吸収されたのちに血液脳関門を通って脳内へ移行し、ドパミン神経細胞に取り込まれてドパミン物質となります。

その後、シナプス小胞にとりこまれて、運動調節のために放出されドパミン受容体に作用します。

また、ドパミン受容体を刺激する薬にはドパミン神経細胞を介さずに、直接ドパミン受容体に作用し、少なくなったドパミンを補う作用があります。

それら以外の作用薬には、アセチルコリン受容体に作用する抗コリン薬、グルタミン酸受容体に作用するアマンタジン、アデノシン受容体に作用するイストラデフィリン、シグマ受容体に作用するゾニサミドなどが挙げられます。

また、パーキンソン病に対しては、内服治療のみならず手術治療が行われることがあります。

手術療法は脳内に電極を入れて視床下核を刺激する方法が最もよく行われています。

視床下核は運動機能を抑制していると考えられ、この部位を刺激して視床下核の機能を麻痺させると運動の抑制機構が解除されて体が動きやすくなると言われています。

薬で治療しても振戦の強い方や「ウェアリングオフ現象」といった薬の効果が持続しづらい方で効果が期待されています。

通常では体を動かすことは体力や免疫力を高めて、パーキンソン病の治療に繋がります

必ずしも激しい運動ではなく、散歩やストレッチなどの毎日の運動を続けることで体力を日常的に高めることは重要な観点となります。

受診する適切なタイミングとしては、手の震えが強く日常生活に不便が出ている、あるいは他の症状を合併している場合などであり、症状が心配であれば、脳神経外科や脳神経内科などの専門医療機関で相談しましょう。

まとめ

これまで、放置してはいけない、注意したい危険な手の震え症状と侮ってはいけない隠れた疾患などを中心に解説してきました。

細かい動作を必要とする手の震えは、日常生活に不便を感じやすい症状のひとつです。

手が震えて上手く字が書けない、手に持ったコップの飲み物が震えでこぼれる、着衣の際に手が震えてボタンをかけるのに手間取ることがあるなどの症状がある際には、パーキンソン病など重大な疾患が隠れている可能性があります。

パーキンソン病は、脳の黒質という部位が変性し、筋肉の動きを上手く調節できなくなる病気であり、手の震えの他、表情が乏しくなる筋肉のこわばり動作が緩慢になるなどの症状が見られます。

病状としては、比較的ゆっくり進行する病気のため、初期には転びやすくなったりつまずきやすくなったりするという些細な症状として現れることもあります。

心配であれば、最寄りの医療機関を受診して相談しましょう。

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甲斐沼 孟

甲斐沼 孟

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。



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