「疲れやすい」「顔色が冴えない」薬剤師が教える、何となく調子が悪い時の漢方薬への頼り方

 「疲れやすい」「顔色が冴えない」薬剤師が教える、何となく調子が悪い時の漢方薬への頼り方
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加齢とともに疲れやすくなったり、顔色がさえなかったり、健康診断で引っかかるほどの病気はないけれど、何となく調子が悪い。そんな悩みを抱える人は意外に多いものです。そんな、“何となく不調”の改善に向いているのが漢方。この記事では、漢方の基本的な考え方や漢方薬での対処法を解説します。

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漢方医学とは?

漢方医学とは、「中医学」という中国伝統医学が日本に伝来し、日本の気候風土や日本人の体質などに合わせて独自に発展した医学です。西洋医学では、病気の原因は臓器や組織にあると考え、個別の症状に対処しますが、漢方医学では、病気そのものの治癒より、病気を引き起こす根本的な体質を改善することに重点を置き、治療を行います。

「気」「血」「水」のバランスが重要

漢方では患者さんの症状を診るとともに、体の中のバランスの崩れているところを探していきます。その指標はいくつかありますが、なかでももっとも重視しているのが、「気」「血」「水」という考え方です。それぞれの役割は次の通りです。

「気」(き)

気とは、いわゆる“元気”、“気力”、“気合”の気のことで、実際に目に見えるわけではありませんが、全身を巡っている生命エネルギーのことです。元気がないときや気力がないときは、この気が不足している状態です。また、「病は気から」というように、気のエネルギーが不足するとさまざまな病気に罹りやすくなると考えられています。

「血」(けつ)

血は、血液のことで、血管を通って全身を巡り、臓器や組織に酸素や栄養を運ぶ働きを指します。血が滞ることを「於血」(おけつ)、血が不足することを「血虚」(けっきょ)といい、冷えや月経不順など、女性の不調の多くには、血液の巡りが悪くなることが大きく関係しています。

「水」(すい)

水は、血液以外の赤くない体液(水分、リンパ液、汗、唾液、尿、浸出液など)のことで体に潤いを与えますが、増えすぎたり、滞ったりすると、むくみやめまい、胃がポチャポチャする(胃内停水)などの症状があらわれ、不足するとのどの乾きや皮膚の乾燥などが起こります。

こうした「気」「血」「水」はそれぞれが影響を及ぼし合っており、それぞれのバランスがとれているのが正常(健康)な状態で、どれかが多すぎたり少なすぎたり、もしくは流れが滞ったりすることで、体に不調や病気が起こると考えられています。漢方では、この「気」「血」「水」のバランスを整えることで不調や病気を改善させようとするのです。

気血水
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西洋医学にはない“未病”とは?

漢方では病気と健康の間に明確な境界はないと考えます。いわゆるグレーゾーンの半健康の状態で、発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態を「未病」(みびょう)と呼んでいます。はっきりとした病気ではなく、“何となく調子が悪い”という場合、病気になる手前の未病の状態だと考えられ、このタイミングで治療を行うのが漢方の特徴です。

“何となく不調”に効く漢方薬

漢方では疲れやだるさは、生命エネルギーである「気」の不足を示す重要なサインだと考えています。気が足りない状態が続くと、血の不足を招き、さらに水の機能にも影響して、体に必要な栄養が不足したり、毒素や老廃物の排出ができなくなったりして体の不調につながるのです。こうした気・血・水のバランスを保つにはさまざまな漢方薬がありますが、代表的なものを3つ紹介します。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

補中益気湯は、生命活動のエネルギー源である「気」が不足した「気虚(ききょ)」の状態で用いられる漢方薬です。気は、人の体を動かす原動力のようなものなので、例えて言えば、気が不足している人は、電池が切れた携帯電話のようなものといえます。機能は壊れていないのに、気という動力がないので動けないのです。

また、補中益気湯は、胃(中)を中心とした体の内側の気を補い、増やすという意味があり、胃腸のはたらきを高め、食欲を増進させ気の働きを回復させる効果があります。不足した気を補い、体全体に巡らせることで、“なんとなく調子が悪い”という未病の状態を改善します。

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

十全大補湯は、「気」と「血」の両方を補う漢方薬です。気を補うことで体の隅々まで気が行き届き、疲労や倦怠感、冷えなどを改善します。また、血を補うことで、栄養状態を改善し、貧血や月経による不調の改善に効果があります。さらに、栄養を取り込む胃腸の機能も高めるため、食欲不振を改善し体力を回復させます。

帰脾湯(きひとう)

帰脾湯は、胃腸の働きをよくしてエネルギーを補う四君子湯(しくんしとう)というベーシックな処方に、気と血を増強する生薬や精神を安定させる生薬を加えた漢方薬です。疲れがひどく、元気がない、頭が働かない、ボーっとするなどの症状があり、不安感や睡眠など精神的な不調がある場合に向いています。 

まとめ

漢方医学では、人間が健康を維持するためには、体内に「気」「血」「水」が過不足なくあり、スムーズに巡っていることが大切だと考えます。また、病気ではないものの“何となく調子が悪い”という状態を「未病」と呼び、未病の段階で対処することで病気への進行を防ぎます。

なお、この記事で紹介した漢方薬は、不調のときのファーストチョイスとして代表的なものですが、個人の体格や体質などを分類した「証」(しょう)というタイプに合わせて、配合する生薬(漢方薬の元となる成分)を微妙に変え、その人に合った漢方薬をカスタマイズすることもできます。

漢方医学は奥が深く、西洋医学のように対症療法で治療を行う方法とは根本的に異なります。自分に合った漢方薬を見つけるには、漢方を扱う医師や漢方薬局の薬剤師などに相談して、最適な薬を選んでもらうことをおすすめします。

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AUTHOR

小笠原まさひろ 薬剤師

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。



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