認知症と間違えやすい〈高齢者のうつ〉。認知症との大きな違いは?予防法は?精神科医が解説

 認知症と間違えやすい〈高齢者のうつ〉。認知症との大きな違いは?予防法は?精神科医が解説
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豊田早苗
豊田早苗
2024-03-30

65歳以上になってからの、落ち込みやめまい、不眠。もしかしたら「うつ」かもしれません。

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高齢者うつとは?

高齢者うつとは、65歳以上の老年期になって初めて症状が出るうつ病のことです。老年期以外の年代の方のうつ病と基本的には同じですが、高齢者うつでは、気分が落ち込む、マイナス思考等の抑うつ症状よりも食欲が出ない、めまいがする、疲れやすい、夜眠れない、などの身体の症状が強く出るため、うつ病と気がつかずに見逃してしまうことも多いです。また、集中力や注意力の低下、思考力の低下、妄想などが見られることも多く、認知症と間違えてしまうこともあります。

認知症との違い

・徐々にではなく、ある時から急に、年齢不相応の物忘れが起こるようになる

・頭痛、めまい、疲れやすい、胃腸の調子が悪いなど身体の様々な不調を伴う

・体調不良や物忘れの自覚があり、不安になったり、家族に迷惑をかけていると自分を責めたりする

・妄想は、認知症に多い「ものとられ妄想」ではなく、貧困妄想(お金に困っているわけではないのにお金がない、貧乏だと思い込む)や心気妄想(身体の症状を癌など命に関わる病気のサインと思い込む)が多い。

高齢者がうつになりやすい原因

厚生労働省の調査(2018年の統計報告)によると、気分障害の年齢別患者割合は、20代が6.8%、30代12.9%、40代 21.1%、50代 18.7%、60~64歳 7.6%に対し、65歳以上は 31.7%となっており、65歳以上の割合が他の年代に比べて非常に多くなっています。何故、65歳を過ぎて、うつ病を発症する人が多いのでしょうか?それは、退職や子供の独立など環境の変化に加えて、外出機会の減少や食事量の減少による脳内セロトニンの分泌低下が関係しています。セロトニンは、脳内神経伝達物質の1つで、食事から摂取されたトリプトファンと呼ばれる必須アミノ酸を原料に体内で作られます。体内で生成されたセロトニンには、気持ちを安定させる働きがあり、日光を浴びたり、一定のリズムで体を動かすことで分泌が促進されます。歳を取ると、退職や身体的問題などで、外出機会が減りがちになりますし、食事量も減りセロトニンの原料となるトリプトファン、セロトニンを体内で作る際に必要なマグネシウムやビタミンB6などを十分量バランスよく摂取するのが難しくなってきます。こうしたことで、セロトニンの分泌が低下し、気分が安定しにくくなり、イライラしやくなったり、落ち着きにくくなったり、不安になりやすくなったりします。環境の変化によるストレスとセロトニン分泌の低下による気持ちの不安定さ。この2つの要因が重なり合うため、65歳以上になると、うつ病を発症しやすくなります。

うつにならないための予防法

では、うつ病にならないためには、どうしたら良いのでしょうか?それは、うつ病になる要因を取り除くこと。と言っても、取り除くことが出来る要因と取り除くことが出来ない要因がありますよね。退職や身体的問題は、取り除くことが難しいです。ですが、外出機会の減少によるセロトニン分泌低下や食事量減少によるセロトニン原料不足は、生活を見直すことで、改善可能です。具体的には、以下のような行動を取り入れてみましょう。

天気の良い日には、15分から30分太陽を浴びる

太陽を浴びるために外に出る必要はありません。部屋の窓ガラスを開けて、日光を浴びればOKです。

窓を開ける
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日光浴が出来ない場合は、リズムに合わせて体を動かす体操を行う

天気が悪かったり、寒かったりして、窓を開けて日光浴が出来ない日もありますよね。そんな時は、各地の自治体が推奨しているご当地体操やラジオ体操など音楽に合わせて体を動かす体操を行いましょう!

セロトニンを体内で作るために必要な栄養素が豊富に含まれる食材を食事に取り入れる

バナナ、納豆、カツオやマグロ(ツナ缶でもOK)、玄米は、1食材でトリプトファン、ビタミンB6、マグネシウム全てが摂取できるので、オススメです。

まとめ

歳を取ると、ストレスから身を守ってくれるホルモンの分泌が悪くなり、心の病気も発症しやすくなります。ですが、生活を工夫することで、予防することはできます。認知症も含め、心の病気に対しても予防意識を持って、生活していただければ嬉しい限りです。

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豊田早苗

豊田早苗

鳥取大学医学部医学科卒業後、総合診療医としての研修及び実地勤務を経て、2006年に「とよだクリニック」を開業。2014年には「とよだクリニック認知症予防・リハビリセンター」を開設。「病気を診るのではなく、人を診る」を診療理念に、インフォームド・コンセントのスペシャリストと言われる総合診療医として勤務した経験を活かした問診技術で、患者さん1人1人の特性、症状を把握し、大学病院教授から絶妙と評される薬の選択、投与量の調節で、マニュアル通りではないオーダーメイド医療を行う。精神療法、とくに認知行動療法を得意とし、薬を使わない治療も行っている。



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