なぜ障がいのある女性が子どもを産み育てるのは難しい?「子どもを産む権利」と社会が抱える課題

 なぜ障がいのある女性が子どもを産み育てるのは難しい?「子どもを産む権利」と社会が抱える課題
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今の社会では、障がいのある女性が妊娠・出産・子育てをするのにはさまざまなハードルがあります。「性と生殖に関する健康と権利(SRHR:Sexual and Reproductive Health and Rights)」の観点から考えれば、自由に選択できないのであれば、改善が必要です。埼玉大学ダイバーシティ推進センター教員で、『障害があり女性であること 生活史からみる生きづらさ』(現代書館)の執筆者の一人である、瀬山紀子さんに、障がいのある女性が子どもを産み育てることの障壁や、子育てを経験した障がいのある女性たちがどのように乗り越えてきたかを伺いました。

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障がいのある女性が子どもを産み育てることの障壁

障がいのある女性が子どもを生み育てることについて、状況の変化がありつつも、色々な意味での障壁があるといいます。

今の社会では、障がいの有無で分けられていることが多く、体験・経験の側面でも差が生じやすく、そのため、妊娠・出産・子育て以前に、そもそも人と親密な関係を作ることにハードルがある人もいます。出会いがないわけではないものの、障がいのある人が家族を形成し、将来に向けて、誰とどう暮らしていくかを決めていく主体だという視点が社会に不足しているため、今でも施設や親元で暮らす以外の選択肢がない人も少なくないとのことです。

「そういった背景がありながらも、現在進行形で子育てをしている人や、既に子どもが成人していたり、孫もいる人にも私は出会ってきました。中には一般に“重度”と言われる障がいがある人もいます。

ポイントは、ピアサポート(仲間同士の支え合い)にあると思います。重度の障がいがありながら子育てをしてきた第一世代の人が、現在だいたい70代前半くらいで、制度がない中で妊娠・出産・子育てを周囲にサポートを求めたり、同じ障がいがあって子育てをしている人同士のネットワークでつながり、生活場面にある障壁をどのように乗り越えてきているかを情報交換し合いながら子育てをしてきた。『障がいがある親になった人同士で出会えたことによって救われた』『相談ができて、一人ではないと思えた』という話を聞いてきました。

一方、孤立した中で子育てをしている障がいのある人も、世の中にはたくさんいると思っています。自分の置かれた状況の困難さが『障がい』や『女性』という社会構造によるものであると、結びつけて考えること自体が難しい人が多いと思います」(瀬山さん)

「家族のことは家庭内で解決すべき」という考えをとらえなおす

日本社会では「家族のことは家族で解決すべき」という考えが根強くありますが、「家族空間の中に、家族以外の人がいながら家族が営まれていく選択肢」が知られていくといいと、瀬山さんは話します。

「私自身は20年以上、地域で暮らす障がいのある人に介助者として関わってきました。たとえば、日ごろは一人暮らしをしている人が、お正月の親戚の集まりに行き、そこに食事介助をしている私がいるという状況や、親子ゲンカに親の介助者として立ち会うこともありました。『喧嘩をしたいから隣の部屋にいてもらえますか?』と言われ、『また必要になったら呼んでください』と待機をすることもありました。

家族と同居しながら介助者がいることは、まだ一般化してるとは言えません。『家庭』という密室化されやすい空間に、家族以外の人がいること。『一対一ではない介助』や介助を受けながら人と関わりを持っていくことは、本人・家族・介助者にとっても新鮮な経験です。

すでにこの間、そうした介助者がいる家族の経験は実践として重ねられてきていますが、プライバシーの問題含め、いろいろな制約からなかなか表にはでてきていないと思います。こうした経験が、現状の家族のあり方を考えていくうえでも、色々な立場から少しずつでも言語化されていくといいと思います。

家族が日常的なケア役割を担わなければならない状況下では、障がいのある子は小さい頃だけでなく、長期的に親によるケアが必要となっています。同様に、親に障がいがある家族では、子どもが小さいうちからケア役割を担うことを期待されるという状況も生まれます。親が働き続けながら長期的に障がいのある子どものケアを続けること、親の高齢化に伴い、いずれはケアができなくなること、また、子どもが障がいのある親の介護を、子どもであることで担い続けなければならないことは、いずれも大きな負担になり得ます。早い段階で、介助者が関わっていくことが広がれば、家族の役割としてケアを負う『負担』も軽減される。今の家族ベースのやり方では、身体的にも精神的にも家族の負担が大きすぎます」(瀬山さん)

障がいのある女性は子育て以前に、親元を離れることに関して、親が大きな不安を抱えていることも珍しくないそうです。瀬山さんが出会った方の中には、親元にいたら、心配のあまり自由にさせてくれないため、親を捨てる覚悟で内緒で実家を出て、「実際に生活をしてみて、実家を離れても生活できることを見せることによって、いつか和解できれば」とお話ししていた方もいらしたとのこと。

「実家を出て暮らそうとすると、『こんなに親がかりで生活をしてきたあなたが、自立なんてできるわけがない』という決めつけを親が持ってしまう場合も少なくないと思います。その思いのなかには、本人を思っての『心配』があるわけですが。そして、『子育てなんか無理だからやめておきなさい』『あなたのためを思って言っている』と言われることも珍しくないと聞きます。親は“世間の視線”も含めて、障がいがあって子育てをしていくことへの理解を得られないことへの不安感が大きいのだと思います」(瀬山さん)

優生保護法がなくなっても、“優生思想”は残っている

かつて「優生保護法」という法律があったのを知っていますか。「優生上の見地から、不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした法律で、障がいを理由として不妊手術を受けさせられた人は、約2万5000人もいたとのこと。

優生保護法は1996年に廃止になったものの、「障がいのある人は生まれない方が良い」という価値観は今も根深く続いている、と瀬山さんは指摘します。

「優生保護法は人の命に優劣をつけることをわかりやすく法制化したものでした。法律がなくなった現在でも、出生前診断や新しい技術の中で新しい優生思想と言えるものが存在している。たとえば、確定診断が出る形で出生前診断を受けた人の9割近くが産まない選択をしています。昔ほどあからさまではないものの、少子化の中で生まれる子どもが『パーフェクトベイビー』であることへのプレッシャーは強く、依然として『育児は母親の責任』という考えが残っていることから、産む選択をしても、産まない選択をしても、特に女性に多くの心理的な面も含めた負担がかかっていると感じます。

残念ながら、今の社会は障がいがあっても、必要なサポートを得ながら楽しく生きていくことが当たり前になってはいません。障がいのある人にとって子どもを産み育てることのハードルが高いことは、障がいのある人が1人の人として社会で歓迎されないことと結びついています。障がいのある人が生きにくい社会の延長に、障がいのある人が子育てをすることや、障がい児を育てにくい問題、さらには障がいのある子も含めた、子どもを安心して産みにくい社会を私たち自身が“支えてしまっている”という現状があります」(瀬山さん)

2018年頃から、優生保護法による強制不妊手術の実態が表面化し、報道で取り上げられることも増えました。その際、「子どもを産み育てる権利の侵害」という表現が用いられましたが、「この言葉の作用をよく考える必要があります」と瀬山さんは言及します。

「『子どもを産む・産まないを含めた、個々人が自分の人生を自分で生きていく権利』を侵害された、と捉えることが重要です。『子どもを産み育てる権利』という言葉は、『子どもを産み育てて一人前』とみなす社会の価値観と重なります。強制的に不妊手術を受けさせられることは、絶対に許してはならないことです。一方で子どもを持たない人生が軽んじられないことが大切だと思います。

『子どもを産み育てられなかったことが不幸である』という言説は、子どもを産めないことを恥として背負わせる社会の価値観を踏襲したものでもあります。こうした価値観が優生保護法の被害者を苦しめたという側面がありますし、障がい関係なく、子どもを産まない選択をした多くの人たちにも否定的な烙印を押すものです。強制不妊手術の被害者に対して、『家族形成ができなかった自分は、社会の中で一人前になれなかった』という語らせ方を社会がさせている部分もあると思います。『子どもを産み育てる権利の侵害』という言葉は、実際に強制不妊手術を受けさせられた人たちが使うのと、社会が使うのとでは意味が異なってくる、という認識が必要です。」(瀬山さん)

※後編に続きます

【プロフィール】
瀬山紀子(せやま・のりこ)

埼玉大学ダイバーシティ推進センター教員。大学院で社会学を学んだ後、公立女性関連施設で事業コーディネーターとして勤務。また、東京都内の障害者自立生活センターで介助者をしている。専門は社会学・ジェンダー論。

共編著に『障害者介助の現場から考える生活と労働——ささやかな「介助者学」のこころみ』(明石書店)、『官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人たちのリアル』(岩波書店)。共著に『往き還り繋ぐ——障害者運動 於&発 福島の50年』(生活書院)、『障害があり、女性であること 生活史からみる生きづらさ』(現代書館)。
 

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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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