歩くと足が痛くなるのは歳のせいとは限らない!閉塞性動脈硬化症の症状と危険な合併症|薬剤師が解説

 歩くと足が痛くなるのは歳のせいとは限らない!閉塞性動脈硬化症の症状と危険な合併症|薬剤師が解説
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「歩くと足が痛い」という症状が現れる病気の一つに、足の動脈が詰まることによって起こる閉塞性動脈硬化症という病気があります。これは足だけの病気と思われがちですが、全身の動脈硬化が進んでいる状態。心臓や脳などの重い合併症につながる恐れもあり、早急な治療に加え、生活上での取り組みも必要です。この記事では、閉塞性動脈硬化症について解説します。

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閉塞性動脈硬化症とは?

血管には、心臓から送り出された血液が通る「動脈」と、心臓へ向かう血液が流れる「静脈」があります。糖尿病や脂質異常症、老化などにより、動脈の血管壁にコレステロールなどが入り込むと、血管壁が膨らんで血管の内腔が狭くなったり、動脈が硬くもろくなったりします(動脈硬化)。

進行すると血管壁の膨らんだ部分が破れ、そこに血小板などが集まって血栓(血液の塊)ができ、さらに血管の内腔が狭められたり、詰まったりしてしまうことも。この状態が手足、おもに足の動脈に起こるのが「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」です。

ASOはほとんどが足の動脈(腹部大動脈から足先の動脈)で生じます。1カ所だけでなく複数箇所に起こることも。ASOが起こっている場合は全身の動脈硬化も進んでいると考え、心筋梗塞や脳梗塞など、ほかの臓器障害の可能性も視野に入れて取り組むことが必要です。

どのような症状が現れるのか?

ASOの症状はフォンテイン分類という方法を用いて、I度からⅣ度までに分類されます。

Ⅰ度……ほどんど無症状。動脈が詰まってもそれを補うためにできる脇道の血管(側副血行路)が十分に発達すれば、症状が出ないこともあります。また、ひざから下の動脈は3本に分かれているため、1本が詰まっても症状が現れにくいことも。

Ⅱ度……歩くと足の筋肉が重く痛くなって歩くことが困難となり、しばらく休むとまた歩けるようになるということを繰り返す「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という症状が現れます。これは血液が流れにくくなることで、足の筋肉などに酸素や栄養を供給できなくなってしまうからです。

Ⅲ度……安静にしていても足に痛みが生じます。

Ⅳ度……足の組織や細胞が壊死する状態です。

Ⅰ度が無症状といっても、冷感やしびれが現れることもあります。しかし、受診に至るケースがほとんどないため、実際にはⅡ度の症状が現れる跛行の状態(跛行肢)か、Ⅲ度とⅣ度の足の切断に至るかもしれない重症虚血肢かの2つに分類し診断や治療を行います。

生活習慣病との関係

ASOは全身の動脈硬化が非常に進行した状態ですから、動脈硬化を進める原因となるものと密接な関わりがあります。糖尿病や脂質異常症、高血圧といった生活習慣病のほか、加齢や喫煙も危険因子。実際、ASOと診断された人は生活習慣病を持っているケースが多く、患者の多くは高齢の男性で喫煙の習慣があります。

また、ASOの患者のうち、男性の割合は8~9割、女性は1~2割です。女性に少ない理由は、女性ホルモンが動脈硬化の進行を抑えているためといわれています。しかし、女性も閉経以降、高齢になるほど症状が現れやすくなります。

ASOは狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳梗塞などの脳血管疾患などといった合併症を生じることが少なくありません。ASOの症状、間欠性跛行や壊疽などはそれ自体で命に関わることはないのですが、QOL(Quality of Life=生活の質)の低下や合併症を発症しやすいことが問題といえます。

ASO
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跛行肢の人の生存率は5年後で70%、10年後には50%まで低くなります。重症虚血肢の人では1年後の生存率が80%、5年後で50%以下となります。

なお、ASOの患者数は全国に50万人いるといわれています。症状が現れてから受診する人が多いため、ASOでも無症状で受診に至っていない潜在患者は200万人いるともいわれます。このように症状がないために放置されていたり、生命に危険を及ぼす重大な病気であるということが知られていないことが問題といえるでしょう。

足をよい状態に保つには

ASOになると、足の血流が悪くなり、皮膚が弱くなるため、足に傷がつきやすくなり、傷も治りにくくなります。毎日、足の状態をよく観察し、傷や変色、たこ、うおのめ、ひび割れなどがないかをチェックしましょう。

また、毎日足を洗い、足を傷つけたり、つまずかないようにする、室内でも靴下で足をカバーする、靴は足に合ったものを選ぶ、などを心がけます。ホットカーペットや床暖房、電気毛布などでの低温やけどにも注意を。たこやうおのめなども自己処置せず、外科を受診して適切な処置をしてもらってください。

生活上で気をつけること

大事なことは、ASOの人の多くが持っている糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病を管理すること。禁煙も必要です。食事では摂取エネルギーを抑える、コレステロールや塩分を控えるなどが必要となります。

・摂取エネルギーを抑える……栄養バランスよく食べる。ゆっくりよくかみ、腹八分目。まとめ食いや夜食は避ける。

・コレステロールを控える……魚卵や肉の脂身、内臓などを食べるのを控える。また、コレステロールの吸収を抑える働きのある食物繊維を積極的に摂る。

・塩分を控える……少ない塩分でも満足するよう、香辛料や酸味を使ったり、余分な塩分を排泄するカリウムの多い食品(大豆や根菜類など)を摂る。

・動脈硬化を抑制する……緑黄色野菜に多いβ-カロテン、ナッツに多いビタミンEなどの抗酸化食品を摂る。また、血栓をできにくくする不飽和脂肪酸(菜種油、べに花油、青魚など)を摂る。

・歩くことも大切……糖尿病で壊疽が起こっている人以外は積極的に歩くようにしましょう。きつくなるまで歩いて休むことを繰り返しながら、1日に3~4キロ、少なくとも週3日、3カ月以上続けると良いでしょう。

病院ではどんな検査や治療をする?

ASOかどうかは、見るだけでほぼ分かります。左右の手足を比べると、皮膚の色、筋肉のつき方、毛や爪の生え方などに違いが出ます。症状のあるほうが青白く筋肉が細く、毛や爪も生えにくいのが特徴。また、皮膚の温度も低くなります。そのほか、動脈の聴診、足の血圧の測定、カテーテルによる治療、バイパス手術などの検査や治療が行われます。

まとめ

閉塞性動脈硬化症(ASO)は、あまりなじみのない病気かもしれませんが、動脈硬化によって引き起こされ、自覚症状が現れたときには狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの命に関わる病気が進行していると考えることが必要です。

「歩けなくなったのは歳のせい」と短絡的に考えるのではなく、閉塞性動脈硬化症の疑いも視野に入れ、一度、医療機関を受診することをおすすめします。

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AUTHOR

小笠原まさひろ 薬剤師

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。



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