〈3分の1は死に至る病)冬に起こりやすいクモ膜下出血の警告サインとは?専門家が解説

 〈3分の1は死に至る病)冬に起こりやすいクモ膜下出血の警告サインとは?専門家が解説
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クモ膜下出血は冬場に起こりやすい脳血管疾患で、発症した人の3分の1が死に至るといわれる病気です。クモ膜下出血には前ぶれとなる警告サインがあり、これを見逃さないことが発症を防ぎます。この記事では、クモ膜下出血の前兆となるサインやクモ膜下出血を起こしやすい人の特徴などを解説します。

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クモ膜下出血とは?

脳は、「硬膜」「クモ膜」「軟膜」という3層の膜で覆われ、その外側に頭蓋骨があり、守られています。クモ膜と軟膜の間には、「クモ膜下腔」という空間があり、髄液が常に循環しています。髄液は、外側からかかる力をやわらげたり、脳の代謝産物(二酸化炭素や乳酸など)を排出したりする役割をしています。そのクモ膜下腔には、脳に酸素や栄養を与えるために「脳動脈」という太い血管が張り巡らされています。脳動脈の血管の分岐点には血圧が強くかかるため、血管壁が傷んで外側に膨れて動脈瘤(動脈にできるコブ)をつくることがあります。それが何らかの理由で破裂して起こるのが、「クモ膜下出血」です。

くも膜
クモ膜の解説図/イラストAC
脳

クモ膜下出血が起こるとどうなる?

クモ膜下出血が起こると、破れた血管から出た血液が瞬く間にクモ膜下腔内に拡がり、髄膜が刺激されたり、頭蓋内圧が急激に上昇したりして、突然の頭痛や意識障害などをきたします。場合によっては、呼吸停止や循環停止が起こり、急死につながります。初回の出血が致命的に至らない場合でも、24時間以内に再出血が多いことも、クモ膜下出血の特徴です。

クモ膜下出血の3分の1は命を落とす危険

クモ膜下出血には、「3分の1ルール」というものがあります。はじめて発作を起こした患者の3分の1が死亡し、3分の1は命をとりとめるものの重い後遺症が残り、残りの3分の1だけが回復して社会復帰ができるというものです。クモ膜下出血は、脳血管疾患の中でも、もっとも死亡率が高いだけに、その兆候を見逃さず、適切に対処することが大事なのです。

クモ膜下出血の症状

クモ膜下出血でもっとも多い症状が、突然起こる激しい頭痛です。「突然、バットで殴られたような頭痛」「頭の中で爆発が起こったような頭痛」と表現されるように、これまでに経験したことがないような頭痛に襲われます。また、「何時何分に頭痛が始まった」と分かるほど、急激に始まるのが特徴です。

<クモ膜下出血の頭痛の症状>

●突然、バットで殴られたような頭痛

●頭の中で爆発が起こったような頭痛

●今までに経験したことがないような激しい頭痛

ただし、出血が少ない場合には、「バットで殴られたような」というほどの激しい頭痛を感じないこともあります。ときには、「かぜをひいたのかもしれない」と勘違いする程度の場合もあります。激痛が起こらなくても、次の症状がある場合、クモ膜下出血を疑ったほうが良いでしょう。

●突然、起こる頭痛

●これまでに経験したことのないタイプの頭痛

●頭痛が数日にわたって持続する

●頭痛がどんどん強まっていく

●悪心、嘔吐、意識障害を伴う頭痛

●普段のんでいる頭痛薬が効かない

クモ膜下出血の警告サインとは?

クモ膜下出血の多くは、突然の激しい頭痛で始まりますが、約半分の人に前ぶれの症状となる“警告サイン”が起こっています。脳動脈瘤は破裂しない限り、ほとんど症状はありませんが、少し出血がある場合や動脈瘤が大きくなり、まわりの組織を圧迫すると前ぶれとなるサインが現れるのです。クモ膜下出血の警告サインは次の通りです。

●いつもとは違う頭痛が起こる

●物が二重に見える

●片目のまぶたが開かない

●片側の瞳孔が拡大する

●視野の一部が欠ける

●頭の中の違和感(モヤモヤしたりボーっとしたりする)

●吐き気

●めまい

●目の痛み

●手足のしびれ

●首の張りや肩こり など。

こうした症状が一時的、または継続的に現れた場合、クモ膜下出血の前兆と疑われるため、脳神経外科など専門の医療機関を受診したほうが良いでしょう。

最近では、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤をはじめ、症状を起こしていない脳梗塞(かくれ脳梗塞)や微小出血、脳腫瘍などを精密に検査する「脳ドック」を受けられる医療機関も増えています。心配であれば、一度検査を受けることをおすすめします。

クモ膜下出血になりやすい人の特徴

クモ膜下出血の発症率は、高齢者50~60歳代がもっとも多いのですが、20~30歳代の若い人にも比較的多く起こります。また、男性より女性の発症率が2倍と明らかに多く、世界の中でも日本人の発症率が突出して多いといわれています。先天的に脳動脈壁が弱いことや、閉経後、女性ホルモンのエストロゲンが減少することで血管が弾力性を失い、脳動脈瘤が破裂しやすいことなどが理由として考えられます。また、動脈硬化が原因となる脳梗塞や脳出血の危険因子には、肥満があげられますが、クモ膜下出血の場合、肥満はあまり関係がなく、統計的にはむしろ“痩せている人”に多く発症する傾向があります。

そのほかにも、高血圧、喫煙、家族歴、大量の飲酒などがクモ膜下出血を引き起こす要因となります。また、血圧が高くなりやすい冬場(とくに午前中)に発症しやすいため注意が必要です。

まとめ

クモ膜下出血は、脳動脈瘤の破裂により、今までに経験したことのない激しい頭痛が起こります。呼吸や循環という生命維持に欠かせない機能が失われ、場合によっては死に至ることもあります。そのため、クモ膜下出血の前ぶれとなる警告サインを見逃さないことが大事です。また、女性の発症率が高いこと、太っている人よりも痩せている人に起こりやすいこと、血圧が高くなる冬場に起こりやすいことなどもクモ膜下出血の特徴です。気になる人は、脳ドックなどの精密検査を受けることをおすすめします。

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AUTHOR

小笠原まさひろ 薬剤師

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。



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