動かずにはいられない、声を出さずにはいられない…トゥレット症とはどのような病気?医師が解説
「トゥレット症」について知っていますか?
トゥレット症とはどのような病気か
トゥレット症(候群)は、音声チック(鼻や舌を鳴らす、風邪でもないのにせき払いをするといった行為をわざとではないのに繰り返してしまうこと)を伴って、まばたきや舌を突き出すといった複数の運動チックが、1年以上にわたって持続する精神疾患です。
もともとは、1885年にフランスの神経科医ジル・ド・ラ・トゥレットにより報告され、その後1960年代後半にShapiroらが、出現するチックの種類や経過期間(一年以上を慢性と定義)により症状を分類しました。それによると、小児期にみられる一過性のチック症、慢性運動チック症、慢性音声チック症などに分類されていて、特に慢性運動および音声チック症をトゥレット症と定義した背景があります。
トゥレット症は、注意欠陥多動性障害、強迫神経症など発達障害、精神障害など併発症を認めることが少なくなく、その病態は大脳基底核のドパミン神経系活性低下に随伴する受容体の過活動として認識されています。合併症としては、小児期には睡眠障害、昼夜の区別に一致した生活リズムがとれない、直立二足歩行がきちんと行えないことなどがみられる場合もあります。
日本では、いまだに正確な有病率の検索は行われておらず、本症の原因は完全には解明されていませんが、家系発症で男性優位であることが多く、遺伝性素因の関連性が一部指摘されています。多くは6歳ごろの就学期前後に、繰り返す瞬きや頚振り(くびふり)などの単純な運動チックで始まり、咳払い、発声など単純音声チックが加わります。そして、ひとつのチックが消失すると、新しいチックが出現するなど、数週間から数か月の単位周期で症状の増悪や寛解を繰り返して、おおむね一年以上経過するパターンが多いです。
また、単純チックは思春期以後自然寛解する傾向がありますが、10歳頃より複雑運動チック、複雑音声チックが出現する場合には、ほかの併発症を伴って症状が難治化するといわれています。
トゥレット症の対処策は?
トゥレット症に対する治療方法は、1960年ごろに抗精神病薬であるハロペリドールの有効性が報告されましたが、未だ確立されていません。
ドパミン受容体の異常に対して、ハロペリドール以外にも種々の薬剤が試みられているが、すべての患者に有効なものは現状存在せず、小児期から日中の活動を高めて睡眠覚醒リズムを規則正しく調整し、きちんとした歩行を行わせることが重要なポイントです。
他の治療法で効果が乏しい重度のトゥレット症に対しては、脳に電極を埋め込んで刺激を与え続ける脳深部刺激療法と呼ばれる外科治療が行われるケースもあります。
基本的に、トゥレット症の治療では、チックの症状と併存症の両方の治療を並行して実施する必要があります。チックの症状が軽い場合、特に治療をせずに経過を見ることが多いですが、症状が強い場合には薬物療法が行われることがありますし、合併症に伴って生活を送るうえで支障になることもあり、それらに対して心理教育や環境調整が必要となる場合もあります。
いずれにせよ、早期的に診断につなげて、年齢に応じた環境要因の調整、本人や家族の意識づけや理解推進が大切な要素となります。
ストレスや疲労などが積み重なることによって、チックの症状がさまざま出やすくなるため、本人や家族など近しい周囲の方々がチックについて深く知識を得て、社会生活にうまく適応できるように支援することが重要です。
まとめ
トゥレット症候群とは、「チック」と呼ばれる特徴的な運動や音声が自分の意志とは関係なく突然現れ、繰り返す症状が1年以上みられる病気であり、家族に同じ病気を持つ人が多く、男性に発病率が高いことも特徴のひとつです。
トゥレット症候群の代表的な症状には、運動チックと音声チックがあり、例えば、まばたきをする、肩をすくめる、飛び跳ねる、意味のない「ん」などの音声を発する、鼻を鳴らす、咳払いをする場にふさわしくない汚い言葉を発するなどの言動が認められます。チック症状は、主に6歳頃からみられることが多く、複数の種類のチックが消失したり新しく現れたりすることを繰り返すことが特徴的です。
いまだに確固たる有効的な治療法が確立されておらず、難治性疾患のひとつとして認識されています。本人、あるいは家族や教師など近しい存在の人々が、この障害の特徴を正しく理解し、社会適応に必要な支援を受けられるように広く配慮することが重要な要素です。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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