【障がいのある人の「きょうだい」が抱える孤独】きょうだい会の活動内容と繋がりで得られる変化とは

 【障がいのある人の「きょうだい」が抱える孤独】きょうだい会の活動内容と繋がりで得られる変化とは
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「きょうだい児」とは障がいのある兄弟姉妹がいる人のことです。きょうだい児には、親に甘えられなかった・障がいのあるきょうだいの分も頑張らなければというプレッシャーがあった・嫌なことをされても一方的に我慢した・周囲の目線が気になる・親なき後が不安など、様々な悩みがあります。きょうだい児の悩みを共有し、きょうだい児同士の繋がりを築いている団体「きょうだい会」が各地にあります。きょうだい会での活動内容や、参加者の心境の変化について取材しました。

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6割以上が他の家族との違いを感じている

※障がいのある子のきょうだいのことは「きょうだい」「きょうだい児」「きょうだい者(成人済みの場合)」などの呼び方がありますが、本記事では年齢問わず「きょうだい児」と記します。

2007~2008年にかけて行われた『障害のある人のきょうだいへの調査』(ナイスハート基金)では、小学生の頃に「他の家族とうちは違う」と感じた点を尋ねたところ、64.6%が何かしらの違いを感じていました。

その内容は「家族がまとまっていた」などの肯定的な意見はあったものの、否定的な意見の方が多く「親の仲が悪かった」「外出しても楽しめない」「白い目で見られる」「障がい児中心に生活が回っていた」「家は落ち着ける場所ではなかった」などがありました。

ほか、同調査で印象的なのは「小学生の頃、将来(障がいのあるきょうだいの)面倒を見なければいけないと感じていたか」という問いに対して、「すごく感じていた」「少し感じていた」の合計が72.2%であったこと。

筆者も重度知的+発達障がいのある弟がいるきょうだい児ですが、小学生の頃には「将来、弟の面倒を見なければいけないのでは」と漠然とした不安を抱えていました。

この調査に回答された方々が「面倒を見なければならない」と感じていたうえで、そのことをどう思っていたかまではわかりません。ただ、障がいのないきょうだいでしたら「将来、きょうだいの面倒を見なければならない」と思うことはほとんどないでしょう。ゆえにきょうだい児特有のことだと感じます。

筆者が「障がいのある人のきょうだいが自分と同じような悩みを抱えている」と知ったのは高校生から大学生の頃の記憶です。それまで弟の行為を一方的に我慢することを強いられても「気にする自分が悪い」「我慢するしかない」と諦めに近い感情と共に生きてきました。親からも「弟は障がいがあるから仕方ないでしょ」と言われてきました。でも同じように思っているのが自分だけではないと知り、「本当に自分のせいなの?本当に一方的に我慢しなきゃいけないことなの?」という感情が湧いてきたのを覚えています。

ネットで見た他のきょうだい児の声は、自分の状況を整理するにあたってとても力になってくれました。似たような経験をした人の声を聞くことで、自分の置かれた状況や感情に気づくことがありますよね。

特有の悩みがあるきょうだい児ですが、全国各地にきょうだい児の集まりである「きょうだい会」があります。北陸三県(石川・富山・福井)を拠点とした「北陸きょうだい会」共同代表の松本理沙さんに、きょうだい会の活動内容や、参加者の心境の変化について話を伺いました。

家族や友人との関係、カミングアウト、進路、結婚など悩みは多種多様

——北陸きょうだい会ではどのような活動をされているのでしょうか。

1か月に1回程度のペースで何かしらイベントを開催していて、メインはきょうだい児同士の対話の場づくりです。フリートークを行うこともあれば、仕事・親との関係・実家で暮らすこと・結婚・子育てなど何かしらテーマを設けることもあります。10月に実施した人間関係の悩みをテーマにした回は、今年(2023年)一番の参加者数でした。

きょうだい児の婚約者の方から参加希望をいただいたことがあり、きょうだい児のパートナーの方も参加できる集まりを実施し、その際にはきょうだい児の方とお二人でご参加いただいたこともあります。

今年7月にはNPO法人しぶたねさんをお招きし、シブリングサポーター(きょうだい児の支援者)の研修を実施しました。参加者の方から子どものきょうだい児に対する熱い思いを聞かせていただき、北陸エリアでもきょうだい支援が広がる可能性を感じました。ほか、2019年と2022年には親なき後セミナーを開催しましたし、会にご参加いただいている方からのお誘いで、北陸きょうだい会の名前で地域のマラソン大会に出たこともあります。

今年度は北陸学院中学校弁論部が石川県の「子どもの夢実現サポート事業」に採択され、事業の中できょうだい児への理解を深める取り組みが行われています。12月には全校生徒が参加するパネルディスカッションが開催されており、北陸きょうだい会の運営サポーターと参加者の方2名が登壇しました。

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——どのような悩みを抱えた方が参加されていますか。

家族との関係、友人関係、誰にどこまでカミングアウトをするか、若い方だと進学や就職の悩み、結婚・恋愛・出産に関すること、親なき後……など悩みは多種多様で、参加者によってそれぞれ悩んでいることがあります。

悩みはないけれども、きょうだい会に興味を持って参加された方も少なくないです。他の参加者の話を聞いてみて、自分も悩んでいたことに気づく方もいらっしゃいます。

きょうだい会というと「家族との関係が良好な人ばかりが参加している」というイメージを持っている人がいる一方で、「家族の愚痴ばかり言っている」というイメージを持っている方もいらっしゃるとお伺いします。

実際は家族との関係性は様々ですし、今悩みはないけれどもきょうだい児同士の繋がりは持っておきたいという人もいますね。色々な生活状況の方がいらっしゃるので、「批判や説教をしない」「他の参加者の話に対して良し悪しの判断をしたり、決めつけたりしない」など、お互いの生活や気持ちを尊重して交流ができるよう事前にルールを共有しています。

北陸きょうだい会の場合は、現状、基本的には18歳以上のきょうだいを対象としていて、幅広い世代の参加者がいます。高校生のきょうだいの方が参加されたこともあります。子どものきょうだい支援を広げるための活動も実施しています。

きょうだい会に参加して初めて自分の本音を理解できた

——参加した方にはどのような心境の変化がありましたか。

2022年2月に福祉関係の方をお招きして、きょうだい児限定で、「障害者福祉サービスを上手に利用するために」というテーマで講座をオンライン開催しました。その際、初めて参加された方から、「今まで、自分の思いを言語化できないと感じていましたが、自分と同じ考えを持っている方がいることを実感し、長年抱えていたきょうだいであることへの孤独感が少し和らぎました」と感想をいただいたことがあります。

その方は家族に向き合えないことの罪悪感があって、不安を抱えながら講座に参加されたのですが、講師の先生が「無理に関わらなくてもいい」と何度も伝えてくださったことや、きょうだい児が関与しないことを前提とした他の方の質疑応答によって、不安が和らいだようです。

この方に限らず、親なき後関連で悩んでいる方は「どこまで関わらなくてはいけないのか」というスタンスで話を聞きに来られるのですが、運営スタッフや既に親なき後を経験しているきょうだい児から「無理に関わる必要はない」と聞いて、スタンスの違いに驚かれています。もちろん、関わらざるを得ない状況にあるきょうだいの方もいらっしゃいますが。

他にも「自分の気持ちを抑え込んだり我慢したりすることに慣れ過ぎていて、社会に出てからもその癖が抜けず、仕事で上手くいかなくて悩んでいました」と話していた40代の女性は、初めてきょうだい会に参加し、「悲しいのに涙が出なかったり、無感情を装っていた自分を取り戻すかのように思いを吐きだし、ただはしゃいでいたように思います。多くを語らずとも共感し合えたことが嬉しかったです。まさに40代の思春期でした」とおっしゃっていました。きょうだい会に参加して初めて本当の思いを話せた・自分の本音が理解できたという方も珍しくないですね。

※参加者の感想は掲載許可をいただいています。

※後編に続きます。


【プロフィール】
松本理沙(まつもと・りさ)

北陸学院大学教育学部幼児教育学科講師。金沢市ヤングケアラー支援に関する検討会副会長。富山県ヤングケアラー支援ネットワーク会議特別委員。
障害児者のきょうだい支援、ヤングケアラー・ケアラー支援の実践・研究等に携わる。
これまで、主に京都府と北陸3県(福井・石川・富山)を拠点とするきょうだい支援に関わり、「北陸きょうだい会」「Sibkoto シブコト|障害者のきょうだい(兄弟姉妹)のためのサイト」等の運営を行ってきた。

■北陸きょうだい会HP
https://hokuriku-kyodai.org/

■X(旧Twitter):@hokuriku_kyodai

■Facebook
https://www.facebook.com/hokuriku.kyodai/

■Instagram:@hokuriku.kyodai

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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