【望まない妊娠】令和3年の中絶件数は12万件という事実に、あなたは何を思うか
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
ガブリエル・ブレア著『射精責任』(太田出版・村井理子訳)は、2022年にアメリカでベストセラーになり、その後、世界10カ国以上で翻訳出版されている話題の一冊だ。
本書が画期的だった点は、望まない妊娠による中絶の責任のすべてが男性にある、と言い切った点だ。いやいや、妊娠したのはふたりがセックスしたからであって、男女で責任は半々なのでは? という反論に対して、ガブリエル・ブレアはこう答えている。
“セックスするから望まない妊娠をするのではありません。望まない妊娠は、男性が無責任に射精をした場合にのみ起きるのです“
なぜ本書のメッセージが画期的だったかというと、これまで、望まない妊娠は、女性側に責任があるとみなされることが多かったからだ。
望まない妊娠の責任の所在とは?
望まない妊娠を避けるために、女性は自衛するように求められている。たとえば、コンドームをつけようとしない彼氏には、つけるように言ってみようとか、低用量ピルを飲んで避妊しよう……等。それ自体は間違ったアドバイスとは言えないだろう。
結局、望まない妊娠による責任をとることになるのは女性なのだ。望まぬ妊娠をした女性は、「自分がしっかり避妊しなかったからだ」「コンドームなしのセックスを許可してしまったからだ」と自責の念にかられるかもしれない。
しかし、著者は、男性が女性から許可されたからといってワッフルメーカーに自らのペニスを入れることはしないのと同様に、女性の同意のもとだとしても、無責任な射精をすると決めたのは男性の意思であり、ひいては「望まない妊娠のすべての責任は、無責任な射精にあるのだ」と述べている。
1年間で12万人以上が無責任な射精をしているが、多くの場合責任は問われない
厚生労働省の調査によると、令和3年の中絶件数は12万件だ(※1)。平均すると一日に300人以上が無責任な射精を行っているということになる。
望まない妊娠は、女性が教育を受ける機会や仕事や社会的地位を失ったり、不妊につながったり、最悪の場合は命を落とす結果にもつながる。本書によると、妊娠した女性の死亡率は、勤務中の警官よりも高いという。女性は望まない妊娠により多大なデメリットやリスクを引き受けるが、無責任な射精をした男性は、そういったリスクと直面する必要がない。女性が妊娠したことさえ知らずに済むケースもある。不平等だが、それが現実なのだ。
とまらない少子化。結局女だけが責任をとることを、女は気づいている
日本ではここ数年、少子化が問題だと騒がれており、政府は様々な方法で、産み、育てるモチベーションを高めようとしている。しかし、令和4年の合計特殊出生率は1.26で、7年連続右肩下がりだ。
女性は子どもを産むことに積極的ではなくなっている。産みたいけど様々な理由で産めないという人もいるだろう。しかし、多くの女性は知っているのだ。どれだけ産むことを政府が推奨しても、産んだ後は自分以外誰も責任をとってくれないということを。産んだあとの責任は「父親」ではなく「母親」がとるべきなのだというメッセージは空気のよう溢れている。
平成18年時点で、養育費の取り決めをした母子世帯は4割程度で、養育費を過去に一度でも受けたことがある割合は16%、現在も受けている割合は19%だ。また、実に半数程度のシングルマザーは貧困ライン以下の収入での生活を余儀なくされている(※2)。先進国でこれほどまでにシングルマザーの貧困率が高く、養育費の受け取り割合が低い国は日本しかない。
なぜ、養育費を自動的に徴収する法律ができないのか。なぜ、男性に子育ての責任を負わせようとしないのだろうか? 離婚が珍しくない昨今、離婚後に50%の割合で貧困化するとわかっていたら、子どもを産むことは、経済的観点だけから見ると、割に合わないギャンブルのようなものだ。
結局のところ、妊娠、出産、子育てにおいて、重すぎる責任が女性にはあり、男性の責任はあまりにも軽すぎるのだ。
このような状況では、欲しいというだけで子どもを産むことは、「無責任」と責められることになる。責任感の強い女性ほど、出産に二の足を踏むのは当然のことだと言えるだろう。
少子化に歯止めをかけたいなら、そして望まぬ妊娠を減らすためには、妊娠、出産、子育てにおける男性の責任をいま一度見つめ直す必要があるのではないだろうか。少なくとも、結婚を推進するだけでは、根本的な少子化対策にならないことは明らかだ。
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