北欧の文化【ヒュッゲ】に習う、健康なメンタルを保つ秘訣は?|臨床心理士が解説
新型コロナウイルスで行動範囲を制限されたことがきっかけに広がり始めた、北欧の文化【ヒュッゲ】。ウェルビーイングな生き方をするためのヒントとして、日本だけでなく世界中で注目されています。これだけ世の中に注目されている【ヒュッゲ】とは何か、そしてヒュッゲを実践するために日々できることを心理学的な視点でお伝えします。
世界中で注目されるヒュッゲとは?
ヒュッゲとは、デンマーク語で『心地よく、満たされた瞬間を感じること』を意味します。SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が行なっている調査【世界幸福度報告書】の2023年度版(※1)によると、上位にはデンマークの他にフィンランド、アイスランド、オランダ、スェーデンなどの北欧の国が連なっています。しかし、これらの北欧の国々は、冬の厳しい寒さを乗り切らなければいけなかったり、税金が高かったりと、側から見ると幸福とは少しかけ離れた印象を受けます。しかし、それでも幸福度が高いと言われるのには、物質的なものよりも、人とのつながりや精神的なものが満たされていれば幸せという価値観が根付いているからなのだそうです。厳しい環境の中でも、家族や友人知人たちとおだやかで楽しいひと時を過ごしたり、自分のお気に入りのものに囲まれて過ごす時間が、彼らの心の健康の支えになっているのだと思います。
ヒュッゲが話題になるのはなぜ?
外国だけでなく、日本でもヒュッゲの存在が注目されるようになりました。そのきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの世界的な流行が理由のひとつであると言われています。ついこの前まで、私たちは外出を制限され、家にこもる生活を余儀なくされましたよね。それによって、だいぶストレスがかかる生活を強いられることに。筆者がカウンセリングをしている中でも、これまで外で自分の時間を楽しむことが多かった人たちが『途端に楽しみを奪われ、ストレスとの付き合い方が分からない』『ストレスが溜まってつらい』という声が少なくありませんでした。そういった状況から、家での楽しみ方を模索する方向にシフトした人も多かったように思いますし、ストレス発散との新たな向き合い方を考えざるを得なかった中で【ヒュッゲ】の存在は、私たちにとって大きなヒントになったのではないでしょうか。また、コロナによる影響だけではなく、SNSなどの発達によって他者とつながりすぎるストレスや、他者と自分との比較、情報過多によって何が自分にとって必要なのかが分からなくなるといった悩みに対しても、ヒュッゲというシンプルな概念が人々の心に刺さるのではないかと思います。
ヒュッゲに習う、心が健康でいるための要素とは?
ヒュッゲは北欧の文化なので、そのままを日本で取り入れるのは難しいこともあると思いますが、そのエッセンスを取り入れることはできるはず。そこで、ヒュッゲについて心理学的な視点から考え、日常生活の中でも取り入れられそうなことをいくつかご紹介します。
サポート資源を持つこと
世界幸福度報告書の質問項目の中には、『困ったときに頼れる存在(家族、知人など)がいるか』という項目があり、北欧の人たちはこの項目の得点が高いと言われています。こうしたサポート資源のことを心理学の中では【ソーシャルサポートネットワーク】といった呼び方をしますが、困った時に頼れる場所を単体ではなく、複数持っておくことが心理的な安心につながると言われています。例えば、『この話は家族ではなく友人に』『家族にも友人にもできない話は専門家のこの人に』といったように整理してみましょう。そして、可能であればノートに書き出す、スマホのメモに残すなど目に見える形として残しておくと、周囲とのつながりを感じられて、より安心できるかもしれませんね。
現在に意識を向けること
日常生活の中には、どんなに小さいことでも自分にとって心地よさや幸せを感じられる瞬間があると思うのですが、なかなかそこには意識が向きにくいもの。今、自分の目の前で起きていることに意識を向けて過ごすことは【マインドフルネス】と呼ばれ注目されていますが、『ヒュッゲ365日「シンプルな幸せ」の作り方』の著者であるマイク・ヴァイキング氏(※2)も、今、ここに意識を向けることの大切さを述べています。例えば、呼吸に意識を向けてみる、食事に集中してみる、ながらをやめて何かひとつに集中してみるなど、日常生活の中でできそうなことに取り組んでみましょう。
自分のケアの方法を知っていること
自分にとっての楽しみや、やすらぎを作ることもヒュッゲの中では大切なのだそうです。例えば、温かい飲み物を飲む、読書を楽しむ、家族や友人との時間を大切にする、散歩で自然を感じるなど。北欧の人たちは、自分の気持ちが軽くなるもの・ことを複数持っていると言われています。これは心理学で言うと【コーピングリスト】というセルフケアツールに近いのではないかと思います。コーピングリストとは、ストレスを感じた際にそのストレスを緩和するために役立つもの。ストレスを緩和してくれる方法がたくさんある人ほど、ストレスとの付き合い方が上手です。コーピングリスト作りでは、ストレスの発散・緩和になりそうなものを100個挙げることを推奨されていますが、100個はハードルが高いと思いますので、まずは自分の中で思いつく分だけでいいので挙げてみましょう。
あるものの中で工夫すると言う視点を持っていること
北欧の人たちが自分の気持ちを整えるためのツールとして紹介されている例を複数見ている中で印象的だったのは、『何かを新たに加えようとするのではなく、今あるものの中で使えるものを工夫する』と言う視点を大事にしていること。心理学では【リソース】とも呼ばれます。『あれもない、これもない』と足すことに意識が向きがちですが、実は目の前にあるもので実は十分だったということが様々な場面でありませんか?弱みや短所、ないものに意識を向けることよりも、強みや長所、あるものに意識を向けていくことの方が、気持ちが明るくなるような感じがしますよね。
特別なことよりも、日常を大切に
マイク氏はヒュッゲについて、『むずかしい状況の中でも、今持っているものを上手に活かすことであり、日々の生活にしっかりと根を下ろすこと』と記しています。筆者も、心の健康を保つ上で、まずは食事や睡眠、休息を取ることなど、日常生活を整えることをクライエントさんたちに勧めます。それは生きる上で大切な土台であり、その土台なくして心が健康であることは難しいからです。特別なことをすることに一生懸命になるよりも、日常生活に意識を向け、日々を大切に過ごしていこうとする姿勢が、心が健康で、そして幸せでいられる1番の近道なのかもしれませんね。
《参考・引用文献》
※1Sustainable Development Solutions Network『World Happiness Report 2023』
※2マーク・ヴァイキング(著)アーヴィン香苗(訳)『ヒュッゲ 365日「シンプルな幸せ」のつくり方』2017 三笠書房
AUTHOR
南 舞
公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師 中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。現在は学校や企業にてカウンセラーとして活動中。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じヨガの道へ。専門である臨床心理学(心理カウンセリング )・ヨガ・ウェルネスの3つの軸から、ウェルビーイング(幸福感)高めたり、もともと心の中に備わっているリソース(強み・できていること)を引き出していくお手伝いをしていきたいと日々活動中。
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