乳がんを知ること、そして知らせることはなぜ重要なのか|「ピンクリボンウオーク」イベントレポート
「乳がんを知るための一歩、知らせるための一歩、支えるためにもう一歩。」をスローガンに、乳がんについての正しい情報や健診を啓発するピンクリボン運動。その活動の一環である「ピンクリボンウオーク2023」が3年ぶりに開催され、フィナーレイベントとして、がんサバイバーや現場のドクターによるトークセミナーが開催されました。
乳房健康研究会が日本で初めて開催した、乳がん啓発のためのラン&ウオークの大会「ピンクリボンウオーク」。2002年にスタートし、今年で20年目を迎えました。乳がんは、早期に発見すれば治癒できる可能性が高いにもかかわらず、乳がんにかかる人が急増し、死亡者数減少には至っていないそうです。
より多くの人に、乳がんについての正しい情報を届けたいという思いで、ピンクリボンウオークを進化させています。「乳がんを知るための一歩、知らせるための一歩、支えるためにもう一歩」をスローガンに、検診だけでなく、治療中、そして治療後の生活まで、乳がんをとりまくさまざまな場面に寄り添うことを目指しています。トークセミナーでは、ヨガジャーナルオンラインでもおなじみの医療ジャーナリストで乳がんサバイバーでもある増田美加さんがファシリテータとして登壇しました。
「乳がんについて知ること」はなぜ大事なのか?
乳がんについては「検診が重要」ということを聞いたことはあっても、それ以上のことをどれくらいの人が知り、理解しているでしょうか。
「乳がんの告知を受けたときは、ショックと同時に仕事をどうしようという両方の気持ちが一緒にきました」と話すのは、歌手の麻倉未稀さん。麻倉さんは2017年に番組企画で受けた人間ドックでの診断結果で乳がんが発覚。告知されてからは「まるで二重人格のようだった」といいます。乳がんについて知っているのと知らないのとでは、がん告知のときの心構えが違うのだそうです。
「初めて乳がん検診に来る人は、定期的に検診している人に勧められたという人や、身近な人が乳がんに罹患したという場合が多いです」と話すのは、ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長の島田菜穂子さん。実はこの検診が、早期発見だけでなく、その後のメンタル面でも重要なのだとか。定期的に検診を受ける人の多くは乳がんについて意識を向けていますが、健康診断で精密検査を受けるようにといわれて検診にくる場合、まったく予期せぬ出来事で自分事として受け入れられない場合が多いといいます。がん研有明病院乳腺センター乳腺外科医長の片岡明美さんは「乳がんについて知っている人は、自分自身の心の受け入れがスムーズですが、がんの告知を受けたことで見えないシャッターを閉じている人もいます。乳がんについて知っていると、その後の過ごしやすさが変わります」と話します。
今後の治療方法についてなどの予備知識があることで、自分のライフスタイルと照らし合わせながら決めることができます。もちろん、そういった情報を知っていたとしても乳がんの告知にはショックを受けるだろうと容易に想像できますが、必要以上に怖がることなく、自分に合った治療法を考えていこうという気持ちにはなれるはず。もしものときは早期に発見してもらえるよう、定期的な検診は必要です。
知らせる活動の重要性
乳がんについて知ったら、周りに知らせることも大切です。
麻倉さんは告知を受け、乳がんについて検索をしたときに、正しい情報がなかなか見つけられなかったことから、講演会などのゲストとして、乳がんについて伝える活動をしています。ただ、そこには課題もあります。それは、麻倉さんの講演会では、麻倉さんと同じような人が聴講しているとのこと。つまり、乳がんについて知ろうとしている人だけが会場にくるということです。「これでは、無関心層に届けられない…」そういった考えから、麻倉さんは地元のファミリー層が集まるイベントなどにも出演し、「家族を大切にする前に自分を大切にしてね」と、乳がんについて知ることや検診の重要性を訴えかけています。「家族を大切にする前に自分を大切に…」というと、日頃から家族最優先で仕事も家事も頑張っている方は、ちょっと抵抗を感じるかもしれません。多くの女性は、自分のことは二の次という場合が多いのが現状です。会社で健診の機会がある場合を除いて、定期健診を後回しにしてしまう傾向があるからです。多くの自治体では、乳がん検診の助成制度があります。こういった機会を活用してもらうためにも、地元や地域での知らせる活動は大切です。
さらに、島田先生は「乳腺の専門外来には、がんが進行してからくる患者さんが少なくない。乳がんだと、乳房がなくなるのではないかと病院へ来ない人もいます」と教えてくれました。放置するほうが怖いようにも思えますが、乳がんについて正しい情報を得る機会がなければ、このように「乳房がなくなるかもしれない」と考え、間違った判断をするかもしれません。「正しい情報を知らせる活動」は、こういった間違った判断を回避させることができます。
変わってきた医師や治療と関わり方
病院に行きたくないという人の中には、これまでと全く違った生活を送ることを余儀なくされるという不安や恐怖から目を背けたくて、病院に行かないという人もいるかもしれません。また、病院における医師と患者の関係というと「患者は、医師から一方的に治療方針について聞かされる」「聞きたいことがあっても聞けない」というようなことを想像される人も多いはずです。実際、「50%の患者さんが遠慮して、なんでも話せていないことがわかっています」とファシリテーターの増田さんは語ります。ですが今は、患者と医療者が情報を共有し、治療方針などを決定していく「SDM(Shared decision making)」という考え方が一般的になってきました。「患者さん自身が何を重視しているのか、ライフスタイルも共有し治療方針を決めていきます。医療についてたくさん学ぶだけでなく、今、何を自分が一番大切にしたいかを考え、治療に向かってほしいからです」(島田さん)。「あの病院だと最先端の治療が受けられる」「こんな新たな治療法がある」など、自分が行ってもらいたい治療についてだけ目を向けるのではなく、治療しながら仕事を続けたいのか、入院してじっくり治療に向き合いたいのか、自分のライフスタイルすべてを含めて治療方針を決定していきます。
治療方針は、医師が決定するものと思い込んでしまいがちですが、医師と情報を共有することで、自分自身が望むライフスタイルで治療を進められる可能性もあるのです。もちろん治療法に悩んだら、セカンドオピニオンという選択肢もあります。主治医に失礼かなと感じる人が多いようですが、医師としては、セカンドオピニオンは積極的に受けてもらいたいといいます。それは「より患者さん自身が納得して病に向き合えるから」(島田さん)。
「セカンドオピニオンを勧めたら医療ポイントが上がるようなお互いに支え合える仕組みがあってもいいと考えています」と話すのは、衆議院議員の野田聖子さん。女性のウェルビーイングに向けた法整備が進むことを期待します。もちろん、セカンドオピニオンは義務ではありません。私たち患者側が医師の話に納得できればそれでOK。治療がうまくいかなかったときに「セカンドオピニオンを受けなかったあなたの自己責任」と言われるのも困ります。セカンドオピニオンは、あくまで患者のため、患者がよりよい治療を選択するため、にあるのです。
自分の乳房、そして自分の体に関心を持とう
治療中、歌手である麻倉さんは、歌えるかどうかを心配していたとき、主治医からの「3日したら歌えるわよ」と言われたこと、そして「まず自分を大切にしなさい」という言葉が大きな支えになったそうです。
「まずは、自分」という言葉を何度も口にした片岡さん。「大事にしてきたものは何か、先生にきちんと伝えましょう。そのあと、周りの人にも広げていってほしい」と、治療の現場にいるからこそ、乳がんですべてが終わったと感じず、どう過ごしていきたいのかを考えるべきだという思いが伝わってきました。
また、定期的な乳がん検診も大切ですが、まずは、自分自身で普段の状態を知っておくことが大切です。そういったことから「ブレスト・アウェアネス」という乳房を意識する生活習慣が推奨されています。「自己触診で見つけなさいということではなく、みんなのカラダを大事にしようよという意味だと私はとらえています」と増田さん。そして「今年7月で、17年です。乳がんは治る病気です」乳がんサバイバーでもある増田さんの最後の言葉がとても印象的でした。
ピンクリボンは、まず乳がん検診に行くことを広めていますが、自分を見直すための運動でもあります。自分の乳房に関心を持つこと、自分なりの正しい知識を蓄積していくこと。そして、次に周囲を大切に。まずは、自分自身にもっと関心を持つことから始めてみませんか。
AUTHOR
林ゆり
ロハスジャーナリスト。フリーアナウンサー。 関西を中心にテレビ、ラジオ、舞台などで活動後、東京に拠点を移し、執筆も始める。幼いころからオーガニックに囲まれて育つ。LOHASを実践しながら、ファッション、コスメ、食べ物など、地球にやさしく、私たちにもやさしいものについてライフスタイルマガジンやブログで発信中。
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