「サプリメントを摂っていれば食事は必要ない」本当?それとも嘘?管理栄養士が解説
「栄養バランスのよい食事を摂りたいけど、難しい…」そのような人の味方になるのが、サプリメントです。さまざまな栄養成分を含むサプリメントがあれば、食事を摂る必要はないのでは?と思ったことがある人もいるでしょう。しかし実際には、サプリメントだけで健康を維持することはできません。その理由を、管理栄養士がこの記事で解説します。サプリメントに頼っている人は、食生活を見直すきっかけにしてくださいね。
サプリメントは食事代わりになる?
ビタミンやミネラルといった不足しがちな栄養素を補える、サプリメント。栄養バランスを調えるために、生活に取り入れている人も少なくないでしょう。あまりにも手軽に栄養素を摂取できるため「準備や片付けに手間がかかる食事を摂らなくても、サプリメントを飲めば十分なのでは?」と思ったことはありませんか。
結論をいうと、サプリメントは食事の代わりにはなりません。
主な理由のひとつは、栄養素を過剰摂取する危険性があるためです。バランスよく栄養を摂るつもりで複数のサプリメントを利用していると、サプリメントに含まれる栄養素が重複して、栄養素を摂りすぎるおそれがあります。食事で十分に栄養素を摂れているのに、自己判断でサプリメントを使用して、過剰症を引き起こしてしまうケースも見られます。
サプリメントが原因でよく起こるのが、ビタミンAとビタミンDの過剰摂取です。これらのビタミンは体に蓄積されるため、過剰症になりやすいとされています。
ビタミンAを摂りすぎると関節や骨の痛み、脱毛、頭痛、骨密度の減少などの症状が現れるおそれがあります。ビタミンDは、カルシウムと深く関係する栄養素です。そのためビタミンDを過剰に摂取すると血液中のカルシウム濃度が上昇し、食欲不振や嘔吐、倦怠感といった症状が現れます。また、組織や内臓にカルシウムが沈着して、健康に悪影響を及ぼす可能性もあるのです。
日常の食事だけを摂っていれば、過剰症になる心配はまずありません。健康に異常をきたすのは、サプリメントで必要以上に栄養素を摂取していた場合がほとんどです。
食べ物を噛む効能
私たちは食事を摂ると、食べ物を歯で噛み砕く「咀嚼(そしゃく)」を行います。咀嚼は食べ物を細かくする以外にも多くの役割を担っている、大事な行為です。
食べ物を噛むと、唾液が口の中に分泌されます。唾液には消化酵素が含まれているため、消化を促進する作用があります。食べ物の成分を唾液に溶かして味を感じやすくする、食べ物を洗い流して口の中を清潔に保つといったことも唾液の役割です。
咀嚼には脳の満腹中枢を刺激して、食べすぎを防ぐ効果も期待できます。咀嚼をすると顔にあるたくさんの筋肉が鍛えられて、表情が豊かになり、話す機能も向上するでしょう。
サプリメントを食事代わりにしていると、咀嚼をする必要がなくなります。すると唾液の分泌量が低下し、味覚障害や虫歯、歯周病などのリスクが高まります。顔の筋肉が衰えて表情を作りにくくなったり、発音が難しくなる可能性もあるでしょう。健康を維持し、生活の質を保つためには、よく噛むことが大切なのです。
サプリメントの前に食事の見直しを
サプリメントは、特定の栄養素の不足を補うために使用されるものです。しかし食事代わりにするほど偏ったサプリメントの摂り方をしていると、健康を害するおそれがあります。
本来、私たちは1日3食きちんと摂っていれば、サプリメントを飲まなくても健康を維持できます。栄養素の不足を感じて「サプリメントが必要かも?」と思ったときは、食生活を見直すタイミングです。まずは、食生活の改善から取り組んでください。
サプリメントを使用する場合は、どうしても不足してしまう栄養素のみを補う程度にして、栄養バランスのよい食事を摂ることを大切にしてくださいね。
【参考文献】
東京都福祉保健局 食品安全Q&A「健康食品といわれるサプリメントを摂取すれば、食事の代わりとなりますか?」
食品安全委員会「ビタミンAの過剰摂取による影響」
厚生労働省 e-ヘルスネット「唾液分泌」
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 「『健康食品』の安全性・有効性情報」
AUTHOR
いしもとめぐみ
管理栄養士。国立大学文学部を卒業後、一般企業勤務を経て栄養士専門学校に入学し、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験して2022年に独立。食が楽しくなるレシピを発信するほか、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。
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