ネガティブな人ほど現実的?ネガティブな人が能力を活かすコツ【臨床心理士が解説】
「どうして私はこんなにネガティブなんだろう」と嘆いていませんか?良くないものとして扱われがちな「ネガティブ」ですが、実はネガティブな人ほど「状況を現実的にとらえる」「危険を回避できる」など良い側面もあるのです。今回はネガティブさのメリットとデメリット、活かし方についてお話しします。
ネガティブな人ほど状況を現実的にとらえる?
「ネガティブな人ほど状況を現実的にとらえる」ことを示す実験や研究結果があります。
電球のコントロール実験
ネガティブな人とポジティブな人の状況判断力の違いを示す有名な実験をご紹介しましょう。
被験者はランダムに点灯する電球のある部屋でボタンを渡されます。ボタンは被験者が自由に押していいと言われます。実はボタンを押しても電球には何の影響もないのですが、ポジティブな人は「自分がボタンを押したことで電球の点灯をある程度コントロールできた」と考える傾向が見られました。一方、ネガティブな人はボタンと電球の点灯に関係がないことを正しく見抜いていました。
ネガティブ感情がないと危険を回避できない
恐怖や不安などのネガティブな感情を抱けないと、危険を回避できなくなります。
例えば、恐怖に反応する脳の「扁桃体」と呼ばれる部位を損傷した人は、「うなり声をあげる犬」や「熱い炭」など、明らかに危険なものにも平然と手を伸ばします。「噛みつかれるかも」「やけどをするかも」などの恐怖・不安を感じられないからです。
ネガティブさは、自分が置かれている状況のリスクを判断する大切な能力なのです。
ネガティブさのデメリット
ネガティブな人の持つ
・自分の状況を現実的に見つめる力
・リスクを認識する力
はメリットである一方で、デメリットでもあります。
幸福感を得にくい
私たちは自分がコントロールできないことでも「自分の努力や行動でコントロールできた!」と考える方が幸せになれます。
例えば、「宝くじが当たる」などのラッキーな出来事が起きたときに「日頃の行いが良かったから」と言う人は珍しくありません。実際には「宝くじの当選」と「日頃の行い」には因果関係はありませんが、「自分の日々の努力が宝くじの当選で報われた!」と思える方が幸せな気分になりますし、「これからも頑張ろう」と思えるでしょう。
しかし、ネガティブな人は「まったく因果関係がない」ことがわかっているため、ポジティブな人のような幸福感は得られません。自分の行動が幸せをもたらす実感が得づらいのです。
新しいチャレンジができない
ネガティブな人の「自分にはコントロールできない」「リスクがある」という判断は、あくまで「今」の状況に関するもの。自分が成長すればコントロールできるようになったり、対策すればリスクが減ったりと、将来の状況は変化するかもしれません。
しかし、ネガティブな人は「未来の自分もできない」「将来もリスクがある」と考えてしまいがち。その結果、現状を変えることを恐れ、新たなチャレンジができません。すると成長や対策の機会も得られず、ますます現状を変えたくないと感じてしまいます。
ネガティブな人が能力を活かすコツ
「ネガティブさ」のデメリットを補いながら、メリットを伸ばすコツは次の2つです。
自分で選ぶ・決める
普段から「自分で選ぶ・決める」を意識してみましょう。
例えば、何を着るか考えるときに周囲の目ではなく、「自分が何を身に着けたいか」を考えてみます。まずはスカーフやネックレスなどの小物だけでも構いません。
自分のコントロール範囲を少しずつ広げていけば、自分の行動が自分に良い影響をもたらす実感を得られます。
リスクの低いチャレンジを積み重ねる
まずはリスクを考えず、チャレンジしてみたいことをリストアップしましょう。その後、リスクの大きさを0〜100で数値化します。
・欲しいバッグを買う 20
・近所のインドカレー屋さんに行く 50
・フランス一人旅 100
上記のようにまとめたら、リスクの低いものからチャレンジしてみましょう。チャレンジを積み重ねることで、リスクの許容度も広がっていくはずです。
おわりに
適度なネガティブさは悪いものではありませんが、「私はすべての人から嫌われている」と考えて他者と関われなくなったり、「事故に遭ったらどうしよう」と考えて外出できなくなったりと、あまり現実的でない不安や恐怖によって日常生活に支障をきたしている場合は、病院を受診するのがおすすめ。
心身の不調が非現実的なネガティブを生み出し、非現実的なネガティブがさらに心身の調子を崩す…という負のループに入ってしまうと、自分1人ではなかなか抜け出せないからです。
病院で治療を受けて心身の健康を取り戻せば、ネガティブな気持ちが和らぐ可能性があります。
参考文献
エレーヌ・フォックス〔著〕、森内薫〔訳〕(2017)脳科学は人格を変えられるか? 文春文庫
AUTHOR
佐藤セイ
公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。
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