「ウテナ」が展開する、ゆずを通じた地域活性と地球環境保全の取り組み
美しくなることは、地球に優しいこと——これからの時代に必要なのはそんなポリシーだ。日々目まぐるしく変化する環境や世界情勢の中で、ビューティーに対するこれまでの価値観が大きく揺さぶられている現在。独自の美を創造することにいち早く乗り出した先駆者たちに聞く、ビューティービジネスと環境への取り組みとは。
消費量/生産量ともに日本が世界一を誇る「ゆず」は、その爽やかな風味と香りから様々な用途で使われている。そんなゆずが、今ヨーロッパで大人気だ。スペインの世界的名店「エルブジ」を始め、フランスのジョエル・ロブション、そして日本でもおなじみのパリ発ブレッツカフェクレープリー等でゆずを使用した料理が紹介されたのをきっかけに、ちょっとしたブームに。ゆずを、日本で初めて青果としてEUに輸出したのが、高知県の北川村だ。
一方で、そんな北川村産ゆずに以前から着目し、新たなプロジェクトで現在注目を集めているのが、長い歴史を誇る化粧品会社「ウテナ」だ。北川村とタッグを組み、品質の高いこの村のゆずを100%使用した新ヘアケアブランド「ゆず油」をローンチした同社。そこで今回は、「ウテナ」の取り組みとゆずの魅力について、広報室の則包裕美(のりかねひろみ)氏にお話を伺った。
小さな村の誇り「ゆず」のクオリティとポテンシャルに着目して
——「ゆず油」は、日本で長い歴史を誇る人気ヘアケアブランドとして、デビュー以来多くのファンを獲得しています。まずは今回「ゆず」に着目したヘアケアアイテム誕生の背景について教えてください。
株式会社ウテナでは、以前から髪にも頭皮にも使える植物原料100%のヘアオイルを作りたい、という構想がありました。熟考を重ねた末に行き着いた原料が「ゆず」でした。「ゆず」は、日本人に古くから馴染みがあり、高貴なイメージがあることや、爽やかな香りが魅力です。
そして2013年、国産のゆずを使用してヘアケアブランド「ゆず油」をスタートしました。ですが、 発売後もさらに品質を高め、より愛される商品になるにはどうすればいいのかを模索するなかで、発売から3年後にリニューアルを行うことになったのです。そこでたどり着いたのが、ゆずの産地として有名な高知県北川村でした。
北川村は、少子高齢化・過疎化が進み、人口は2023年1月時点で1210人。さらに、小学校も中学校も一つだけ、鉄道も通っていないという小さな村です。ですが、実際に村を訪ねゆずを確認したところ、その果実の品質の高さに大変驚かされました。こちらのゆずはヨーロッパに初めて青果として輸出されたというだけあって、村の方々にとって北川村産ゆずは誇りであり、宝のような存在。ですから、果汁だけでなく果皮や種子まで無駄なく活かしたい、という想いがあることを知りました。
一方で、「ゆずは捨てるところがない」とよく言われますが、北川村では種を廃棄していることも知りました。それでは勿体無い、ということで村とウテナで種から油を抽出する技術を共同開発することになったのです。
オイルの抽出には、まず種をしっかり乾燥させることが重要です。が、ただ熱をかけるだけだと、種の中の成分が壊れてしまいます。そのため、種を乾燥させる温度や、搾油方法を何度も試験することで、栄養素を壊さず丸ごと抽出する低温圧縮法を導き出すことに成功しました。
また、素材の有効活用だけでなく、パッケージを改良して紙資源を削減したり、過疎化が進む村への様々な支援も開始しました。最近では、製品のみならず、地域への貢献についても評価いただくようになり、10周年を迎えた今、このシリーズは、累計出荷500万個(2013年~2022年自社出荷)を超える人気商品へと成長しました。
この北川村とのプロジェクトを通じて、ブランドとして「使う人」だけの幸せを考えるのではなくて「作る人」や、そこに「関わる人」の幸せをどこまで考えられるかーそんな想いがより一層強くなりました。
ヘアケアブランド「ゆず油」にとって、良質なゆずの安定的な生産は必要不可欠です。そのため、北川村が品質の高いゆずを永続的に生産していけるよう、北川村のゆずの魅力と、ブランドの取り組みについて広く啓蒙していきたいと考えています。
——成分的に環境に配慮している点はどんなところでしょうか?またなぜその成分を選んだのかという理由もお聞かせください。
本来捨てられるはずだったゆずの種を、アップサイクルした“ゆず種子油”を使用しています。これまでに再利用することの出来たゆずの種は約1億個を超えました。こうしたゆずの種は原料会社を通してウテナが買い取っているのですが、結果として、北川村がこれまで負担していた種の廃棄費用の軽減にも一役買うことにもなりました。
ゆずの種は、栄養豊富で良質なオイルが取れることから原料として選びました。ゆず種子油は保湿力が高く、他の種子油と比較しても高い抗酸化力をもつと言われています(自社調べ)。髪は、紫外線、摩擦、ドライヤー・アイロンの熱、カラーなどにより日々ダメージを受けています。キューティクルが損傷するとさらに、酸化ダメージを受けやすくなってしまいます。ヘアオイルで髪表面をコーティングし、ダメージから髪をまもることで、まとまる髪へと導きます。
——化粧品を開発する上で、もしくはコンセプトを立ち上げる時点で何か困難なことはありましたか?
環境に配慮した素材や原料を突き詰めようと思えば、どこまでもこだわることはできます。ですが、使い続けていただける商品であるためには、使い続けられる価格であることも重要です。そのため、手ごろな価格を実現するためのコストの削減には苦慮しました。そして発売後も常に検討を続けています。
——化粧品のブラントとしては御社が初、ですとか他では絶対に見られないであろう環境に対するユニークな取り組みはありますか?
■社員による収穫支援
ゆず農家の高齢化で果実を収穫しきれないまま時期を終えてしまう農園もあると聞いたため、社員が収穫支援を毎年行っています。
■「村を元気にしたい!」村の中学3年生9人の想いから共同開発
また、北川村の中学生との共同開発も行っています。新型コロナ感染拡大による外食産業の落ち込みで、食用としてのゆずの需要が減少してしまった状況を受け、2021年に北川中学校の2年生(当時)達は、「自分達にできることはないか?」を話し合うようになりました。そして、たくさんのアイデアの中で決まったのが、男女問わず毎日使えて香りも楽しめる「ゆずを使った石けん」の開発でした。
そこで、北川村と包括連携協定を結んでいるパートナー企業のウテナとウエルシアが、このアイデアの実現をサポート。発売に向けて中学生にマーケティングや販促などの授業を実施し、ウテナが商品開発を、ウエルシアが販売サポートをすることで、2022年11月に「ユトワ 洗顔石けん」の発売に至りました。この製品は、現在全国のウエルシアグループのドラッグストアで販売中です。
——化粧品と環境という視点からブランド独自でどのような取り組みをしていますか?
「ゆず油/ヘアオイル」商品の容器には、再生ガラスを90%以上使用したエコロジーボトルを使用し、パッケージはFSC認証紙、緩衝材はパルプモウルドを使用しています。そして、「ゆず油/オイルミスト」は植物由来素材のバイオマスPETを、「ゆず油/オイルミストつめかえ用」はボタニカルインキ印刷を採用しています。また、これらアクションと産地を中心とした社会貢献を『YUZU-YOUキレイ・ミライプロジェクト』として実施し、広告やキャンペーンなどを通して情報を発信しています。環境に配慮された商品を使用することは、普段の生活のなかで誰もができるエシカル活動のひとつです。このように、「ウテナ」ではこれからも商品を通して、環境や社会に啓蒙したいと考えています。
ヨガするオールジェンダーにお勧めの製品
「スポーツやヨガで髪をまとめる際の必需品。髪をまとめやすくし、おくれ毛などを綺麗にをおさえて柔らかくキープします」(則包さん)。スポーツをしていてもヘアスタイルだけは崩したくないーそんな時に、活躍してくれるのが使い勝手の良いスティックタイプのワックス。併せて使いたいのが、アップヘアなどのヘアアレンジも上手にできるワックスウォーターだ。まとめる前にスプレーするだけで、細い髪やパサついた髪もしんなりまとまり、バリッと固めずスタイルをキープしてくれる。
「シュッとひと吹きスプレーするだけで、汗や皮脂でベタつく髪をさらさらにととのえる、エアゾールタイプのリフレッシュスプレー。スポーツの後や気分転換におすすめです」(則包さん)。オールシーズン対応、いつでもどこでも使えるドライシャンプーは1本持っておきたい必須アイテム。サラサラしたテクスチャーと、レモングラスとミントの2種類の香りが、気分をリフレッシュしてくれる。
AUTHOR
横山正美
ビューティエディター/ライター/翻訳。「流行通信」の美容編集を経てフリーに。外資系化粧品会社の翻訳を手がける傍ら、「VOGUE JAPAN」等でビューティー記事や海外セレブリティの社会問題への取り組みに関するインタビュー記事等を執筆中。
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