家族の「絆」や「相互理解」を手放す、というタフな生き方『タフラブ 絆を手放す生き方』【レビュー】

 家族の「絆」や「相互理解」を手放す、というタフな生き方『タフラブ 絆を手放す生き方』【レビュー】
信田さよ子著『タフラブ 絆を手放す生き方』(dZERO)
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タフラブとは? 家族の問題と自分の問題を切り分け、手放し、見守る愛

「タフラブ」とは、日本語で「手放す愛」「見守る愛」と訳され、アルコール依存症をはじめとするアディクションの世界で、家族の対応として推奨されてきたものだ。

夫がアルコール依存症になったとき、多くの妻たちは、夫の行動に一喜一憂した。しかし妻が夫のアルコール依存症の問題にコミットしすぎることは、夫が酒をやめることを促進するどころか、むしろ逆効果だと考えられたのだ。

推奨されたのは、「酒を飲むか飲まないかは本人の問題」だと認識し、周囲の家族はそこから手を離すことだ。その行為を「タフラブ」と呼んだのである。

身近な人が依存症になっているのを構わないでいることは難しい。そこを思い切って、勇気を出して見守ることに徹することで依存症はよい方向に向かう、ということを発見したのは、アルコール依存症の夫を持つ妻たち自身だった。家族のために尽くすより、家族と自分との問題を切り分け、見放すのではなく見守ることが必要なのだ、と。

尽くす愛は、共依存関係にも通じる。共依存とは「愛という名の支配」だ。尽くす愛は、相手をケアしすぎることで力を奪い、弱体化させ、自らに依存させてしまうリスクがある。著者は、「共依存」は日本の女性を解放するキーワードでもある、という。

これまで美徳とされてきた、ひたすら耐え忍ぶ愛や、尽くす愛が、共依存だとすれば、それはかえって相手を弱体化させるものであり、耐えることに何の意味もなくなるからだ。「共依存」の視点を持ち込めば、我慢しないことこそが褒められるべきであり、真の愛だ、とも捉えることができるのだ。

重要なのは、「タフラブ」は単なる気持ちや感情といった心理的レベルの問題ではないということだ。「タフラブ」は、他者への態度や行為の基準、あり方を示している。

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原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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