【インタビュー】なぜ生活保護は「恥」とされるのか。漫画を通して考える「生活保護への偏見と誤解」

 【インタビュー】なぜ生活保護は「恥」とされるのか。漫画を通して考える「生活保護への偏見と誤解」
『神様の背中』 (C)さいきまこ 秋田書店 2015

2012年、ある人気お笑い芸人の親が生活保護を受給していることが報道されたことを機に「生活保護受給者はズルや楽をしている」「生活保護=不正受給」といった誤ったイメージが世間に広がった。さいきまこさんが描く『陽のあたる家』『神様の背中』『助け合いたい』(全て秋田書店)はそれらの誤解を解いてくれる漫画だ。さいきさんに生活保護へのよくある誤解や偏見について話を聞いた。

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さいきまこさんの描く『陽のあたる家』『神様の背中』『助け合いたい』は全て福祉をテーマとした作品です。ここでは『陽のあたる家』がどのような作品かを紹介します。

『陽のあたる家』に登場するのはフルタイム労働の父親とパート勤務の母親、子どもが2人という、ごく普通の家庭。とても裕福というわけではないものの、日々のちょっとした楽しみにお金を使う程度の余裕はあり、かつ家族仲良く生活していました。

ある日、父親が病気で倒れてしまいます。母親は医療費がかかる中でも勤務時間を増やしながらなんとか支えていこうとするものの、家事が回らなくなったり、子どもの部活動にかかるお金が出せなくなったりと、生活が苦しくなっていく様子が描かれます。さらに休職から2か月経過したところで、父親は会社から退職するよう強いられます。本来違法行為であっても調べて抵抗する余力もなく……母親はパートを掛け持ちして家計を守ろうと努めるものの、それでも生活費は足りず、ついに倒れてしまいました。そこでパート先の人から生活保護を勧められることがターニングポイントとなります。

それでも生活保護への偏見から、最初は申請をためらう様子も。扶養照会(親やきょうだいに金銭的援助ができないか確認の問い合わせ)を受けた母親の親から「生活保護なんて」と言われたり、子の同級生や親から冷たい視線を受けたりと、世間の生活保護への偏見が描かれています。

『陽のあたる家』  (C)さいきまこ 秋田書店 2013
『陽のあたる家』  (C)さいきまこ 秋田書店 2013

作品で描かれる偏見は現実世界でも見聞きしたことがあるもの。とはいえ生まれたときから生活保護への偏見を抱いているわけではありません。なぜ生活保護への偏見があり、バッシングされるのか、世間にある生活保護のイメージはどう間違っているのか、さいきまこさんに伺いました。

私にもあった生活保護への偏見

——依然として世間の生活保護への風当たりが強く感じますが、生活保護バッシングはいつ頃から強まったのでしょうか。

2012年に人気お笑い芸人の親御さんが生活保護を受給していることが報道され、世間から注目を集めました。その芸人さんが売れていなかった頃に親御さんが受給を開始し、売れてからは福祉事務所と相談しながら援助もしていたそうです(その分保護費は減額される)。福祉事務所は、把握したうえで支給を停止していないので(親族であっても養わなければならない義務はないため、親族の高収入が必ずしも支給停止になる理由にはならない)不正ではありませんでした。

しかし売れている芸人であり、高収入であると見られたこと、親との関係が良好であることをテレビで話していたことから「子は親を養うのが当然だ」「収入があるのに親に生活保護を受けさせるのは不正だ」という見方がマスメディアを中心に作られていました。彼の親は不正受給ではないのにもかかわらず、生活保護バッシングは加熱し「生活保護は不正受給が多い」というイメージが作られていったんです。

でも実際には、保護費の総額に対する不正受給額を算出すると約0.36%です(※)。そして、不正受給というと「財産があるのに役所に嘘をついて受給している」というイメージですが、実際は「働いた際の収入を申告しなかった」などです。それらは税務課のデータと照合すればすぐにわかり、その分の保護費は返還させられます。むしろ捕捉率(生活保護を利用する資格がある人のうち実際に利用している割合)は厚生労働省の推計によると22.9%であって、必要な人が利用できていない問題があります。「バッシングされるのが怖い」「ママ友に知られたくない」といった理由から申請自体できない人は珍しくないです。それを乗り越えて受給に至っても、担当職員から「あなたは税金で生活しているんだから」と嫌味を言われ続けて、収入がほとんどないにもかかわらず、生活保護を抜けた人もいます。

※2020年度の不正受給額126億4669万3千円を生活保護費負担金(補正後予算)3兆5258億円を割った数値

マスメディアも、2012年以前は生活保護について、真っ当な報道もしていました。たとえば1993年、ケースワーカーが生活保護利用者を揶揄するような「福祉川柳」を募集していたことがあったのですが、メディアはそれを批判していました。

2000年代にもNHKの朝の番組で、生活保護を利用している高齢者が「保護費では生活がぎりぎりで、香典を出せず友人の葬儀に参列できなかった」「遠方での孫の結婚式に行けなかった」という実態を取り上げていたのを記憶しています。

ただ、公正に報道がされていても、受け取る側に偏見があると、きちんと伝わらないのかもしれません。

ちなみに私自身も、かつては生活保護に偏見がありました。

——どんなことでしょうか。

最初に生活保護を意識したのは、子どもを保育園に入れるための手続きで市役所に行ったときです。そこは「福祉」と表示されたフロアで、案内板には「生活保護」という文字も書かれていました。その時「そうか、保育園に入れるのは『福祉』を受けるってことなんだ」「生活保護と同じなんだ」とモヤモヤした記憶があって。モヤモヤの理由は長い間わからなかったのですが、生活保護の問題を知るようになって、ようやくそれが差別感情なのだと自覚しました。

生活保護に限らず「福祉のお世話になるのは『かわいそう』な人」という空気が、日本の社会にはあります。当時は「保育園に入れられる子どもはかわいそう」という空気もありました。福祉を受けることへの偏見は、本人に自覚がなくても、空気によって知らず知らず沁みついてしまうのかな……と、自分の経験を通して感じています。

——どのようなきっかけで偏見が変わったのですか。

2005年、当時フリーランスのユニオンに加入していて、その際にメーリングリストで生活保護の仕組みを知る機会があって誤解が解けました。それまでは「働けない人がお金を貰える」程度の解釈だったのですが、働いてても基準に満たない金額分を受給することができることを知りました。

一定の条件を満たしていれば、働きながらでも生活保護を受給できることを知って、当時は小学生の子どもを育てながら年収100万円を割ることも珍しくなく、将来が不安でたまらなかったので、いざとなれば私も生活保護を利用すればいいんだ!とわかって、すごく安心したのを覚えています。

なので、2012年のときにはバッシングが的外れなのはわかっていたのですが、まだ詳しくはなかったので、説明できるほどではなかったんですね。当時、東日本大震災後でTwitterの利用者が増えていた頃で、生活困窮支援をしている人たちのアカウントをフォローして情報を得たり、支援者が勧める本を読んだりシンポジウムに参加したりして、バッシングが間違っていることを学びました。これを、バッシングしている人たちにも知ってもらえたら……と思ったのですが、自分のフィールドから発信するなら漫画にすることだなと。そして、あの三冊を描くことになりました。

『陽のあたる家』  (C)さいきまこ 秋田書店 2013
『神様の背中』 (C)さいきまこ 秋田書店 2015

「生活保護受給者のパチンコ通い」の背景に潜む真の課題

——生活保護受給者がパチンコをしていることが取り上げられ「本当は働けるのに働かない怠けた人」というイメージが強まった印象があります。

パチンコは槍玉にあげられる筆頭ですよね。支援者は「ギャンブル依存症の問題が潜んでいる」と指摘しています。世間のイメージは「生活保護を受給→パチンコ通い」ですが、実際にはさまざまな要因からパチンコがやめられなくなり、働くこともできなくなって生活保護を利用するに至るなど、複雑な事情があるケースが少なくありません。責めるのではなく、必要なのは支援です。そして何より、保護費の使途は本人が決めること。もともと多くはない保護費をパチンコで浪費したら困るのはご本人ですし、それを他人が責めるのは筋違いの上に酷でしょう。

「働けるのに働かない人」のイメージも、たとえば家庭で適切な養育を受けられず何かしら生きづらさを抱え、生まれ育った家庭でも職場でも上手くいかず排除されてしまった。その結果、働こうという意欲を奪われるのは当然ですし、本人の意思の問題ではないですよね。「働けない」と言うのはプライドが許さないから、強がって「働きたくない」と言っている人もいると思います。一見、元気で働けそうに見える人でも、虐待の後遺症など、何かしら背景があります。

——先日「国葬反対より外国人生活保護反対」というハッシュタグがTwitterで拡散されました。外国人の生活保護受給へのバッシングも少なくないです。

まず国葬の賛否と生活保護は全く関係のないことで、酷い論点ずらしだと思いました。

「外国人の生活保護受給者は多い」というイメージが持たれていますが、それが誤解であることが『外国人の生存権保障ガイドブック』(明石書店)を読むとわかります。実際は生活保護受給者のうち外国人の割合は3.3%です(2020年度)。生活保護の利用率は外国人が2.3%で、総人口に対する割合は1.6%であるため、外国人の方がやや高いものの、これには背景があります。

国籍別に見るともっとも多いのが韓国・朝鮮の6.2%で、よく「韓国や朝鮮の人は生活保護を受けやすい」といった誤ったイメージを持たれますが、韓国・朝鮮の生活保護利用者のうち67.1%が高齢者世帯です。さらにその背景には戦前の植民地支配や戦後の就職差別などがあります。

「外国人の生活保護受給者は多い/外国人だと生活保護を受給しやすい」といった情報がデマであることは指摘されていますが、ゼノフォビア(外国人嫌悪)からどんな情報を受け取っても受容できなくなっている人も一部いるように見えます。生活保護に限らず、自分と重ならない属性の人に対して、自己責任論を振りかざすような殺伐とした雰囲気をここ数年で感じます。

——2021年の国民生活基礎調査では生活意識が「苦しい」と回答している世帯は53.1%です。自分のことだけで精一杯で他者に目を向ける余裕がない人も少なくないように感じます。

ここ数年で問題だと感じているのは、余裕がない人たちがなびくような意見を言って支持を集める人がいることです。2012年の頃はバッシングを引っ張っていたのはメディアと政治家だったので、証拠も遡りやすいですし、後から「間違っていた」という指摘もしやすいです。でも影響力の大きい個人ですと後々検証もされにくいんですよね。事実に反したことを主張していてそれを訂正しても、なかなか世の中に浸透しないことも課題に感じます。

※後編では、「家族は助け合うべき」という考え方やここ10年の社会の変化について感じていることをお伺いします。

【プロフィール】
さいきまこ

漫画家。著書に貧困問題について描いた『陽のあたる家~生活保護に支えられて』『神様の背中~貧困の中の子どもたち』『助け合いたい~老後破綻の親、過労死ラインの子』(全て秋田書店)、教師による生徒への性加害を描いた『言えないことをしたのは誰?』(講談社)がある。

さいきまこ 秋田書店
『陽のあたる家』  (C)さいきまこ 秋田書店 2013 より
さいきまこ
『神様の背中』 (C)さいきまこ 秋田書店 2015 より

 

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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