豪在住イラストレーターが語る、マイ食器を持ち歩くより大事なこと|「食べ過ぎる」行為と環境の関係
個性的な美しさと健やかな心から放たれる独特なオーラが感じられるオーストラリア在住のイラストレーター健康アスカさん。近寄り難いという言葉からは無縁の、誰もが親しみを持つアスカさんに、自然に寄り添った優しい暮らし方についてお話を伺いました。
「Zoomってしたことないんですけど、難しくなければzoomでも。なんでも大丈夫です!」
オーストラリアのサーフタウン・バイロンベイ在住のイラストレーター 健康アスカさんから受け取ったメール返信からは飾らないありのままの様子が伺えました。親しみを覚えたと同時に「きっとリラックスして話ができる」と楽しみになりました。
「初めてメールをさせていただきます」ではじまる日本語メールのやり取りは、大抵の場合、相手がどんな人なのかというのを伺うことは難しく、実際に話をするまで緊張するし、不安を覚えることも。ひどいときは取材前日から過敏性腸炎になってしまうことだってあるくらい、はじめての人と話すときは、わたしの場合は気持ちが張り詰めます。
取材当日、飾らないナチュラルなアスカさんがスマホの画面上にうつった瞬間に、わたしの予想は間違っていなかったと悟りました。
”イラストと文章を通してシンプルに生きることを伝えてる”というアスカさんは2018年28歳の時にオーストラリアに移住。
「バックパッカーだったので色々な場所を転々としていたんですが、バイロンベイに来て『もうどこにも行きたくない』って思って、今は定住しています」
アスカさんが暮らすのはオーストラリアの最東端の港町バイロンベイから車で20分の山の中。この場所に住みたいと思った彼女は、自分のイラストが描かれたポストカードに「家を探している」と添え、100枚ほど印刷し手当たり次第ポスティングしたそう。その中から、連絡をくれた山の中にあるお屋敷の離れの山小屋を借りて現在は生活しています。
環境問題が、現在の作風の出発点
今「サステナブル」という言葉は、興味の有無に関わらず日々耳にしたり目にしたりする機会が非常に多いのではないでしょうか。サステナブルとは「維持できる」「耐える」「持ちこたえられる」を意味する形容詞で、人間・社会・地球環境の持続可能な発展について語られる場合よく使われる言葉です。
世間のサステナブルへの興味が高まる中で、ベタジリアンやビーガンといった食事スタイルを選ぶ人も増えてきたことは必然的と言ってもよいかもしれません。
わたしたち人間にとって、最も身近な行為である食べるということは、地球規模のさまざまな課題につながっていると言われています。例えば、牛肉の消費が二酸化炭素排出などに大きな影響を与えているということは耳にしたことがあるという方もいるかもしれません。
そんな中、オーストラリアの自然を愛するヒッピーたちに囲まれた生活をはじめたアスカさんがベジタリアンになるまでにそう時間はかかりませんでした。日本に住んでいた時はヨガインストラクターだったという彼女の食生活はもともと野菜中心だったため、ベジタリアンにシフトするということにさほど苦労しなかったそう。
一方で、ベジタリアンやビーガンになって「やっぱり合わない」と途中で断念する人も少なくはなく、途中でやめる人の多くは健康的な理由が多いのも事実。
アスカさんがベジタリアンという食生活に心地良さを感じているのは、”自分が一番納得できる食事法”だからだそう。
サステナブルの観点からベジタリアンになる人と、健康志向からベジタリアンになる人とではセオリーが異なるとアスカさんは考えています。だから、自分が納得できる食事方法を選ぶことが大切。
肉食でない人が肉食の人よりも偉いというわけでもない。良い悪いでジャッジする必要は全くないと言います。
「インスタグラムでの発信は、はじめは動物が殺されている画像とかを載せていたんですけれど、人があんまりついてこないなと思っていて。それを見たいと言ってくれる人もいたんですけれど、これを、自分が一番パッションを持っているアートを通して伝えていけたらと思ったんです」(アスカさん)
環境問題はみんなの問題。そして、一人では絶対に解決することができない。だから一人でも多くの人がそれに気づき意識することが大切だと感じたのかもしれません。
アスカさんの作品はポップなイラストはもちろんのこと、時代に寄り添ったメッセージが多くのフォロワーに支持されています。そして、そのメッセージテーマの多くは愛について。
「自分を愛せないと、環境も愛せないと思うんですよね」(アスカさん)
欲は悩みから逃げているサイン
先述した通り、サステナブルというワードが氾濫している昨今、リユーザブルカップをはじめ、多くのサステナブルアイテムは今や環境問題を緩和する云々というよりは、ファッション(流行)の一部となっているような気さえしてきます。
また、モノを生産する過程で、環境にゼロ負荷なものは残念ながらゼロなことが多いことに気づいている人も少なくないのではないでしょうか。環境問題と向き合っている人の中では、そうした壁にぶち当たるフレーズを経験する人も珍しくありません。
「『リユーザブルカップを持ち歩いています』っていうのもなんか違うなって思うようになったんですよね。それならカフェに行かなければいい話なんで(笑)」
アスカさんが、自然環境に配慮した暮らしで大切にしているのは、”お腹が空いていないなら食べない”、つまり食”欲”に流されない、といった簡単なことだそう。
必要以上に食べすぎてしまえば、わたしたちの体や心にも負担はかかるし、お金を払えば自由に何をどれくらいでも食べて自由だということは環境問題にもつながる。なぜなら、知らず識らずの内に、大量生産・大量消費・大量廃棄のフードシステムに寄与していることになるから。そもそも、食べるということは、人以外の動植物の命をいただき、口に入れて、排泄すること。食べ物は人も含めた自然界の共有物なので、もっと意識的に必要な分だけを摂るべきなのでしょう。
「お腹が空いていないのに暇だから食べることってあると思うんですけど、暇が辛いって、なんか向き合わないといけない問題があることが多いんですよね。問題と向き合いたくないから食べてるんだと思います」(アスカさん)
この理論から学ぶと、問題と向き合うことから逃げるために、欲が生まれ、欲が環境負荷へとつながるという流れになります。つまり、多くの問題から逃げてきた結果として今わたしたちが直面している環境問題は生まれたということになるのかもしれません。
とは言っても、習慣(癖)になっていることを、そう簡単にやめることはできない。だから、まずは”気づく”ことが肝心。
「アクションはいつでも準備ができた時でいいので、まずは欲(食欲や物欲など)に気づくことが第一歩です」(アスカさん)
準備を整えるためには「メディテーション」が有効とのこと。
自分が楽になることを何よりも優先してほしい
アスカさんのもとには、お悩み相談のDM(ダイレクトメッセージ)が送られてくることも珍しくありません。
「みんな悩みをわざわざ探しているんですよね」
そして悩みや問題に向き合う時、大抵の場合は気持ちはネガティブになってしまうものだ。そうならないコツを聞いてみたことろ、
「ネガティブな感情になるのは当たり前のことで、それを否定したり押さえつけるから、もっと辛くなるんだと思います。良い悪いでジャッジせずに全部受け入れると楽になります」
自分の思った通りにいかない、なかなか解決しない悩みや問題に対して自分がどんな反応をしようとそれを許すことで、全て受け入れられるようになると、アスカさんは言います。
「自分を愛してあげないと、環境も愛せない」
許しを出すということは、自分にも他人にも厳しい多くの現代人がやるとよい愛の形なのではないでしょうか。
正誤というジャッジや背負っているものと、それから逃げるための欲の多くから解放されれば、きっと世の中はもっと平和で優しい場所になるのかもしれません。
ライター取材後記
わたしたちの心(脳)は常になにかを求めるようにプログラミングされているので、どうしてもなにかを考えずにはいられません。無になることは、ほとんど不可能かもしれませんが、それでも自分の心の癖(習慣)を知って、欲に走らないように意識つけることで、自然界全体がうまく循環するようになるのかもしれません。
取材協力: 引き寄せイラストレーター健康アスカ
2018年、28歳の時にオーストラリアに移住。マーケットでポストカードを販売、ヨガスタジオパンフレットの挿絵、家族写真などをイラストにする仕事を中心にオーストラリアで活動中。自分の絵を通して、ポジティブで健康的な生活を送ること、食に意識的になること、クリエイティブになることの楽しさを表現しています。
Instagram: @asukaarts
AUTHOR
桑子麻衣子
1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。
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