認知症リスクを抑え、肥満の抑制にもつながる!注目の短鎖脂肪酸を増やすために今日からできることとは

 認知症リスクを抑え、肥満の抑制にもつながる!注目の短鎖脂肪酸を増やすために今日からできることとは
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伊藤明子
伊藤明子
2022-10-23

30代後半から40代にかけて、体の変化を感じる方が多いと思います。一体どんな変化があるのか、それに対して何かできることは?公衆衛生の専門家で医師の伊藤明子(いとう・みつこ)さんに、連載形式で教えていただきます。

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腸内環境と腸内微生物たちがコンディションをコントロールしている

私たちの体とこころ・脳が健康であるためには、食、睡眠、運動、ストレス管理、環境管理…とトータルなマネジメントが必要ですが、その中でも最近注目されているのが、腸内環境を整えることです。私達の腸内環境と腸内微生物たちが私達の脳や神経、免疫、心臓や肝臓など諸々の臓器、そして皮膚をコントロールしている司令塔の役割を担っているという理解が進んできています。

まず腸には栄養を吸収し免疫細胞がたくさん存在している小腸と、水やミネラルを体内に吸収して腸内微生物がたくさん存在している大腸とがあります。腸に存在する微生物には細菌やウイルスなど多くの微生物がいます。腸内微生物についての研究は、以前は培養という方法で糞便検体を培養してどのような菌がいるのか、介入によりどう変化するのか、という研究方式で、とても時間と手間がかかるものでした。ところがここ近年では技術革新によってずっと短い時間でより簡便に、腸内微生物の種類や数(量)がわかるようになったことで、飛躍的に腸内の細菌叢についての情報が得られるようになりました。乳酸菌やビフィズス菌などの名前はご存じだと思います。これらの腸内細菌叢が、病気や健康とどうかかわっているのかが少しずつ明らかになってきました。

さらには、細菌たちの種類や数だけでなく、今では、細菌たちが分泌したり作ったりする物質や成分にまで研究が及んでいます。そしてどのような菌がどれくらいいるとバランスがよいのか、などの情報だけでなく、どの細菌たちがつくる分泌物がわたしたち人間にとってどのように役立つのか、健康にどうかかわっているのかが少しずつわかってきているのです。

腸に存在しながらわたしたち宿主(しゅくしゅ)の健康にとって役に立つ菌たち(いわゆる善玉菌)は、さまざまなモノを作ったり分泌したり代謝したりしていますが、菌が分泌しているものの一つである、短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)という物質がわたしたちの健康を大きく支えてくれるものなので、その短鎖脂肪酸についてご紹介します。

短鎖脂肪酸が私たちの体にもたらすもの

短鎖脂肪酸は脂肪酸のなかまです。脂肪酸とは、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)から構成されていて、炭素(C)が鎖のようにつながった構造をしているため、その鎖の長さによって長鎖(ちょうさ)脂肪酸、中鎖(ちゅうさ)脂肪酸、短鎖(たんさ)脂肪酸と分類されます。短鎖脂肪酸は炭素(C)の鎖が短く、炭素の数が2個から4個までのものを指し(7個までを含める場合もあります)、代表的なものに酢酸(さくさん)、酪酸(らくさん)、プロピオン酸などがあります。

短鎖脂肪酸がなぜ私達の健康に不可欠な存在かというと、短鎖脂肪酸のおかげで私たちの体内の炎症を抑えたり、上皮細胞の修復を助けてくれたり、神経に作用して満腹感を感じることができる、などの作用があるからです。

酢酸が、大腸菌O157による炎症を抑えたという研究報告や、脳に作用して満腹感を感じる情報がでたりすることが報告されています。

プロピオン酸によって脂質代謝が活性化することがわかっており、母体の腸内細菌がプロピオン酸を産生することで胎児が生まれた後に肥満になりにくくなっています。

酪酸は、大腸のエネルギー源となり、炎症を抑える白血球を活性化し、腸内の酸素の濃度を調節することで細菌叢のバランスを保つ働きをもっているようです。

これら短鎖脂肪酸には、内臓脂肪の蓄積を抑制したり、基礎代謝を上げる作用があることも示されています。

短鎖脂肪酸を増やすには食物繊維をたくさん摂ることが大事

短鎖脂肪酸は、わたしたちが食物繊維をたくさん摂ると増えることがわかっています。というのも、短鎖脂肪酸を作り出す菌たちは食物繊維をエサにして増殖するからです。

ところが、現代の日本人は男女ともに、どの年代でも、食物繊維の摂取量が足りないのです。2020年の栄養摂取基準で、日本人が摂るべき栄養素の量を定めるにあたり、本当は1日の食物繊維の摂取量の目安の値を24gとしたかったのですが、実際の日本人の食物繊維摂取量は1日に15g程度なため、目標が高すぎて実現ができないだろうと委員会の先生たちが判断し、18gが一日に摂取すべき食物繊維の量となっています。1970年代の日本人の一般的な家庭料理では目標の食物繊維量がとれていたのですが、令和の現代では大きく不足しています。それは加工食品の摂取が多かったり、野菜の摂取量が減少傾向にあることも背景にあります。わたしたちは日々の三食の食事の中で、食物繊維をしっかり摂るように心して努めないと、健康をつくれないのです。食物繊維をより摂っているひとほど総寿命が高いことや、認知機能を維持できているなどの研究もあります。

食物繊維をしっかり摂ることで、腸内環境全体を改善し、腸内微生物の中で善玉菌を増やし、短鎖脂肪酸も増やせるのです。それにより、腸脳相関で認知症リスクを抑える、腸皮膚相関で皮膚の状態もよくできる、脂質代謝を改善し動脈硬化や心血管疾患のリスクを下げる、そして肥満の抑制など、全身的によい作用が期待できます。

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伊藤明子

伊藤明子

赤坂ファミリークリニック院長。小児科医、公衆衛生の専門医。同時通訳者。東京外国語大学イタリア語学科卒業。帝京大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科卒業。東京大学医学部附属病院小児科医師。赤坂ファミリークリニック院長。 NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。



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