更年期症状がきつい人ほど必要な栄養素が摂れていない?40代女性の身体の変化と腸内環境に必要なこと

 更年期症状がきつい人ほど必要な栄養素が摂れていない?40代女性の身体の変化と腸内環境に必要なこと
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伊藤明子
伊藤明子
2022-10-21

30代後半から40代にかけて、体の変化を感じる方が多いと思います。一体どんな変化があるのか、それに対して何かできることは?公衆衛生の専門家で医師の伊藤明子(いとう・みつこ)さんに、連載形式で教えていただきます。

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40代女性は「疲れ」「老化」を自覚してクリニックにやってくる?

港区赤坂にある当院はファミリークリニックなので、小児の患者さんだけでなくご家族全員のケアをしており、40代の女性も多く受診されます。お悩みはいろいろですが、疲れる・冷える・肩こりがひどい・会社の健診でひっかかった・お腹の調子がよくない(便秘、下痢、ガス)、ホットフラッシュで汗がでる・イライラする・最近もの忘れがめだって心配、等の訴えが多く、ときに、乳がんのオペ後です、という方もいらっしゃいます。                                        

40代の半ばごろ、ひとによっては40代前半から女性は、のぼせる・やたら汗がでて暑く感じる、いらいらする、動悸・息切れがする、頭痛、などの更年期症状がでやすくなり、その頃から特に「疲れ」や「老化」を自覚して感じる方が多いです。日本女性の閉経の平均年齢は52歳ですが、40代で閉経を迎える方もいます。閉経後には、それまで体内のコレステロールを抑える作用を果たしていた女性ホルモンが急激に減っていくために、LDLコレステロール(「悪玉」コレステロール)の数値が上がって健診でひっかかったり、中性脂肪が高くなり、「動脈硬化のリスクがあがっています」などとコメントを書かれていた、という方が増えます。

更年期症状がきつい人ほど必要な栄養素が摂れていない?

私たちクリニックのスタッフは、ご受診の患者さんほぼ全員のお食事内容を聞き取りして、かつ、血液検査をして、検査結果の数値で、それぞれのお悩みの解決につなげられるように解説と、改善のご提案をしています。更年期症状がきつい方ほど、必要な栄養素を反映する項目が正常範囲を超えて低下していることが多いです。

お食事の聞き取りで女性でよくみられるのが、朝食抜き、またはヨーグルトとフルーツだけ、というパターン。お昼は職場近くでお弁当を買うか、外食、夕飯は遅い時間にやっと自宅で定食風の食事。血液検査で「総蛋白」という項目が低い結果になっている方が多いです。なかには数値のよこに「L(低値)」のマークがついていて、「低たんぱく血症」(病的にタンパクが不足)という方もいます。

また、女性でも肝臓の酵素の数値ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の項目にH(高値)のマークがついている方をよくみかけるのですが、ほとんどの場合、脂肪肝です。シングルの女性でも、パートナーと子どもがいる女性でもお酒を結構飲むという方で診られる現象です。また、やせて食が細い方でも肝臓の数値が異常を示すことがあり、その場合はお酒ではない別の理由での肝機能異常がでます。

さらにフェリチンといって貯蔵鉄の項目が低いあるいは欠乏状態にある方も多いです。

MCV(平均赤血球容積)という項目が95を超えて大きい方も多いです。これはビタミンB群が不足しているがために赤血球が大きくふくらんでしまって、貧血状態にあることを示します。  

そしてビタミンDが低下または欠乏、亜鉛も欠乏または低下している方がとても多く、さらにはEPA、DHAといった炎症を抑える成分の結果もとても低い方が多いです。

腸内環境を整えることはなぜ大事?

女性のカラダと心の様々な不調に「食べ方」が関わっているので、これらの食事内容と血液検査の結果をふまえて、お食事の指導をさせていただき、不足・欠乏しているものについては補充療法の開始を提案します。

食べ方の対策の一つが腸内環境対策です。

食べ物をたべると、まず口の中で様々な消化酵素で消化活動がはじまり、食道を通って胃でさらに胃酸と酵素でたべものを細かくして、十二指腸を経て、約2メートルほどの小腸で栄養成分が吸収されます。小腸に免疫細胞が多数存在しているので、腸は免疫の場としても重要です。そしてさらに、約6メートルの大腸がお腹の右下、右上、左上、左下と大きな角(かど)を四つ曲がりながら、水分の再吸収や腸内細菌の活動を経て、不要成分が体の外にでていきます。

女性は、婦人科系の臓器が下腹部の腸の裏にあるため、男性に比べて腸の動きが鈍くなりやすいです。そのため、便秘が起きやすい、という特徴があります。

わたしたちヒトは、体の表面と内部に40兆個あまりの常在菌がいます。(本当は細菌だけでなく、ウイルスや寄生虫やそのほかの微生物が存在しておりそれらもとても重要なのですが、今回は細菌に着目してお話をすすめます。)腸内には1000種類以上の細菌がいて、わたしたちの免疫や脳の機能も、これらの菌によって影響を受け、むしろ、コントロールされているのです。腸内環境次第で、腸脳相関により脳機能や情緒が左右され、糖尿病や肥満も影響を受け、皮膚も腸皮膚相関で作用されます。

腸内細菌の中でもわたしたち宿主(しゅくしゅ)にとって役に立つ菌たちを「善玉菌」、炎症などをもたらす有害な作用をする菌を「悪玉菌」と一般には呼びますが、実は最近の研究では、ハリウッド映画のように善と悪がはっきり分かれているわけではなく、かつて「善玉」といわれていた菌たちも場合によっては疾患の原因になったり、以前から「悪玉」と思われていた菌がわたしたちを助ける役割を担っていたことがわかったりしており、単純な善悪ではなきことがわかってきていますが、よい作用をしてくれる菌は、短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)という物質を分泌してくれることで役立っているということがはっきりしています。短鎖脂肪酸とは、酪酸、酢酸、プロピオン酸などのことで、これらの短鎖脂肪酸がないとわたしたちは健康を作って維持し増進することができない、それほど大切なものなのです。

健やかな体・心・脳を作り維持して増進するための腸内環境づくりで大切な短鎖脂肪酸。次回、短鎖脂肪酸を増やすには、どうすればいいのかということについてお話しします。

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伊藤明子

伊藤明子

赤坂ファミリークリニック院長。小児科医、公衆衛生の専門医。同時通訳者。東京外国語大学イタリア語学科卒業。帝京大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科卒業。東京大学医学部附属病院小児科医師。赤坂ファミリークリニック院長。 NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。



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