日本初メンズマタニティ養成講座主宰者が思う、男性が妊娠を理解することの重要性とは【インタビュー】
東京都品川区旗の台に店舗を構える「ヨガピラティススタジオ ブルー」にて、2022年6月から新しい取り組みが始動しました。その名も『メンズマタニティヨガ』という、男性ヨガインストラクター向けの養成講座! 今回は、講座開設までの経緯や女性の妊娠・出産に対する理解を深めることの重要性について、スタジオブルー主宰者である髪林靖子さん・同スタジオマネージャーで養成講座発案者の榛村友宏さん・養成講座で講師を務めるヨガインストラクターののぐちかなこさんにお話をお伺いしました。
女性にとって「妊娠・出産」は、その先の人生を変えるほど影響力がある出来事。まだまだヨガスタジオでは女性利用者の割合が多いことから、異性である男性インストラクターも妊娠・出産を通して女性に起こる大きな身体の変化について知る必要性があり、これは妊婦さんに安全なレッスンを提供するためにも欠かせない要素のはずでした。しかし、これまで男女問わず「出産は女性の聖域」と捉えている人も少なくなかったため、本格的に妊娠・出産について男性が学ぶ機会は限られてきました。
そんな背景を覆し、女性も男性も快適なマタニティライフを送れるようにとの願いを込め、この度、男性専用の学びの場が開設されました。
「妊娠は女性だけのもの?」女性に起こる変化を当たり前に男性にも知ってもらうために
―――メンズマタニティ養成講座をスタートするにあたり、きっかけとなった出来事や経緯について教えてください。また、今回のプロジェクトは具体的にいつ頃からスタートしたのでしょうか?
榛村さん:養成講座を担当してくださるかなこ先生と知り合ったのが3年ほど前。お付き合いを通して、加奈子先生のマタニティヨガワークショップを受講する機会がありました。そこで私自身、先生の指導方法に特別な暖かさと人情を感じ、感銘を受けたんです。その流れで、この先ワークショップの枠を飛び出して、マタニティの養成講座を加奈子先生に担当してほしいと思ったのがきっかけです。また、マネージャーという立場から『スタジオブルーでは常に新しい取り組みを発信していきたい』という思いが根底にありました。そこにマタニティ養成講座の要素を組み合わせることを検討していたタイミングで、『男性向けのマタニティ講座があってもいいのではないだろうか?』と思い付いたんです。これが本格的にプロジェクトがスタートした瞬間でした。実現させるにあたっては、半分私自身の『やってみたい!』というわがままから始まった部分もあるので、ここまで協力してくださった代表の髪林と加奈子先生には大変感謝しています。
―――メンズマタニティ養成講座の準備段階で苦労したこと・大変だったエピソードなどがあれば教えてください。
のぐちさん:まずは、今回マタニティヨガに関する内容を伝える相手が、男性であるということ。普段のマタニティクラスは女性の参加者ばかりなので、言葉選びなどの伝え方もあくまで女性向けを意識してきました。例えば、女性だから分かる共感の部分や、同じ妊娠経験者としての体験談などです。ですが、今回は男性向けのため、これまでと同じ伝え方ではダメなのではないだろうか?テキストも手を加える程度ではなく、作り直す必要性があるのではないか?……と、課題が次々に見えてきました。
髪林さん:私は講師視点ではなく、経営者視点の意見になってしまうのですが、やはり、準備段階で周りの方の意見に大きな差があることは強く感じました。『すごくいいね!』という方がいる一方で、『女性の聖域的な部分に男性に踏み込んできて欲しくない』……そんな意見も当然ありました。否定的な意見がある中で新しいことを始めるという点は、私も頭を悩ませることがなかった訳ではありません。ですが、「ジェンダーレス」「ジェンダーフリー」という言葉が少しずつ浸透してきている日本で、イメージの先走りではなく、妊娠・出産を含めた性に関する教養を高めることは大切なことだと思っていたため、メンズマタニティのアイデアが出た時は、ネガティブな気持ちよりも社会全体に向けて講座を通して発信していく必要性の方を強く感じました。
榛村さん:私も発案者という立場である前に、マネージャー目線でメンズマタニティ養成講座に向き合わなければいけませんでした。加奈子先生が素晴らしマタニティヨガ講師であるからこそ、私がメンズマタニティにお誘いしたことで、批判の対象にならないようきちんと守りながらプロジェクトを進めなくてはいけないと思ったんです。
コロナ禍でも対面授業で学んでほしい理由
―――新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン授業のみでヨガインストラクター資格を取得できる養成学校も増えました。今回のメンズマタニティヨガ養成講座もオンラインに対応していく予定はあるのでしょうか。
榛村さん:6月にスタートした講座は、第一回目ということもあり手探り状態そのもの。今回は、完全対面授業で資格取得を目指していただく形を取りました。コロナ禍に入ったとき、どのスタジオよりもいち早くオンライン授業を適用したのがスタジオブルーだったのですが、今後も世界情勢に合わせた臨機応変な対応をしていきたいと思っています。状況によっては、オンライン授業の導入も検討する必要性があるかもしれません。
―――コロナに関係なく、講座では対面でないと伝えることが難しい内容も多いのでしょうか?
のぐちさん:やはり、直接顔を合わせて話すからこそ学べることや、感じられる空気感みたいなものってあると思うんです。とくにデリケートな妊娠・出産に関する内容の授業であれば尚更ではないでしょうか。メンズマタニティヨガ資格を持ったインストラクターのレッスンを受けにくる妊婦さんが、より安心してヨガをできるようにするためにも、妊婦さんに対面したときのケアの方法やヒントをできるだけ直接お会いして伝えていきたいと思っています。
パートナーのいる成人男性に限らず、学校や企業を巻き込んでいきたい
―――今回はインストラクター業をしている男性限定で受講が可能ということですが、今後講座をぜひ受けてほしい人や年齢層などがあれば教えてください。
のぐちさん:今回は男性で、なおかつヨガインストラクターとして活動している方限定の取り組みであることは確かです。ですが将来的には、企業研修の一環であったり、学校の特別授業の一環であったり……自然と社会に溶け込んでいくような活動の仕方、取り組みをしていきたいと思っています。そのためには、もう少しヨガとは別に噛み砕いた表現への手直しや、伝え方の工夫を施す必要があります。また、社会にマタニティの知識が浸透してほしい背景として、講師を務める私自身が3姉妹の母親であるという個人的な事情も多少関係しているところがあるんです。いずれ娘の夫になる人が、妊娠期の女性の心と身体の変化についてきちんと知ってくれている人だったらいいな〜と。一人の母親としての願望も今回の講座開設に込めさせていただいています。
榛村さん:現在はヨガインストラクター向けの資格として、RYT200(全米ヨガアライアンス200時間)がメジャーとされていますが、それと同じくらいメンズマタニティ資格が世間に当たり前の資格として浸透していってほしいです。
―――メンズマタニティヨガ資格を取得した男性インストラクターのレッスンを受けることで、妊婦さんにどんな気持ちになってもらえたら嬉しいでしょうか?または、男性がマタニティヨガの知識に精通していることで、妊婦さん側が得られるメリットがあればお伺いしたいです。
榛村さん:例えば、ヨガ業界ではしばしば、妊娠をきっかけにヨガスタジオを休会したり、レッスンに関する相談を受けたりする場面があります。そのとき、その生徒さんから『女性の先生はいますか?』と言われることは少なくありません。もちろん、相談するなら同性のインストラクターが良いという気持ちはわかります。その現状を変えることはすぐには難しかもしれませんが、いずれは今回スタートする養成講座を通して、男女関係なく『マタニティヨガの知識を持っているインストラクターがいるスタジオ』という点に安心感を得てもらえるようになっていくのが目標であり、妊婦さんに感じてほしいメリットの一つです。
のぐちさん:妊娠中って、男性の行動や発言に対して『いや、そういうことじゃないんだよね…(イラッ)』ってヤキモキすることってあると思うんです。男性側が悪気なく声をかけてきたり、問題に対するアドバイスをしてくれたりしていることは、頭では分かるんですけど『そうじゃない感』をどうしても強く感じてしまう。これは、妊娠中の女性は特に多く経験しているのかなと思います。そういう場面に遭遇したとき、女性の気持ちに適切に寄り添う方法や声がけの仕方、言葉選び的なことを男性にも知っていてもらえたら嬉しいですよね。
例えば、女性同士で集まったとき、「私はただ話を聞いて欲しいだけだったのに、うちの夫が上から目線でアドバイスしてきてさ〜」とか。そういう会話ってよくあるのではないでしょうか。でも結局のところ、これって女性同士で会話しているだけでは、根本的な男性側の状況や対応は永遠に変わらないんですよね。今回のメンズマタニティヨガ講座をきっかけに、妊娠を通じて変化の多い女性の気持ちを理解してもらい、男性も女性もお互いに快適に過ごせる環境を広めていきたいと思っています。妊婦さんだけにメリットがあるのではなく、それを支える男性も巻き込んでメリットを感じでもらえるよう頑張りたいです。
妊娠中の女性にとって、なにが嫌で、なにをして欲しいのか。例えば妊娠中、腟ナラが出たり尿もれしたりするのに、何も知らない男性から悪気なく突っ込まれたりすると『デリカシーがないな』と嫌悪感を抱いてしまうこともある。そんな風に女性たちが『男性がこうあってくれたら嬉しいのに』『こんな時は、そっとしておいてほしい』みたいな、痒いところに手が届く寄り添い方を知ってもらえる講座にしていきたいですね。
結果的に、男性ヨガインストラクターが所属するヨガスタジオであっても、妊婦さんがストレスを感じることなくレッスンを受けに来ることができ、男性インストラクターもよりやりがいを感じることができる。そんな風にマタニティに関わる人々が、少しでも快適に過ごしてもらえるようになったら嬉しいなと思います。
マタニティヨガを通して男女の相互理解を深める手助けに
―――これからメンズマタニティ養成講座がどんな風に発展・浸透していくのか楽しみですね!では最後に、新たな取り組みであるからこそ、男女の壁を感じてる方もいるかと思います。また、マタニティヨガを学ぶことに興味がある男性の他、自分自身がこの先妊娠するかもしれない女性も注目していることと思います。そういった方々にメッセージがあればお願いします。
のぐちさん:今回プロジェクトを進めるにあたり、私自身も周囲からさまざまなご意見をいただきました。協力したいという声の他に『別に男性に知ってほしいと思わない』という意見もありました。理由を聞くと、男性インストラクターに上から目線でアドバイスされたくないといった声もあったんです。そういったご意見も、すごく理解できます。だからこそ「知識はひけらかすものではなく、理解を深める礎となるもの」という点を改めて伝えていきたいと思っています。あくまで、マタニティヨガを通して男女の相互理解を深めることが目的であることは忘れてはいけないと思っています。
髪林さん:現代はとても個人社会であり、ユニークさも発揮しやすい環境であるゆえに、個人的にはもっと泥臭く人間同士が触れる機会があっても良いのではないか?と感じています。対話することで理解し合える良さってあると思うんです。女性も男性も性別の枠にとらわれることなく、呼吸の大切さとか塞いだ気持ちを楽にする方法とか、みんなが知るべき情報の提供を心がけていきたいですし、今回のメンズマタニティヨガ養成講座はそれを実現する第一歩だと思っています。
榛村さん:今回の取り組みは、ほんの始まりの一歩に過ぎません。この先、資格を取得したから終わりではなく、メンズマタニティヨガを教えることのできる先生の育成まで関わっていきたいと思っています。それに伴い、現在のヨガ人口に対する男女比率を、ゆくゆくは5:5まで持っていきたい。男性ヨガインストラクターもどんどん増えてほしいですし、RYT200を受ける前に、まずはメンズマタニティヨガ資格に挑戦してみようと思ってもらえるような雰囲気になってくれたら嬉しいですね。
髪林さん:難しい知識を抜きに、男も女も全員女性の身体から生まれてきますよね。そのルーツに対する理解を今一度深めるきっかけが必要なのではないかと感じています。自分がどうやって生まれてきたか、お母さんのお腹の中でどんな風に過ごしてきたかって、出産を経験する女性の方が知る機会がどうしても多くなると思うんです。その点を、男性が同じくらい理解を深めることが当たり前になれば、もっと心と身体のつながりや、ヨガに通じる心のバランス力、調和に関する理解も深まると思います。男性と女性の違いを認めた上で、理解し合うことで本当の調和が生まれるのではないでしょうか。
出産は人生の一大イベントであり、自身の身体を酷使して子供を産むことができるのは女性のみ。ですが、出産当日までのマタニティ期間を過ごす中で、男性側の的確なサポートがあれば、もっと充実したマタニティライフを送れる妊婦さんが増えるかもしれません。
メンズマタニティヨガ資格をもつインストラクターが増えていき、性別の垣根を超えてお互いの心と身体への理解が深まる……そこから調和が根付く社会づくりへの大きな一歩に、注目が集まっています。
お話を伺ったのは……のぐちかなこさん
大手ヨガスクールにて全米ヨガアライアンスの講義 (RYT200/RPYT85)及びヨガレッスンを年間1,000時間以上担当。2018年に独立し〈あんどYOGA〉を立ち上げる。現在もヨガインストラクターの養成に携わりながら、特に産前産後に関するヨガや新米ヨガインストラクターサポートに力を注いでいる。オンライン講座も多数開催中。プライベートでは三姉妹の母。あだ名はかーちゃん。
榛村友宏さん
「studio blue 旗の台」マネージャー。ヨガ講師E-RYT200、整体師、推拿療法士、心理カウンセラー、プロアスリートメンテナンスセラピスト、アロマセラピスト。
髪林靖子さん
ヨガ・ピラティス「studio blue 旗の台」主宰。ルルレモンGINZA SIXアンバサダー。
メンズマタニティ講座について
開催日:2022年6月25、26日、7月2、3日(9:00〜14:00)
場所:スタジオブルー旗の台(東京都品川区旗の台4丁目7-2)
受講料:第1期開催特別価格 ¥89,000(税込)
問合せ:スタジオブルー旗の台
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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