【医師監修】朝起きられない、目眩…思春期の子どもに見られる「起立性調節障害」症状とよくある誤解

 【医師監修】朝起きられない、目眩…思春期の子どもに見られる「起立性調節障害」症状とよくある誤解
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朝起きられない・立ちくらみ・頭痛などの症状が見られる「起立性調節障害」について、よくある誤解や学校に望む対応、保護者として気を付けていたことを、起立性調節障害ピアネットAlice代表・塩島玲子さんに伺いました。

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「起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation=OD)」を知っていますか。ODとは自律神経のアンバランスにより不調が生じる身体疾患で「朝起きられない」「頭痛」「立ちくらみ」「目眩・吐き気」「動悸・息切れ」等の症状が見られます。小学校高学年から中学生といった思春期の頃に発症する傾向が高い病気で、不登校の子どもの約4割に該当するとも言われています。朝や午前中は症状が強く出る一方で、午後からは回復が見られることも特徴で、「怠けている」「サボり癖」「夜ふかししているだけでは」といった誤解も珍しくありません。

居眠り
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ODの症状の原因は自律神経の調節が上手くいかなくなることです。通常は起き上がったり立ち上がったりする際に、下半身に血液が溜まるのを防ごうと機能しますが、ODの場合、その機能がうまく働かず血液が脳まで十分に届かないため、身体にさまざまな不調が生じます。

筆者も約20年前の小学校高学年の頃、特に寒くなってきた時期に、朝身体を起こすと目眩がしたり、集会の間に立っていると気持ちが悪くなってしまったりという症状に悩まされ、かかりつけの小児科医を受診したところ、ODの診断を受けました。

当時はODの認知度は高くなく、担任教師から“よくある誤解”のまなざしを向けられました。現在ではODの認知度が高まり、メディアでODを取り上げられることも増えてきましたが、依然として当時と同じような誤解を持たれることはあると聞きます。

神戸市を拠点としてODの子どもと保護者の支援活動をする「NPO立性調節障害ピアネットAlice」の代表・塩島玲子さんも、約20年前にお子さんがODを発症し、周囲の理解が得られなかったことや、お子さんとの向き合い方に悩んだ経験をお持ちです。塩島さんに当時の経験や保護者としてどう対応すべきかお話いただきました。

「怠けている」「サボり」よくある誤解

——以前はODについて「怠け癖」「早起きしたくないだけ」といった誤解をされることが珍しくありませんでしたが、その状況は改善されているのでしょうか。

医療現場ではガイドラインが広まったことによって、街のクリニックの小児科医の先生にも認知が広まりました。学校でもODの名前を知っている先生は増えている実感はありますが、症状や対応まで深く理解を得られているかというと、学校や先生によって温度差を感じます。20年前と変わらないような誤解を受ける場合も見られ、本人の心身の辛さになかなか寄り添ってもらえない状況がさらに本人を苦しめています。

また症状そのものは知られても、人によっては何年も症状が続き、進路等人生を左右する場面に直面することもあったり、思うようにできずに自信を失う可能性があったりすることなど、問題の深さはまだまだ知られていないと感じます。

悩み
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——ODは認知されつつあるなか、なかなか深い理解まで及ばない原因はどこにあると感じますか。

一つは不登校の児童生徒のうち約4割がODともいわれているのですが、「体調が悪くて学校に行きたくても行けない」という事実を、どの学校にもどの先生にも理解していただきたいと思います。

二つ目に、ODは目に見えない病気でありますし、朝や午前中は体調が悪くても午後から元気になる特徴があります。私自身も息子がODを発症したばかりの頃は、夕方には元気になる息子を見て「朝あんなに具合が悪そうだったのに……」と正直困惑しました。家族等、身近にいる人間でも病気だと理解するのに時間がかかりますので、周囲の人たちがすぐに理解するのは困難だと思います。

また、学校としては「登校してほしい」のですが、起立時に自律神経の調節がうまく働かず、朝起きることができない状態であるのに「気合いの問題」であるとか、「根性でなんとかなる」という誤解が根強くあるということも、理解が進まない要因の一つではないかと思います。

——思春期に発症しますので、学校の対応は重要な要素の一つであると感じます。塩島さんが保護者として学校の対応で困ったことや、逆に嬉しかったことはありましたか。

約20年前ですので本当に理解がなく、学校から「いい加減、踏ん切りつけてもらえませんか」と言われたこともありました。具合が悪い子どもにどう踏ん切りをつけるよう働きかければよいのだろうと困ってしまいましたが……。

一方、中学校3年生のときの担任教師は登校刺激(「学校に来なさい」と言うなど登校を促すこと)をしなかったのでありがたかったです。週1,2回ほど訪問してくださり、他愛のない雑談の中で子どもの様子を察してくださいました。「学校に来てください」の圧力を感じさせない雰囲気で嬉しい対応でした。

——ご自身の経験や他の保護者の方の話を聞いたうえで「学校でこういう対応が広まったら」と思うことはありますか。

ODという病気を理解したうえで、入りやすい学校やクラスの雰囲気を作っていただきたいです。先生も「よく来たね」と言ってくれる先生もいれば、「今頃来たのか」と責めるような発言をされる先生もいますが、声かけ一つで子どもが安心して行けるかどうかが変わってきます。

また、現状多くは「個人の問題」として一対一の対応で止まってしまっていますが、本人・保護者の同意をとったうえでクラスにODの説明をしていただき、学校に行けるときに教室に入りやすい雰囲気作りをしていただけると、本人も安心して登校できます。そして「行きたくても行けない」という身体症状を抱える起立性調節障害の子どもへの正しい理解と、子どもの気持ちを理解していただきたいと思います。この辺りは学校ごとの温度差が大きいので、対応が統一されたらと思います。

子どもの心
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保護者が安心するために選択肢を知る

——お子さんがODを発症されたときの経験と、塩島さんがどのように感じていたかをお話しいただけますか。

息子は小学校5年生で発症しました。最初は街のクリニックにかかったのですが、当時は医者でもODを知らないことは珍しくなかったので「様子を見ましょう」とだけ言われて。心配だったので総合病院にも行ったところ、血圧を測定され「起立性調節障害」の診断を受けました。血圧を上げる薬を処方してもらったらときどき休むことはありつつも、改善されました。

中学校に入学し、元気に通学していたので完治したと思っていたのですが、中学校2年生の2学期に再び症状が強く出始め、全く学校へ行けなくなりました。当時は私も仕事をしていたので、息子の体調は心配だけれども自分も仕事へ行かなければならず、3、4ヶ月は学校に行かせたい私と、学校に行きたくない息子の戦いでした。暫く症状が出ていなかったのでODだと思っておらず、なぜ学校に行かないかも最初は理解できませんでした。

その後改めて総合病院を受診しODの診断を受けたのですが、それでも私自身に「学校には行かなければならない」「子どもは学校に行くもの」といった考えが強く、当時は息子に辛い思いをさせたと思います。4ヶ月ほど学校に行かせようと奮闘していたのですが、ふと「私が学校に行かせるよう働きかけるだけではなく、子どもの歩みに寄り添い応援することもできるのではないか」」と思い、息子にも「もうお母さん何も言わないから」と宣言をしました。

それでも最初は「進路はどうなるんだろう」「いつ治るんだろう」と不安でいっぱいで、ときどき学校に行かせたい気持ちが湧いていました。でも定時制や通信制の学校の存在など、子どもに合った様々な進路を知ったり、「学校に行けなくてもなんとかなる」と言ってくれた友人がいたりして、少しずつ「子どもと一緒に歩もう」という気持ちにシフトしていくことができました。選択肢を知って「子どもに道はたくさんあるし、自分の未来を目指す力を必ず持っているから大丈夫」と自分に言い聞かせることで親の不安は軽減されると思います。こういった「見えない確信」を持つことを心がけていました。子どもが今学校へ行くことができなくても、親の気持ちの安定・安心を感じることは、子どもを応援していくために必要な要素だと思います。

その後、息子もリラックスして家で過ごせるようになったようで、私が仕事へ行っている間に小麦粉でうどんを打っていたこともあって。学校へ行けなくても、何か考え、行動していることを知って驚きました。将来は調理師の道?と、こっそりと調理師免許の取れる学校を調べたこともありました。子どもは、親の知らない力を秘めていることを知ることで私自身が親として成長できたように思えます。

進路を決める際に担任教師から「不登校の子を受け入れる体制を作ります」と明言していた学校の紹介を受け、息子が興味を持ったので見学に行き、受験して合格しました。受験した当時も体調がよくなく、全日制だったので、進学しても通学できるかどうかはわかりませんでしたが、私としては不安はありませんでした。「たとえ通えなくても必ず道はある。その時が来たらまた息子と進路を探していけばいい」という気持ちになっていたんですよね。

すべて息子に任せると決めた高校初日からなんとか朝起き、毎日通学、アルバイトもして結果的に無事卒業できました。卒業後は専門学校に進学し、今は整備士として働いています。我が家の場合は、息子のペースで過ごせた時間がしっかり持てたことで身体と気持ちが整い道を切り拓いていけたのだと思います。

——息子さんとの会話で気を付けていたことはありますか。

指示・命令言葉を使わないことの徹底や息子の生活を細かく把握することなど、過干渉を一切止め、今できないことも含めて息子を丸ごと受け止め認めるよう努めました。「このテレビおもしろいね」「今日は寒いね」「ご飯何食べたい?」といった他愛のない日常会話はたくさんするなか、特に気を付けていたのは子どもができていないことを指摘せず、してくれたことに感謝することです。例えば、今日の体調や今日何していたかを聞いたところで私は納得するのですが、息子にとっては「余計なお世話」なんですよね。「親の期待に応えないと」と思わせないよう本人のペースでリラックスできる環境で過ごせることや、家の中でも役に立てているという気持ちが持てるよう心がけていました。

親子
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子どものためにも「母親」の辛さを取り除く

——「NPO立性調節障害ピアネットAlice」の活動について聞かせていただけますか。

私自身は息子を無理やり学校へ行かせようと奮闘していた4ヶ月が一番辛い時期でした。多くの保護者は子どもが学校に行けなくなったことに戸惑うと思いますし、学校に行かせたいと思う方も少なくないと思うのですが、当時を振り返ると、子どもにとっても親にとってもそういう期間は子どものために短い方がいいと思います。

起立性調節障害をテーマに開設していたブログで活動に参加してくれる有志を募り、まずODの認知度を高めるために「起立性調節障害をご存知ですか?」というパンフレットを作成し、学校や親戚に配りました。その後、2008年4月1日に任意団体のNPOとして運営を始め、現在は勉強会や講演会の開催、学校での出張講座、親の交流会等を行っています。今年4月で14年目に入るのですが、今では全国から親の会に参加する人がいたり、活動を支援しながら地元にノウハウを持ち帰り、親の会を立ち上げたりするなど、活動は各地に広がっています。

私たちは親同士対等な関係で悩みを語る場も月2回ほど開催しています。親同士の対話を大切にしている理由は「お母さんの辛い気持ちを解放して笑顔を子どもに向けてほしい」という思いがあるためです。私の息子がODを発症した頃は「育児は母親の仕事」という固定観念が強かったですし、現在では分担が進みつつも、まだ家庭内のことや子育ては母親に負担が偏りがちです。

家庭内の問題は家族で抱え込みやすいと思いますし、「母親の育て方が悪いから」と周囲から責められること、日中近所の人が訪問したら、学校に行っていないことを気づかれたくないために子どもの通学靴を隠すこともある、といった話も伺います。

お母さん自身が辛くなるとつい思いがあふれてしまい、子どもへの圧力がかかりやすくなってしまう場合もあると思うんです。ODがきっかけで家庭内が混乱してしまうといったケースも少なくないと聞きます。「病気になるは誰のせいでもありません。病気が回復したら育ってきたようにまたしっかり歩みだします。一緒に進んでいきましょう」という気持ちでいますし、お母さんを孤立させないための活動が必要という使命感があります。

親の会では、「朝起きられない」「朝食を食べられない」「夕方になると元気になってくる」「勉強しない」「ゲームばかりしている」などが“あるある”です。「うちだけじゃない」と思ってもらえることでお母さんが安心でき笑顔で家に帰ってもらえたら、お子さんにとっても良い影響をもたらすのではないかと思っています。

 

プロフィール

塩島玲子(しおじま・れいこ)

NPO起立性調節障害ピアネットAlice塩島玲子様
NPO起立性調節障害ピアネットAlice塩島玲子様より

NPO起立性調節障害ピアネットAlice代表。2008年4月1日に任意団体のNPOとして当団体を立ち上げる。活動内容は勉強会や講演会の開催、学校での出張講座、SNSでの活動報告、親の交流会、個別相談など。

起立性調節障害ピアネットAlice 公式HP(http://pianetalice.mogmog.co/index.html)

医師監修/佐藤瑠美先生
内科医として朝倉医師会病院に勤務。医学博士、内科認定医、総合内科専門医、感染症専門医、感染症指導医、呼吸器専門医、呼吸器指導医、アレルギー専門医、化学療法認定医、化学療法指導医、抗酸菌症認定医、抗酸菌症指導医、インフェクションコントロールドクター、肺がんCT検診認定医

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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